59話 園外演習(8) 共鳴
「臭ーーい」
エマが顔を顰めた。
風上の魔獣から生臭さが届いてくるからだ。
それにしても、この少女の落ち着きは何だ? 横のビアンカがガチガチ歯を鳴らしているのに。
ウチの練兵場で、そして、演習林でレベルアップはしたが。それだけではなさそうだ。
彼我の距離50m程。
人型と4つ脚の魔獣2体。
真ん中の身長が尋常ではない。
雲間に隠れていた、月明かりが差し、敵が露わになる。
「デミ・サイクロプス……」
3mを超える巨人だ。
明灰色で筋骨隆々の身体。深い眼窩に大きな目──。
言ったビアンカはそのまま絶句。
途轍もない殺気だ。
神では無いが、亜神族と言うらしい。頭痛なしで教えてくれる。
デミ・サイクロプスの魔獣階位は、ガーゴイルと同じ、単体で4だ。
「非常事態を宣言! 各自の使用魔法制限を解除する!」
これは、演習における危機回避の重要判断。パーティーリーダの責務だ。
一つ目がこちらを見た。
俺と視線が絡む。
目に狂気が宿ったように光り、樹をなぎ倒しながら、こちらへ突進し始めた。
その両脇をすり抜けてくる、黒い犬のような──黒狼!
「地属性なら! 左を私、右を……エマ!」
「引き受けた! 私、黙っていたことがあるんだよね」
エマの何か気になる言い様は、数瞬で俺を唸らせた
─ 喚起 ─
この呪文──召喚魔法師……だと!?
地が割れ、もうもうと土煙を上げながら、人型がせり上がってくる。
ストーンゴーレムだ!
「行けっぇええーーー!!!」
意外と機敏だ、黒狼が腕に噛みつこうとも何の問題も無い。石だからな。
カレンとルーシアが1頭、エマにビアンカそしてゴーレムがもう1頭と戦い始めた
ガン、ダァン、ガッシャ、メキッメキメキ……
おっと、観察している場合じゃ無かった!
禁止されていた火属性をお見舞いしてやる。
─ 炎弾 ─
火球が直撃軌道を飛んでいく中、意に介さず突進を止めない。
なっ、何ぃ?
炎弾は、サイクロプスに命中する寸前に霧散した。
ちぃ……。
ヴゥゥン…ダッァァン!
大きな棍棒の振り降ろしを避ける。常時、身体強化が効いているのか、今の俺は機敏だ! 当たる気はしない。とは言え、あれを喰らえばひとたまりも無い。
「サイクロプスは、魔法を無効化する特殊能力が!」
「そのようだな」
──並の魔法では、効かないよ!
[並じゃなければいいのか?]
──さあ……私も戦ったことはないからね。
[そりゃそうか!]
─ 土銛 ─
地から鋭利な岩が突き出て、空に舞い上がりサイクロプスに殺到した。
魔法で出した岩だが、ヤツに届くときは魔法ではなく物体だ!
ガッガガガッガガ………。
魔法障壁か!
土対土では分が悪いのか、銛の恐るべき勢いは大半が減殺される、が、一部は切っ先がヤツに突き刺さった!
よし! 僅かだが届いた。
それでもサイクロプスは、それに負けることなく、棍棒を振り回し、己が障壁内部に食い込んだ銛をへし折っていく。
ヤツは幾箇所からも、黒い血を滴らせながら、それでも、棍棒を振り回すのを止めない。
くっ。効いてないのか。
唸りを上げてスイングが、数瞬前に俺が居た場所を通過する。。
何だと!
サイクロプスに、先程できた傷が、急速に塞がっていく。
土に連なる者の超回復か!
俺も、土属性使えるので持っては居るが、複数属性持ち所為かで効果が落ちる。その点ヤツは純粋だからな。
サイクロプスが、ニヤッと口角が吊り上がる。
憎たらしぃ……どうすれば良い!
うぉっ!
ノーモーションで棍棒を突き出しやがった。
危うく避けたが、つんのめった。まずい!
「アレク様!」
レダが、氷礫散を放つ。障壁に阻まれるが、敵の憎悪一瞬逸れ、その隙に体勢を立て直せた。
「レダ。助かる!」
土属性以外では障壁を破れず、しかし、土属性では大したダメージが与えられない……。
二律背反だ!
待て待て! 確かに効いては居ないが、考えようによっては……。
「レダ! 氷魔法を準備しろ、俺が土銛で障壁を破るから、その瞬間に合わせて撃ち込め!」
「畏まりました!」
─ 土銛 ─
虚無さえ凍てつかせ射てこませ! ─ 尖氷錐 ─
土銛は放物線を描いて、やや手前に突き刺さる。3,4,5……ギギギと耳障りを楯サイクロプスの魔法障壁に、大きく坑を穿った。それは、狙い違わず間隙を擦り抜け──
ギャァァァアアアゴウォェオーーーーー!
おぞましくも野太い叫声が上がる
眼に、一つ目に深く食い込んだ!
痛みでのたうちまわる。
ん?
ヤツの魔力の源泉だったのか、魔法障壁が甦らない。
今だ!
[手を貸せ! アレックス!!!]
頭の芯が急速に冷える
額からナニかが滲み出た
漆黒の闇が俺を覆った刻
目前にもう1人俺が居た──2対の腕が菱を象り
灰燼と化せ 深奥の劫火よ! 遍く万象を灼き尽くせ
──灰燼と化せ 深奥の劫火よ! 遍く万象を灼き尽くせ
── 熾焔陣 ──
極微の刻に五体から魔力が迸った。腕が視界から失せ、星霊体すら反動を受ける。
光輝が闇を駆逐していく。
目映き白炎が無間に渦巻き──サイクロプスを瞬時に灼いた。
ヤツの皮膚が気化し、体液さえ沸騰して行く。
……感覚の遅延が途切れ、現実に戻ると、そこには、赤熱した身央から閃光を幾条も放って、瞬く間に滅んでいくサイクロプスの姿があった。
俺は、急速な喪失感に襲われて膝から崩れると、意識を手放した。
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訂正履歴
2016/07/30 細かいながら沢山訂正しました。すみません。




