61話 帰還
園外演習が終わり、結果的には俺達アレクズは、減点0で同率優勝になった。
表彰式などは、来週ということで、一旦学園に寄って、屋敷に帰ってきた。演習は2年の魔法科だけなので、フレイヤはまだ学園にいる。
「お帰りなさいませ。アレク様」
麗しい笑顔で、出迎えられる。
「ただいま。ユリ!すぐ風呂に入りたいが」
「もちろん。ご用意できております」
「じゃあ、一緒に入ろう」
「はい」
嬉しそうに、いそいそと付いてくる。
脱衣所に入って着ている物を、全て脱がして貰う。
俺の服を洗濯に回すため、珍しくアンが入って来た。ちょうど俺が全裸になった所だ。まじまじと見ている。
「なんだ? アン。一緒に入りたいのか?」
「えぇぇぇえ? あっ、ああ。いいんですか?」
「またにしなさい」
ユリの穏やかに拒絶する。
「はっ、はい。しっ、失礼します」
アンがせかせかと焦って出て行った。
「アレク様。からかっては可哀想です」
「俺の裸をガン見するからだ」
フフッと笑った。
フウゥゥーーー。良い湯だ。
王都の水は柔らかいな。首まで使っていると……。
「では、少々お待ち下さい」
ユリが、浴衣に着替えようとしている。
「ユリ。何も着なくて良いぞ」
「まあ……ふふふ」
前に手拭いを当てて、ユリが浴室へ入ってきた。
少し紅潮してるところが初々しくて良いなあ。
「ユリも入れ!」
「はい」
桶で前に湯を掛け、手拭いを畳んで立ち上がる。
ううむ。何度見ても素晴らしい体型だ。
「少し前に詰めて下さい」
「ああ」
そう答えつつ、最小限しか開けてやらない。
浴槽を跨いで、背後に入ってくる。
躰が否応なく密着し、ユリのいろいろな部位が俺の背中を擽りながら、身を沈めた。
ざーっと湯が溢れる。
そのまま抱きついて来た。
おおう、肉悦肉悦。
「此度、ユリは淋しゅうございました」
「俺もだ。たった2日間だったがな」
「何倍にも感じました。ご無事でお戻り大変嬉しいです。危ない目には遭いませんでしたか」
「ははっ。学園の演習だぞ」
「そうですが……」
「まあ、仲間も居たしな」
「そっ、それが逆に心配で」
「ははは、愛いヤツ。可愛がってやろう。前に来い」
「キャッ。ああ……アレク様」
◇
さっぱりしたあと、軽く遅めの食事を済ませ、先生の部屋に行く。
「早速、お楽しみのようだったが」
「はい。ユリとは暫くご無沙汰でしたので」
ソファに座る。
ふん。先生は鼻を鳴らした。
恥ずかしがらないのが不満らしい。
「私の方も、間が開いているぞ?」
どこまで本気なんだか?
「では、そのうち」
「つまらぬ。それはともかく……手を出せ」
出した俺の手を握る。
ステータスのチェックのようだ。
「ほうぉ。あれだけの魔獣を斃しても、レベルはそんなものか。お前も成長したものだ」
結構経験値を稼いだのに、ステータスが上がらない。つまり、レベルが高くなってきたということだ。
「それから。特に身体に異常は無いな。お前が気を失ったときは、かなり驚いたが、先ずは良かったな」
「はい」
「あの娘達も、良く手懐けていたしな」
手懐けるって。ペットじゃないんだから。
「1人は召喚魔法師だったし、中々の成果だ。お前は自分の容姿をさほど重視していないが、こういう所で効いてくるのだ」
分かっていないわけではないのだが。素直に認めたくない。
「はあ……」
「ところで、デミ・サイクロプスを斃した熾焔陣だが、ハーピィの時とは段違いだったが?」
「……」
「何か見たのか?」
「俺の額から何か滲み出て……アレックスになって。向かい合って魔法を放ち……」
「やはり……再受肉」
「再受肉? ……先生?」
先生の端正な顔が、崩れるように一際歪む。前屈みになって、長い黒髪がバサッと覆い被さる。部屋が一層昏くなった。丸まった背が、小刻みに揺れている。
禍々しさを感じて、背筋が凍る。
「ふふふ……ははは。そうか。ついに発動したか!」
心底嬉しそうな箍の外れた笑顔──狂科学者の本性が出たようだ。
「待っていたぞ。この時を!! 私が、お前に─いや、お前達に求めていたもの──共鳴魔法がついに発動したのだ!」
あからさまな興奮具合だ。
「共鳴──魔法?」
「そうだ!」
先生の説明が始まった。
魔法共鳴とは、一言で言えば法力が異常に高まる現象のことらしい。
一般に法力と言っているのは、魔法複素インピーダンスの逆数だ。その複素なんちゃらは、簡単に言えば、魔法が発動するときの抵抗のようなもので、小さい方がより強力な魔法が使える。
話が長いので端折ろう。
魔法複素インピーダンスは、1人の魔法師でも魔法の属性によって異なる。属性によって魔法周波数が違うからだ。だから、どの魔法師にも、非常に少ない魔力で発動できる魔法が存在する可能性がある。
しかし、実際にはそのようなことは起こらない。周波数に揺らぎがあるからだ。
そこで共鳴だ。
複数の魔法師が厳密に同時に魔法を発動させれば、それがどのような魔法周波数であっても、魔法複素インピーダンスをごくごく小さくできる。
それによって、僅かな魔力で強力な作用力を得ることができるのだ。
つまり共鳴魔法とは、強大な法力を備えたと同義となる。
そう言うことならば、大体分かる。
無論、それができる魔法師の組み合わせは、非常に稀だ。
俺とアレックスだ。
「共鳴すると言うことは、複素共役関係にあるということですね」
「ああ……」
「しかも、どのような周波数でもと言うことは、俺とアレックスが特別な関係、魔法複素インピーダンスの係数が対称関係だと言うことですね」
面白い!
「ほう、驚いた。この問答に付いてこれるとはな」
──私も訳しているけど、ちんぷんかんぷんなのに。流石数学は学年1番!。
[別に大したことない。電気工学を少し学んでいれば類推できることだ。LC共振とかの概念だ]
「ん? アレックスか?」
勘が良いな、先生。
「はっ?何がですか?」
「なんだ違うのか……」
先生の部屋に最初に行った時の、謎の発言が甦ってきた。
『話を戻そう。アレクがアレックスに完全に同化してしまっては、意味がない。つまりアレクの要素を残す必要があったのだ』
まさか……。
「先生。俺とアレックスが複素共役体になったのは、先生の操作によるものですか」
「いや、必然だ……迎魂した際に依り代となった物の複素魔法インピーダンスは、等値になるか共役になる。先に言っておくが、お前を共役体とするために、私がアレックスを死の病に追いやったと言う推理は的外れだ」
──うん。それは無い。
[本当に無いのか?]
──私が、断食し始めて弱っていった時に、それはそれは丁寧に看病してくれたしね。
[わかった!]
「では効きますが、アレックスが病気にならなければ、どうやって共鳴魔法を?」
「レダを共役体するつもりだった!」
「あなたって人は……」
「残念ながら、人ではない」
ふん、いまさらか。
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端折った部分
魔法複素インピーダンスは、実数定数項α、虚数比例項β、虚数逆比例項γの3種の係数パラメータで決まる。
大小関係的には、|β|>>|α|、|γ|>>|α|だ。
係数の組み合わせによって、どの魔法周波数でその絶対値が小さくなるかが変わる。
魔法複素インピーダンスが小さくなるのは、魔法周波数fとすると、|βf-γ/f|が小さくなるときだ。この式はf高ければβが効き、低ければγが効く。つまりβとγが決まっているので、魔法複素インピーダンスが小さくなるf、つまり魔法周波数も決まっていると言う意味だ。
つまり、3種のパラメータで、どの魔法が発動しやすいかが変わる。魔法師に得意な魔法属性があるのは、この所為だ。
ランゼ先生の観察に拠れば、優れた魔法師とはαの絶対値が小さい。ただ、その場合でもβかγの絶対値のどちらか大きい。
つまり、使える魔法の規模には限界があると言うことだ。しかも、魔法周波数も使う度に、揺らぎがあるから、常用はできない。
そこで共鳴だ。
要は複数個体で周波数を同調できると仮定すると。
複素共役関係で有れば虚部が0となり、魔法複素インピーダンスはαとなって小さくなる。
さらに、いかなるfでも共役複素関係であるためには、係数がα1=α2,β1=-β2,γ1=-γ2であれば良い。魔法複素インピーダンスは、α1+α2+j{(β1+β2)f+(γ1+γ2)/f}となり(jは虚数単位)、小括弧の中はいずれも0なので、=α1+α2となって、fに依存しなくなる。
これが、俺とアレックスが特別な関係、魔法複素インピーダンスの係数が対称関係ということだ。
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