57話 園外演習(6) 禿げ山の激闘
遠目にも有翼人型の輪郭が見えてくる。
人面禽だ。20体は居る。
ゼノビア教官が、血相変えて走ってきた。
なんだ、どうした?
「お前ら……」
そう言った後、はあ、はあと肩で息をしてる。
後が続かない。
「どうしたんですか? 教官」
「あっ……ん? なんだったか? いや、なんでもない」
俺達から、数m離れて何かぶつぶつ言い出した。
もしかして、忘れたのか?
まさかな。
カレンと顔を見合わせる。かなり心配そうだ。
今の教官には病的な物も感じるが、ウチの親父さんと同級生だ。流石に若呆けではあるまい。
何か言いかけたものの、監察の任務上言ってはいけない制約事項に引っかかったとか。都合良く考えればそうだが。
「アレク様」
「なんだ?レダ」
少し顔つきが固い。
「この地域にあの魔獣……ハーピィは居ないはずです。でも複数で存在すれば、魔獣階位は4。本来なら監察教官引率の元に撤退のはずです」
だが、既に我々は無防備に身体を晒すことしかできない地形に深く踏み込んでいる。教官の牽制がないのなら、無抵抗に逃げることこそ至難。
「わかった。俺が魔法を放つと同時に最強の障壁魔法を張ってくれ」
レダは、俺を睨み、小さく強く頷いた。
ランゼ先生の言っていた介入か?
「みんな。聞いてくれ!あいつらを、ここで迎え撃つ」
カレンとエマは顔を見合わせた。
「我らの返事は変わりません」
「よし!先ずは、俺が数を減らす!」
ハーピィは200m程の距離に迫る。
俺は、額に掌を当て、直接熱を通わせる。
腕に怖気るほど魔力が流れ込む。頭上へ。
「灰燼と化せ 深奥の劫火よ! 遍く万象を灼き尽くせ」
─ 熾焔陣 ─
両手の間に火球が生じ、渦巻き膨れたかと思うと音も無く飛び去った。
それは刹那のことだったろう。
火球が増殖して赫く空を染め、紅蓮の円が遠ざかり消え去った。
何事も無かったように。
雷の如き遠鳴りだけが返ってくる。
ハーピィの集団中央に穴が空いた。
そこに居たはずの個体が、消滅したのだ。
「半分くらいか!? しばらく頼むぞ」
俺は、魔法行使後硬直に陥った。まだ俺には過ぎたる魔法か……。
ちっ!
ハーピィ達は、散開はしたが怯むことなく接近して来る。
何かに使嗾されているのだろう。味方の半数が一瞬で消滅させられて、野生の魔獣が敗走しないのは不自然過ぎる。俺達に巣を攻撃されるなど、ヤツらにとって抜き差しならぬ状況ではないはずだからだ。
俺を除く、双方の魔法射程に入り、攻撃が交錯する。
ハーピィ達は翼でつむじ風を起こし、魔法で増幅させる。
これを、レダの障壁魔法で防ぐ。1体の作る渦は大したことがないが、数体固まられると横合いから回り込む風圧が厳しい。
敵が接近した時にはエマとレダの氷弾は効果があるが、この距離ではつむじ風に飛ばされまいとして押し留めるので精一杯だ。
「あっ。くっ」
苦し紛れにカレンが気弾を発動するが、ハーピィに効かない。やはり風属性同士では分が悪いか。
属性を切り換え火焔放射を放つが、1羽ばたきで逸らされる。
もどかしい!
時間が経つのが、これほど遅く感じるとは。
俺の戦術は誤りか、いや初手で半減させていなければ、もっと酷いことになっているはずだ。
弱気になるな!
──もう少しだよ! アレク!
「きゃっ!!」
ルーシアが急降下襲撃を転がって危うく避ける。
畜生! 許さん!
1分程経ち、硬直が和らいできた。
まずは、状況の改善だ。
「みんな、その場を動くな!」
─ 土槍 ─ ─ 土槍 ─ ─ 土槍 ─ ……
だだっ広い荒れ地に、背丈程の土筍を無数に生やさせた。
無論パーティーメンバーを避けてだ。
最初、ビビってたが、俺の考えが通じたらしく、動かず受け入れた。
しかし、敵は突然現れた逆茂木に対応できない。
目前に迫っていた1体が串刺しになった。他のハーピィは、なんとか急反転して再び舞い上がり掛ける。隙だらけだ!
「逃すか!」
後背に向け。
─ 土銛 ─
ギャギャグギャァシャアァアア!
逆茂木が、凶悪な初速で射出され、数体のハーピィに突き刺さる。聞くに堪えない悲鳴を残して墜ちていく。
残るは数体だ。
ふん。あくまでも攻めてくるか……。
急降下攻撃は逆茂木で抑止され、突風攻撃も俺達がそれに捕まることで飛ばされることはない。
ヤツらのどこに勝機がある。獣には獣の本能があり、歯が立たぬ相手にまで牙を剥くことは無い。
しかし、目前の敵は……。
「各個に近接の敵に全力攻撃!」
中途半端な距離に近付かざるを得ないハーピィなど、絶好の的に過ぎん。
火水土の3属性魔法が放たれ、敵はあっけなく全滅した。
「やったぁ!!」
「やりましたわぁ!!!」
エマとカレンが、手を取り合って喜んでいたが・・・・・・」
あっ! えっ!
口々に驚きの声を上げた。
「レベルが上がった」
「私も!」
「2つも上がりましたわ!」
レダを除き、俺を含めて魔法師レベルが上がったようだ。
そう言えば、レダからレベルアップしたって聞かないな。
「どうやら、敵は居ない。飲みながら休憩してくれ」
レダが、皆に上級回復薬を配ってくれている。
「ありがとう、レダちゃん。自分たちでも普通の持ってるけど。これ、おいしいからさあ。あっ、ビアンカ。鏡出して!」
エマが自分の顔の汚れを気にしてる。まあそういうお年頃だよな。ただ、鏡くらい自分で持ったらどうだ? と思いつつ、前にもそんなことあったよな。まあ、他の主従の関係に口出す気は無いが。
地に生えた大きな筍のような土槍の残骸を均し、再び登り始めた。1時間も掛からず無事頂上に着いた。
俺達は、歓喜してハイタッチし合った。今まで見つけたポストよりも嬉しさ一入だ。眼下に広がる森林が絶景だしな。遠くに王都が見えるとエマとビアンカが、はしゃいでる。
「9ー蛇っと。おーい、みんな、5分したら降るからな!」
はーいと嬉しそうな声が返ってくる。
「気になりますか?」
俺が、シートに記入しながら、ゼノビア教官の方を視ていたのが、気になったのだろう。レダが尋ねてきた。
「ああ、カレンも違和感を持っているようだ」
「はあ」
「流石に、俺達生徒に手は出さないと思うがな」
「そうだといいのですが」
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