表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/224

52話 園外演習(1) 開始

 魔法科2年生は、一旦学園に集合。

 6パーティー、生徒36人に、引率者教官が11人と下働きの職員5人を入れて計52人の一行。点呼の後、馬車に分乗した。旅客用馬車8台に、荷馬車2台の構成だ。


 30分程で王都の城門を通り抜け、郊外の集落を走る。

 どんどん都会の色が抜けていく。行程の半分、1時間も走った頃、そこは立派な田舎だった。


 ルーデシアの王都も、それ程広くない……思えば東京は広かった。

 しかし、この風景は結構好きだ。。


 レダの横で、余り乗り心地の良くない馬車に揺られ、うとうととしたのだろう。手で揺すられて目覚めると、すっかり森の中に居た。


 窓から覗くと椎や楠が多い。

 照葉樹林か。あまり伐採とかしていないのだろう、緩やかに曲がる馬車道の脇にある樹でも結構幹が太い。


「アレク様。よく眠ってましたね。寝ていらっしゃると、本当に可愛いんですよね」

「エマ。男に可愛いは、褒め言葉じゃないぞ!」

「そうかも知れないけど、可愛いものは仕方ないよね」

 ビアンカと頷きあってる。


「2人は、仲が良いなあ」

「だって、従妹いとこですし」

「へえ。それは知らなかった」

 従姉妹で主従か。まあ、ビアンカの方は、複雑な思いだったろうが、ぱっと見では屈託ないな。


「それにしても、ぐっすり寝て見えましたね。実は夕べわくわくして眠れなかったとか?」

「いや早々に寝付いたんだが、夜半に……」

 ゲホゲホ……。


「あれっ? レダちゃん。風邪ひいた? 顔が赤いよ」

「あっ、ああ。ありがとうございます。エマ様。大丈夫です」

「なら良いけど……」


 そうこうしてる内に、目的地に着いた。

 馬車を降り、全員で荷下ろしを手伝う。

 癒やされるなあ。幹の直径が1mを超える大木ばっかりだ。

 まあ演習が始まったら、良い空気なんて感じていられないだろうが……。 

 一般職員が手早くテントを張って、30分も掛からず本部が設置された。


 慣れてるな。

 前世と比べくもない、不便な作りなのに良くやる。


「整列!リーダーは点呼結果を報告せよ!」


「アレクズ、6人、全員健康状況問題ありません!」

「了解!」


 おおぅ。3年生の教官と初めて喋った。強面こわもてのおっさんだ。

 折った紙と腕輪を渡される。


 簡単な地図に、数字がマークされている。

 ふふふ。もう数字は、ばっちり読めるぞ。


 演習のシステムを聞いたとき。

『ああ、オリエンテーリングな!』

 そう言ったら。

『おっ、おり、えんてー…ぐ。何語ですか?』

 そうレダと返ってきた。

 こっちの世界には無い言葉というか、アレックスに概念がない言葉らしい。

 

 しかし、内容は同じだ。

 10分の作戦タイムの後。

 腕輪は俺が装着した。


「アレクズ、ライノス、ブラックパンツァー、出立!」


 ウチ以外のパーティーは、動物の名前だ。まあ、普通そんなもんだよな。

 俺達以外は小走りで進んでいく。

 もちろん、被らないようにコース分けされているのだろう、違う方角へだ。


 広場に近いところは、人が踏み荒らし地肌が露出していた。

 しかし、森を進むにつれ木々の間隔が詰まり、常緑の葉が陽光を遮り薄暗くなってきた。またシダ類の下草が多い場所もあり、なかなか通行しにくい。


「お前達は、走らないのか?」

「えーと。俺達の監察教官は、ゼノビア教官ですか?」

「私が、ゼノビア以外に見えるのか?」


 いや、そういう意味では無いのだが。どうやら俺の疑問は、肯定されたようだ。


「時間は40時間以上ありますし、規定時間を上回ったら減点になるだけで、下回っても得点にはならない上に。体力を使って、教官の救済を受けたら、減点ですしね」

「冷静だな」

 普通だろう。


「ところで教官。頭に付けているのは銀水晶ですか?」

 ゼノビアは、被った革帽子の前方に固定されている。

「ああ、新しい試みだ」

 新しいねぇ。悪意しか感じないが。


 むっ!

「アレク様」

「捕捉している!右翼先行!」

 

 後方でちっと舌打ちが聞こえた。話しかけてきたのは、俺の気を散らすのが目的か。

 今後も教官から愛の鞭という名の妨害を受けそうだ。


「ワーウルフ4体、右に集中しろ」

 予測していたのだろう、反応が早い。


 ─ 風壁エールレフレ ─


 俺が左の攻撃を阻み、こちらに近かった右2体を前列4人が確実に屠る。

 6対4よりも、6対2を2戦の方が、優位を保ち続けられる。

 残った2体も難なく斃し、全滅させる。まあ、そもそも相手にならない戦力だ。


 しかし、力攻めを続ければ、連戦を続けるのが苦しくなる。

 今日を含めて野営2回しなければならない。俺達は慣れていない。

 今は良くても、2泊後も同じとは思えないからな。


 それにしても出立数分で会敵か……まあ良いけどな。


「行くぞ」


 最初のポストまでは、まだ1km以上ある。

 レダと俺の感知魔法を駆使、方角を確認しつつ進む。無論直進したいが、たくさんの樹木を避け、勾配を勘案して無理の無いルートを考える。

 

「左前方から土猪アースボア1体!任せろ!」

 ブフォーーー。

 単独で魔獣階位レベル3。体高2mを超える大きさだ。


 遣り過ごしたかったが、こちらに明らかな敵意を持ち、木々に擦過しながらも猛烈な勢いで突っ込んでくる。


 ─ 風斬 ─


 薄い真空の刃を放つ。20m先の大猪の首に根元に深々と食い込み、派手に鮮血を上げる。肩の腱を切り裂いたのだろう、地につんのめりって、そのまま動かなくなった。


「一撃?!」

「血の臭いで集まって来る。ここを離れるぞ」

「ええぇ。あの牙は惜しい……なあ」

「駄目だ!」


 エマの言うことも分からないではない。ヤツの毛皮を剥ぎ取り売れば、数日の食費になるが、牙はそれ以上だからな。


 エマを一睨みすると、はっという顔になって胸を押さえた。どうも、俺に逆らうと、スケベなことをされるとでも思っているようだ。かなり不本意だが、強制力があるのは悪くない。


 数百m進むと、若干の間隔を空けて、魔獣達とすれ違う。臭いに釣られ、さっきの場所へ移動するのだろう。そのことは、全員に伝わったようだ。


「アレク様に従ってなかったら、今頃……」

「囲まれていましたわね……多くの魔獣に」

 カレンも、ふうと息を吐いた。


「ふん!」

 後方で、機嫌の悪そうな息遣いが聞こえた。


     ◇


 この辺りか。

 腕輪に魔力を流し込む。50単位も入れた頃、草むらにピーーと甲高い音がした。

 そちらに向かって歩くと、石を積み上げた高さ60cm程の小さな塚があった。

 見付けた!1つ目のポストだ!


 空中に「7-鷲」と光の文字が見えた。

 さっきの魔道具である腕輪に、流した魔力に反応するのだろう。


 チェック用紙の7の欄に、鷲と書き込む。どうやら動物の種類を書くようだ。

 残り11カ所だ。


「やりましたぁぁぁ!!」


 女子達5人が喜び合ってる。

 掌を差し出してくるので、俺もハイタッチする。あまり喜ばないと彼らのやる気(モラール)が下がるからな。


「離れるぞ!」

「はーい。アレク様……冷めてる」


 俺達の他に、いきなりこのポストに向かうパーティーは無いだろうが。念のためだ。

 出立以来、1時間と少し。そろそろ昼だ。食事にするか。


 そう思って歩いていると、小さな岩場が見えた。関知魔法によると、魔獣の気配はない。


「みんな、ここで食事にしよう」

 地面だったら、敷物を出すところだが、ここなら不要だ。

 

 メンバーは全員、魔法収納持ちだ。そこから、昼食分を取り出す。

 だがレダだけは、木の取っ手の付いたコップを人数分出庫した。

「何?何ぃ?」

 期待が高まる中、出したのは、大きめの水筒だ。コップに向けて傾けると、湯気を上げて琥珀色の液体が注がれる。


「どうぞ、皆さんで」

「ありがとう。レダさん。良い香り」

 カレンが言うまでもなく、スープの芳醇な匂いが俺の鼻にも届いた。


「おいしい。おいしいよ、これ」

 エマが目を剥いて絶賛してる。

「このスープ。レダさんが、作ったんですか?」

「いいえ。アレク様の専属メイドの方が作られました」

「いいなあ。流石伯爵家」


 俺の黒パンに肉を挟んだサンドイッチもそうだが、ユリが作ったに違いない。

 昨夜か……。うーむ。罪悪感が胸を締め付ける。


 ゼノビア教官も持ってきた物で食事にしていたが、羨ましそうにこっちを見ている。あっちは風下だし。

 だが競技中は、スープを分けて差し上げることはできない。買収行為になるからな。

 いやあ、残念だ。

是非是非、ブックマークをお願い致します。

ご評価やご感想(駄目出し歓迎です!)を戴くと、凄く励みになります。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ