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58話 園外演習(7) コイバナ

 禿げ山を下山した俺達は、思ったよりも早く残った2つのポストを見つけ、探索は終了した。

 ただ、2泊目の野営をせずにゴールすると、減点になるため、午後3時には移動を切り上げ、準備に入った。


 日没となって、警戒しつつも夕食を済ませた。

 その後は、ゲルの前でみんなで焚き火を囲む。恐れていたイベント、恋愛話コイバナが始まった。


「じゃあ、アレク様はご婚約されて居たのですか?」

「まあ、仮だがな」

「でっでっで、いっ、今は?」

 エマ、そんなに気色食むな。


「ああ。俺が病気で寝込んでいる間に、他に好きな男ができたそうで、円満に別れたよ」

 レダを除いて、ふうっと肩が落ちる。


「良かったぁ………」

「ビアンカの馬鹿! 何が良かったよ! あんたは少し反省しなさい」

「すっ、済みません」

 いや、エマも表情に出てるから。


「いや、別に良いけどな」

 あのまま行っていたらと思うと、ゾッとするし。今ごときっと、毒を盛られてるよな。


「あら? 本当に気にされていないようですわね」

「まあな。って、どうでも良いけど、記録しないでくれるかな。ビアンカ」

 さっきから、俺が喋った言葉だろう、メモに書き起こしている。


「いや、あの。後で親衛隊メンバーに報告しないと、私殺されますので」

「ああぁ。あり得るよね」

 あり得るのかよ。


「ねね、ところでレダちゃん。どんな人だった?」

「どんな人とは?」

 レダが怪訝な顔をする。


「元婚約者の方よ!」

「ちょっと、エマさん」

「あら、カレンさんだって、お知りになりたいでしょ」

 窘めかけたカレンを、混ぜっ返す。

「それは……知りたくないと言えば、嘘になりますが」

 少し申し訳ない顔をされた。


「存じません。お会いしたことがないので」


 ううむと聞こえてきそうな程、残念そうな4対の視線が、レダを経由して俺に転進してきたが、跳ね返す。これ以上喋らないからな。


 そう言えば、ランゼ先生の情報に拠ると、俺の元仮婚約者のセシル・フォーガスとダリルは、結婚したそうだ。何でも、かが本家伯爵家へ、セシルの妊娠をタレコミ、当主の命令で父子爵の意向は無視され、話がまとまったそうだ。

 たとえ、妊娠していても、珍しいことだ。堕胎できなくても、人知れず里子に出されるとかで、無かったことにされるんじゃないのか? 誰かに強制されたか?


 その時の先生との会話は、こうだ。


『お手数掛けました』

 頭を下げる。

『なぜ分かった?』

 分からいででか!


『先生、なんでそこまで…?』

 してやった? いや、してくれた?


『決まってるでは無いか。ヤツらの暮らしが荒れると、お前に災いが及ぶ可能性が出てくるからな』


 暫く感謝しましたとも。回想を止めて、暫くは黙って皆の話を聞く。


「ところで、さっきから片思いの話ばっかりだが」

「アレク様ぁ」

 袖を引っ張られる。


「なんだ?レダ」

「カレン様も、エマ様も、子爵家のご令嬢なんですから。恋愛と婚姻は直結しているんです」


 なるほど。この2人は恋愛もままならないのか。

「レダさん、ありがとう。アレク様。そういったわけで、私の求婚が一大決心だとお分かり戴けましたか?」


 むうぅ。


「うーん。その求婚は全力で阻止するけど、意味的にはその通りだね」

 エマまで……。


「わかったよ。父とも相談して、よく考えて返事する」


     ◇


 そんな会話が続いたが、午後10時になり、俺とレダを除いて、就寝した。俺達は夜番の1番手だ。

 ううう。初夏とは言え、やや冷えてきた。焚き火に手を翳して暖を取る。


「……そうかあ。お嬢様方は恋愛経験無しか」

「アレク様。先程は、ああ申しましたが……」


 あん?


「たとえ、深い恋愛経験が有ったとしても、無いとしか言えないじゃないですか」

 おいおい。

「レダ。さっきと言ってることが違わないか?」


 すると、何当たり前のこと言っちゃってるんですか? そういう蔑みの目で見られた。

 生後1年も経っていないのに女ってヤツは……。


「それはともかく、すべてチェックポストは見つかりましたから、このまま夜が明ければ、ゴールするだけですね」

 何か少し引っ掛かる言い方だが。


「まあ、そうだな。何か気になることがあるのか」

「昨日、私が意識を失った時、もしかしてランゼ様と交信されていましたか? 私の身体を使って」

「ん?」

「ランゼ様と私は、同じ一族故、感応が強いのでそういうことができると聞いています」


 レダはどこまで知っているんだ?


「どうやら、図星のようですね」

「何も答えてないが」

 ふふっと笑う。


「分かりますとも、何も仰られなくとも」


 何だか上から目線だ。

「レダ」

「はい。アレク様」

「そういう、疑念を持たれる発言は控えてくれ」

「かしこまりました……」


「来たな」

「残念ながら……恐れていたものが」


 俺は、ゲルへ向けて手を伸ばす。

 

 数秒後、ゲルの入り口の幕が翻る。中からけたたましい音が漏れてきた。

「アレク様!」

 ゲルから、4人が這い出して来た。

 カレンとルーシアが手早く、ゲルを瞬く間に収納する。


「何です、この気配!」

 ああ、確かに恐ろしくもおぞましい、気配が圧している。


「悪いが。演習は一旦中断だ。ヤツの狙いは、俺だ。みんなは撤退してくれ。ここを離れれば、追って来ないはずだ」


 カレンの表情が締まる。

「私も見くびられたれたものですわ! アレク様のお気遣い、ありがたくは存じますが。夫と望む方を置いて逃げたとあっては、そのものに妻になる資格など有りましょうか?」

「そうだよね。そんなことしたら私が絶対許さないし……そう言うからには、私も一緒に戦わせて貰うから。決定事項で!」


「演習中は、絶対服従と言ったよな」

 怖目の顔で迫る。


「あら? さっき演習は中断だ! そう仰いましたよね」

「うん。言ってた!」


 くっ! 不覚。


「わかった。好きにすればいい。しかし、戦うなら演習再開だ!」


「はい!」

「うん! そうこなくっちゃ」


「アレク様」


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