62話 共鳴魔法の副作用
「では、失礼します」
「待て! 話は終わっていない」
ランゼ先生の部屋を出ようとしたら、引き留められた。
「なんですか?」
「共鳴魔法を使った後、気が付いた時、お前が手に持っていたのは何だ?」
「見ていたんですか」
「まあ、無理にとは言わん」
別に隠そうとしたわけではないのだが。
なので──机に置いた。
「なんだ、これは?」
「腕時計です」
「腕……時計だと?」
腕と時計に間があったな。
「こうやって手首に巻いて使うんです」
「ほう」
先生は手に取り、しげしげと見ている。
この世界にも機械時計はあるが、小さくても子供並の大きさがある。腕時計はオーパテクノロジーだ。
「訊きたいことは無数にあるが、また訊くとして──」
そうだよね。
「問題は、お前が何故それを持っているかだ。明らかに、お前が元居た世界の物だろう。お前は、何も持っては来なかったはずだが」
俺自身も、不思議だった。とにかく後で考えようと、先送りしてた。
「何故持っていたかは、俺にも分からないですが。あの時一旦、元の世界に返っていたとか……」
「そうかも知れぬ。仮にそうだとしても、どうやって持ち帰ったかは、謎のままだが」
「確かに……」
「何か憶えていないのか?」
「記憶は無いですね」
「ふむ。そうか。とにかく共鳴魔法を使った時に起こったことだ。また同じ現象があるかも知れぬ。覚悟はしておけ」
この時は、何の覚悟かと思ったが。
「はあ。分かりました」
「それは、それとして……その文字盤、お前が以前書いていた数字と違うようだが」
おお、凄い記憶力だ。
俺がこちらの数字を憶えようとして、対比表を書いた所を見咎められて、えらく叱られたやつだ。そんなこと書いてたら疑われるだろうって! ぱっと見ただけなのに、流石だ。
「以前書いたのはアラビアの数字で、この時計はローマの数字ですから」
「なるほど国が違うのか……で、動力はゼンマイか?」
矢継ぎ早と言うか、えらく興奮している。
「いえ。それは太陽電池ですね」
「太陽…デンチ?」
続けろと言う顔だ。
「太陽光を半導体という物を使って、電力に変換し、それを蓄電池という物に蓄積して使います」
「ふーむ。そんなことが出来るのか……さっき、それはと言ったが、違う方式もあるのか?」
「ええ、先生が言った、ゼンマイも有りますが、主流は電池ですね。そちらは、充電つまり逐次電力は貯められませんが、数年間は動き続けます」
「すごいな……機械や、おまえの言う工学分野は、明らかにそちらの世界の方が発展している。話半分で訊いていたが、本当のようだ」
先生! 信じてなかったのかよ。
まあ俺も見るまで、魔法を信じなかったし、やむを得ないところか。
「何だ、反応が小さいな。そういう時は、ここぞとばかりに威張るヤツが多いが」
「別に……俺が作った訳でも、発明した訳でも有りませんし」
「ふーん」
先生は妖艶に笑った。
「おまえのそういうところ。好きだぞ」
「はあ」
「その薄い反応は、嫌いだ」
「ふふふ………はははは」
先生は、にっこりと笑った。
なんのことはない、俺を元気付けてくれていたのか。
俺も笑顔を返す。
「ところで、アレク」
「はい」
「身体の調子はどうだ?」
唐突だな。
「特に悪くないというより、すこぶる好調です」
「そうか……」
おい。
「いやいや。それで話が終わったら、不安になりますよ」
「仕方ないな。おまえが最近飲んでるポーションだが」
「ああ、あの先生特製の」
「言ってなかったが、少し混ぜ物がしてあってな」
げっ!
無意識に喉を押さえたが、手遅れだ。
「先生。何で先に言わなかったんですか?」
「言うと、飲むのを嫌がるだろ」
「そりゃ、俺だけじゃなくて、みんなそうでしょう。それに、知らずに飲む方がもっと嫌ですが!!」
また人体実験された……。
これも、いまさらか。諦め感が身を包む。
「それで、どんな効能があるんですか?」
「おまえの筋肉増強を妨げるホルモン分泌を抑制する」
えっと、2重否定で分かりづらいが……。
「要は筋肉が付くと言うことですか?」
「いや……」
何だよ、違うのか。
「……だが、そんなに、落ち込むことはない。筋肉量はさして変わらないが、筋繊維の強度が増して筋力は上がるはずだ。結構目に見えて」
そりゃ凄いね。ステータスの体力面の伸びがいいなあとは思っていたが。そういうことか
俺の体型の理想には添わないが、戦闘面では非常に都合が良い。慣性モーメントを上げずにトルクは上がる。つまり角速度が上がると言うことだ。破壊力はその2乗だからな。
「確かに! 実感があります。身体強化の恩恵かと思ってました。多少の副作用なら甘んじて受けますが、どうなんです?」
「そうだな、副作用と言えば、大喰らいになるな」
「全く問題ないです。他は?」
先生が、ギロっとこちらを睨んだ。
「疑り深いな……」
こちらも睨み返す。
「……後は、性欲が増進するぐらいだな」
やっぱりあるのかよ……。性欲って、なにせ若いしな、今の俺。
元の基準が分からん。
「仰ることが本当なら。あのポーション、別の需要があるんじゃないですか? 年配男性とか」
「金には興味ないな」
「お金だけじゃなくて、多分すごく感謝されるかと」
「若くない男にも興味が無い」
そうだった。ショタ趣味だった。
「はあ……」
「しばらく飲み続けろ。良いな」
「はい」
まあ、他の副作用の兆候が出たら、すぐ止めよう。
部屋を出た。その途端だった。
「ああぁあ!!」
背後から幼女の元気な声だ。振り返ると10m位の所に居る。
「アレクが……じゃない。アレクさ…まが居た!」
呼び捨ては駄目だ! 様を付けなさい。そう、他のメイドに言われているのだろう。
「おお。ロキシー。来い!」
満面の笑みになる。
幼女とは次元の違う速さで、跳び付いた。
ふふふ。筋力が上がっているから、どうということはないぞ。
抱きかかえたまま、ロキシーの部屋の方に歩いて行く。
「別にアレクで良いぞ! 何だ? また、おまえ重くなったな」
「エヘヘ……」
ギュッと抱き付かれる。
「なんだ? 淋しかったのか?」
「うん、ちょっと……アレク良い匂い」
さっき風呂に入ったばかりだからな。
それにしても、良く喋られるようになってきたな。生まれてから1年経っていないのに……それを言い出すと、レダもそうか。先生が何かやっているのかな。
「良い子にしてか?」
「……うっ。うん」
その時、行く手にある部屋の扉が開き、アンが出てきた。
「ああ、ロキシーちゃん! アレク様。お手をわずらせまして」
「いや、別に良いぞ」
「ありがとうございます。お昼寝の時間なのですが、逃げられたら絶対追いつけなくて」
「お昼寝、嫌! 遊びたい。アレクと遊びたい!」
「もっ、申し訳ありません。また、様を付けなさいと言ったでしょ!」
「昼寝か……ロキシー。様は要らないが。お昼寝はしないとな。アンお姉ちゃんの言うことを聞かないと駄目だぞ」
「はい」
「良い返事だ。寝付くまで側に居てやろう」
「わーーい!」
ロキシーをベッドまで運び、アレックスに子守歌を歌って貰うと、俺までウトウトしてしまった。
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現時点でのステータス
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アレックス・サーペント
・基本
人間:男性16歳
位階 : 貴族(子爵)
婚姻 : 未婚
・状態
クラス: 魔法師 レベル45
生命力: 2800/ 2800[-]
体力 : 810/ 810[-]
魔力 :21720/21720[-]
素早さ: 380/ 380[-]
精神 : 8150/ 8150[-]
異常 : なし
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・スキル
剣技:LV29 槍技:LV15 弓技:LV30
乗馬:LV19 回避:LV30 索敵:LV54
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火炎 / 炎弾 / 焔陣 ─ 熾焔陣 / 爆焔
烈風 / 風壁 / 気弾 ─ 潰榴弾 / 旋風
水流 / 御祓 / 水礫 / 水斬 / 豪波
土槍 / 土銛 / 版築 / 長城版築 / 縮地
地蜘蛛 改
回復 / 強壮 / 謳歌
解毒 / 治癒
詠唱短縮 / 無詠唱 / 瞬間発動
結界
獣懐柔 / 獣操縦
身体強化 / 身体活性 / 金剛
魔鑑定(初級) / 魔鑑定(低級) / 魔鑑定(中級)
魔収納 / 魔収納(拡大) / 魔収納(高遮断)
魔感応(上級)
・称号
聖者の曾孫
討竜魔法師
亜神狩人
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