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63話 石蹴り遊びと発見

 夕方になった。


「アレクといっしょに、お風呂。お風呂、お風呂……」


 ロキシーと手を繋いで、館の最近できた大浴場に向かって廊下を歩いている。


 一歩進む度にガラガラと音がする。水に浮くおもちゃがいくつか入った木桶を、反対の手に持っているからだ。あれを使って、俺と一緒に風呂場で遊ぶつもりなのだろう、ご機嫌で即興歌を口ずさんでいる。

 帰ってきてすぐ風呂に入ったのだが、また風呂に入ることになった。ロキシーに昼寝させようと、子守歌を歌っていたら、俺もうとうとと寝てしまい。その間に彼女に抱きつかれてしまって、2人とも寝汗を掻いたからだ。


 フンフンフンと鼻歌になった。

 見た目は小学生ぐらいだが、精神は幼稚園児ぐらいだなあ。


「ご機嫌だな、ロキシー」

「ゴキゲン?」

 可愛らしく小首を傾げる。


「嬉しい、楽しいってことだ」

「うん。ご機嫌!」


 目を細めて破顔している。


「そうか、そうか。ロキシーは、お風呂好きなのか?」

「ううん。熱いのイヤ! アレクと一緒は好き、一緒に入るの!」

 そう言うのは、この子が何歳までかなあ?


 ……まるで父親の発想になってるぞ、俺。


「そうか! でもな、アンお姉ちゃんとも一緒に入らないといけないぞ」

「うーーん」


「女の子はな、綺麗にしなきゃ駄目なんだ。でないと、俺がロキシーとくっつくの嫌がるかもな」

「ええぇ。ヤダ! 嫌いヤダ! アレクと一緒!」

 一瞬で涙目になる。


「ああ、ロキシーを嫌いにはならないよ。好きか、もーーっと大好きかだよ」


 上目遣いで俺の方を見る。破壊力満点の表情だ……かわいい。


「大好きがいい」

「なら、アンともお風呂に入ること! お返事は?」

「はい! アンと入る!」

「よしよし。良い子だ

 頭を撫でる。

 また手を繋いで歩き出す。


「後は何でも食べて、早く大きくなるの」

 何だと?

「アンがね、そう言ってた」


 早く大きくか──

 俺の都合で、ロキシーの成長を押し留めているんだよなあ。やはり成長速度を戻して自然に帰した方が良いのかなあ。でも俺と離れるのは、思いっきり嫌がるだろうしな。

 どうしたものか。

 手を顎に持って行く。顎に? 手を?


 あっ! 手を握っていない……ロキシーはどこへ行った? 振り返ると、5mほど手前に止まってうずくまっていた。


「どうした? ロキシー。お腹でも痛くなったのか?」

 こっちを見上げる。どうも、そういうことではなさそうだ。


「何か、ここ!」

「ここって、床がどうかしたのか?」

 ここは、珍しく白と黒の市松模様のタイル貼りだ。

 床の意味が分からないのか? そういう表情だ。


「ピリピリ?」


 ピリピリと何か感じるのか? 

 俺が常時発動している感知魔法では特に感じないが……この児は、何を言い出したのかな?

 いや、ちょっと待て。ロキシーは幼な子のようだが、獣人だ。その感覚は、馬鹿にできん。

 上級感知魔法を発動すると、確かに足下に微かに魔法の痕跡のような違和感がある。

 この子は、これを感じ取ったのか!


「ロキシー凄いなあ。偉いぞ」

「えへへへ……」

 良くは分かっていないようだが。頭を撫でてやったし、とにかく褒められていることは通じたようだ。


「同じことがあったら、俺に言うんだよ」

「うん」

「よーーし。ご褒美にいっぱい、お風呂で遊んでやるぞ!」

「わぁぁあい」

 違和感を伝えたことも忘れて、ロキシーは浮かれて歩き出した。


 1時間程、たっぷり遊んで風呂から上がる。夕食を摂って、先程の廊下の場所に戻る。

 この辺りだったな。俺の執務室から、裏手に回った廊下だ。

 

 俺が、この先にあった使われなくなった倉庫を改築して大きめの浴場を使ったので、たびたび通ることになったのだが。改築前の去年までは、館自体余り人が出入りしなかったらしいからな。


 一辺60cm程の白黒のタイルで埋め尽くされた床面を視る。

 そう言えば。ここらは痛みが少ないので、改築とかされていないはずだ。

 しゃがみ込んで、そこを叩いたり摩ったりしてみたが、変化はない。


──ばっちいよ! アレク。


[ばっちいって、アレックス。ユリたちはしっかり掃除してるぞ]


──でも、土足で歩くところだし。


 それはそうだが……でもそうか。アレックスの意識は、こちらの世界の標準的なものだろう。手ではないのか、足?


[アレックス。足だ! 足に何か心当たりはないか?]

──足?


[床に足だ!]

──さあ?……ああっ!


[なんだ?]

──ううん。何でもない。


[良いから、言って見ろ]

──子供の頃の遊びを思い出したの。


[遊び?]

──ケン・ケン・ケン・パ ケン・パ・パ!


 はあ? なんじゃそりゃ?


 ケン・パ? 遊び?

 遊びか。不意に元の世界、自分が子供頃に見た光景が甦ってくる。近いのが有ったような……なんだっけ?

 ああ、石蹴(ケン・ケン・パ!)りか。

 地面にマスを描いて飛んで行く遊び。俺のおそらく数世代前の子供がやってたやつ。

 俺の地方じゃ、案山子のような形を描いて、そのマスに一歩ずつステップを踏んで。一周したら石をマスに投げて進めていく遊びだが。


 マス?

[その遊びとは、マスを描いて飛んで行くヤツか?]

──そうそう


 マス目が始まる廊下の継ぎ目に行ってみる。

 

 なんか継ぎ目から2つ先の白マスにが心なしか汚れているような。

 ここがケンのマスだとすると、ケンで2マス飛ぶのか。パは足を開くから、1マス斜め両側か!

 さっきのフレーズに合わせて追っていくと、最後のパ・パで辿り着く先は。さっきロキシーが蹲ったところじゃないか。偶然とは思えないな。


 ふむ。やってみるか。


──何? 何?

[黙って視てろ]


──もう!


 継ぎ目に戻り。少し助走を取って……飛ぶ! ケン・ケン・ケン・パ ケン・パ・パ!


 最後に着地が決まった!!!


 数秒経過。何も起こらない!

 なんだか猛烈に恥ずかしい。誰も居ないときにやって良かった。


 ギギギ……ん? おわっ!

 足下に違和感を感じて飛び退くと、床が! マス目ごとに陥没していく。


 ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴン!

 音が収まると、大きく下に口を開けていた。

 おおう。手前は浅いが、先に進むと結構深い。


──階段?


 そう。廊下の真ん中に、地下へ続く階段ができていた。


『それにしても流石は聖者。通路だけでなくいくつか仕掛けがあるようだな』

 ここに来た頃。ランゼ先生のつぶやきが甦った。


 これのことだったのか?!

 さっさと教えてくれれば良い物を。


 一段一段下りていくと。突き当たりに扉がある。

 それに触ると、ボウと紋章のようなものが輝き、奥へと開いた。

 

「おおぉう!」

「おおぉう!」


 って、誰?!


 振り返ると先生が居た。

「びっくりするじゃないですか、先生」


「夕食の時から、なにかそわそわしているから、尾行してきてみれば。やっとみつけたか。もう3月も半ばだぞ」

「すみませんね。時間が掛かって。忘れてました」

 自分は入居直後に見付けていたぞってことだろう。



 というか、ここを見付けたのは、ロキシーのお陰だし。


「早く入れ!」

「分かりました!」


 俺は生活魔法の灯火トーチで僅かな明かりを得て中に入る。すると暗がりに慣れた目には目映い照明が付いた。

「ほう。まだ紋章魔法が生きていたか。ふむふむ」


 中は、15m四方ぐらいの部屋だ。入ってきた背後以外の壁は、棚になっていて、夥しい本が収められている。


 部屋の中程はソファセットに、オーブが乗った執務机、少し離れた所に大きな平たい机と、ガラス器具が並んでいる。


「ここは……先生が言っていた、聖者セントサーペントの秘密の部屋ですか?」

「どうやら、そのようだな」


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訂正履歴

2016/8/7 細かく訂正(古いファイルをアップしてしましました)

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