55話 園外演習(4) 夜間通信
「……ク様、アレク様。起きて下さい」
「おっ…ああ。おはよう」
夜10時に就寝して、夜番の交代時間になったから、今は4時なんだろう。
寝袋から出て実習服を着る。
うーーむ、少し寝汗掻いたな。
レダは起きていて、カレンとエマは仲良く寝ている。
静かにゲルを出て外に出ると、ルーシア、ビアンカ組が焚き火を囲んで座っている。
「おはようございます。アレク様」
「おはようございます」
「ああ、おはよう。中番をやってもらって悪かったな」
前後半と睡眠が分けられる、中番は嫌だよな。
ルーシアが疲れも見せずに笑った。
「いえ、くじ引きの結果ですから。あのアミダというくじ、面白いですね。ああ。それより早起きお疲れ様です」
「いやいや、そちらこそお疲れ様。交代するよ。ビアンカもお疲れ様!」
「はい。魔獣は、気配も無いです」
「そうか分かった。短いが寝てくれ」
交代で顔を洗って歯を磨き……すこし身体が、べた付く。
─ 御祓 ─
ランゼ先生から教えて貰った、身体を清潔にする魔法を使う。本当は風呂に入りたいが、今の状況ではそうもいかん。
ふぅうう。少しは気持ちよくなった。
顔面も口内もだ……あれ?先に今の魔法を使ったら、顔を洗わなくて良かったのでは?まあいい。気分の問題だ。
彼女達が居た場所に俺とレダが座る。
「今日もお天気が良さそうですね」
「俺は、晴れ男だからな…」
「晴れ、男?」
こっちには無い言葉のようだ。
「ああ、旅行とか何かの催しに出席すると、不思議と晴れていることが多い男のことだ」
何の説明をしているんだ、俺。まだ頭回っていないな。
「へえ……まさにアレク様にぴったりの言葉ですね。晴れ男かぁ。ふふふ」
なんだか、レダ。昨日から少し雰囲気変わったな。
そう思っていたら、突然肩を落として目を瞑った。
数秒後、再び目を開けたが、なんだか顔つきが違う。
「おはよう!アレク」
ん?
「分からないか?ランゼだ!」
先生?
「乗っ取ったんですか?レダの身体」
「乗っ取ったというか、疑似人格を停滞しただけのことだ」
「……良く判りませんが、まあいいです。それで先生、何のご用ですか?」
「ああ、演習楽しそうで何よりだ。昨日もお楽しみだったしな。私も気持ちよか……」
「本題を言って下さい」
すぐ話を、下ネタ方向に持って行こうとするよな。
「なんだ、つれないな。で、本題だが……」
「はい」
「どうやら、その演習場に何者かが、介入しているようだ」
「介入?」
「何か、良からぬことをしている」
「良からぬこと…」
「崖に石猿が居たろ」
「はあ」
「不自然に集まりすぎだ。何らかの誘因手段…まあ餌だろうが、使って集めたんだろうな」
「ということは」
「お前が標的だ」
「でしょうね……ゼノビア教官は噛んでいるのですか?」
レダの姿は考え込んだポーズをする。仕草がそっくりで、先生が若返ったようで面白い。
「うーむ。ヤツのことだ、自分からやることは無いが。まあ消極的に関わるというか、利用されているというところだろう。何せバカだからな」
バカって。
「……わかりました」
「そんな顔するな。アレク。そこに行きたくなるだろう」
「すみません」
「そうだな。お前は、遠慮無く、やれるだけやればいい」
「はあ」
「場合によっては、レダを犠牲にしろ」
「……そっちは、俺の好きにさせて貰います」
「うむ。それと……また、レベルアップしたのか?」
あっ。そう言えば、石猿達を斃したときに、鐘が鳴ってたな。
─ ステータス展開 ─
おっ。生命力と魔力もそれなりに上がっているが。
スキルに、潰榴弾が加わった他、気弾も有った。
「互換魔法──気弾の互換魔法が潰榴弾なんですか?」
「ああ、そうだ。ゼノビアが口にしていたな」
「魔法と言うのは、呪文が間違っていたら、発動しないとばかり思っていましたが」
「そんなことはない。呪文とは所詮口に出さなくても、発動できる程度の物だ。魔法師が魔法をはっきり念じるために、呪文がある。魔力と法力の具合が良ければ発動するのだ」
「では、威力が上がる理由は」
「互換魔法は呪文が同じでも、他の者発動できるとは限らない。まあ話が長くなりそうだから、詳しくは館に帰ってきてからだ。とにかく、ほとんど魔法式は同じだが、魔力の投入速度が上がると威力が段違いに上がる。それが互換魔法だ」
「ほう……」
「なかなかの高等技術だが、余り追求されない分野だ。普通は上位の魔法を使うからな」
ああ、そうだよな。
「じゃあ、互換魔法に意味は無いんですか?」
「いや、上位魔法より発動が早いという利点がある。アレクは魔法を習得すると無詠唱がすぐにできるようになるから、ありがたみはないかも知れないが」
発動時間か。それは使い方次第では結構……。
「さて、余り長いとレダが混乱するから、この辺でな。帰りを待っておるぞ」
そう言うと、レダは瞼を閉じた。
数秒後、覚醒した。違和感があったのだろう、不審な顔で自分の躰を見回す。
「あっ、あのう。私、少し寝てましたか?」
「ん? 別に。気が付かなかったが」
「そうですか……」
◇
もうすぐ7時と言う時刻になった。組立式円形住居から声が聞こえ来る。どうやら4人も起きたようだ。
「さて、今日も一日頑張ろう」
「はい」
パンに燻製肉炒めと目玉焼きの朝食を頂く。空気が良いのだろう、とても旨いのだが……いい加減恨みっぽい外部からの視線が鬱陶しい。
今喰っている物以外が欲しければ、自分で作れよ!教官。作って貰ってる身で言うのも何だが。
さて、第2日目の出発だ。
昨日半分のポストを見付けた。順調だが油断ならん。先生の言っていた介入者も気になる。
「前方、暗狂犬7体。展開第2形態!」
ルーシア、ビアンカが両先頭、続いてカレン、エマが中程、俺が底になって鶴翼陣を作る。さらに最後尾をレダが詰める。
V字の中に引き込み、両脇から魔法で瞬く間に撃ち減らす。
─ 気弾 ─
よし!
今度はきちんと発動して、衝撃波が最後の2体を斃した。
上位の互換魔法じゃない方だ。
「今度はできましたね」
カレンが嬉しそうに寄ってくる。
「でも、上位魔法が発動しないように、慎重に下位魔法使うなんて……天才には天才の悩みがあるんですね」
エマが恨みがましい顔を向ける。
「俺は天才じゃないって」
「アレク様が違ったら、天才って言葉自体が不用になるよね。レダちゃん」
「ははっ。そうかも知れません」
ん?
俺は、何かの気配というか視線を感じて、振り返る。
居ない。
ゼノビア教官は、右の木の上にいる。
「どうしました?アレク様」
「魔獣ですか?」
「いや、思い過ごしのようだ。靴の紐が」
俺はなにげ無くしゃがむ。
─ 地蜘蛛 改 ─
警戒のため、魔法を張った。
◇◆◇◆◇◆◇
現時点でのステータス
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アレックス・サーペント
・基本
人間:男性16歳
位階 : 貴族(子爵)
婚姻 : 未婚
・状態
クラス: 魔法師 レベル42
生命力: 2500/ 2500[-]
体力 : 610/ 610[-]
魔力 :15250/15250[-]
素早さ: 380/ 380[-]
精神 : 6950/ 6950[-]
異常 : なし
・
・
・
・スキル
剣技:LV23 槍技:LV10 弓技:LV30
乗馬:LV19 回避:LV25 索敵:LV48
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・
・
火炎 / 炎弾 / 焔陣 / 爆焔
烈風 / 風壁 / 気弾 ─ 潰榴弾 / 旋風
水流 / 御祓 / 水礫 / 水斬 / 豪波
土槍 / 土銛 / 版築 / 長城版築 / 縮地
地蜘蛛 改
回復 / 強壮 / 謳歌
解毒 / 治癒
詠唱短縮 / 無詠唱 / 瞬間発動
結界
獣懐柔 / 獣操縦
身体強化 / 身体活性 / 金剛
魔鑑定(初級) / 魔鑑定(低級) / 魔鑑定(中級)
魔収納 / 魔収納(拡大) / 魔収納(高遮断)
・称号
聖者の曾孫
討竜魔法師
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