50話 特訓(後) 気付きと向上
アレクズのメンバーを、屋敷地下の練兵場に招き、訓練を始めた。
敵は、魔獣を姿やステータスを克明に模した土人形だ。
6人対6頭。
「行きますわ!」
カレンとルーシアは右の2頭に。それを見つつ、エマとビアンカは左の2頭に向かう。
結構離れている。
学園と同じ構図だ!
ここで俺は迷った。
連携しろと強圧的に命令してやらせるか……。
それとも。
強制するなら、学園でもできた。
ここに皆を呼び寄せたのは。
そうだ!自分達で気が付かせるためだ。
俺まで焦ってどうする。
俺が2頭、そして先行した彼らが残りを斃して第1戦は勝利した。
しかし、その代償も大きい。
1戦のみで、レダはルーシアとビアンカに回復魔法を使った。
カレンは天を仰いで長い息を吐き、エマは腰に手を当てている。
次が来るぞ。
◇
「この私が、オーク風情に!」
─ 気弾! ─
「……くっ」
カレンが、得意にしている魔法を外した。高々魔獣階位2位なのに、ここまで苦戦するとは思っていなかったのだろう。艶やかな肌に似つかわしくない、深い皺を眉間に寄せている。
通算2戦の疲れが集中力を下げ、手足の輪が動作を遅らせる。そして、桶の底が抜けるように魔力が消えていく。
あの感覚をカレンも味わっていることだろう。
こんなはずではない。自分はもっとやれる、やれるはずだ!
焦る程、法力は下がり、魔法の効果が落ちる。
それでも、こっちはまだ何とかなりそうだ。ほんの僅かな切っ掛けで逆転可能だ。
問題は……。
「ビアンカぁあ」
エマの従者が、オークの体当たりを受け、はじき飛ばされ麻痺に陥る。
先行し過ぎだ!6人が1人ずつ戦っていは、只の足し算だ。
すかさず、異状と生命力をまとめて回復する魔法を、レダが放つが、間に別のオークが割り込み効果が薄い。
ちぃ、取り敢えず、この戦闘を終わらせねば。
俺は、レダに一瞬目配せする。
─ 水斬 ─
目前のオークを切り裂き、振り切った腕を翻し。
─ 土槍 ─
地から大きな棘を幾つも生やし、カレンの目前の敵の足をその場に縫い付ける。
俺の脇をレダが走り抜け、ビアンカに接近して回復を図った。
カレンが気弾で猪首を吹き飛ばし、エマが氷弾で蜂の巣にしてオーク2頭を葬った。
「ご苦労だった」
俺は、レダの肩に手を置く。
「ありがとうございます。アレク様。お陰で斃せました」
「ああ」
エマも、地面に腰を下ろして、もう動けないという態だ。
後から、カレンとルーシアがやってきて、膝からから崩れ落ちた。
彼女達の実力から言えば容易に撃破しても不思議ではない。そうならないのは結局のところ、敵を侮り、散開し過ぎなのだ。
逆にオークの方が連携し、俺達を分断した。
そろそろ、気が付いてくれないかな……。
ランゼ先生が空中から降りて来た。
「10分休憩後再開するぞ。レダ、他の者も回復してやれ」
言い放って、また空中に浮かんで行く。
鬼……。
誰かの呟いた声が聞こえる。
エマ。こっちの世界の鬼はどんなか知らないが……あの人は、きっとそんな甘い物じゃないぞ。
レダが俺の方を向いているので、不要だと首を振ると、エマの方に行った。
ドムっ!
ん?
カレンが地面を殴りつけた。
「屈辱ですわ!」
あれは、本当にオークの能力並みですの?とか言うと思ったが、違った。
「エマさん!」
「なぁにぃ……」
エマの方は、喋るのも億劫そうだ。
「私。このパーティーができて以来。あなたと競って、アレク様に良いところをお見せしようと、思っていました」
「あっあぁ。右に同じ」
「それが、この体たらく。良いところどころか、これまでずっとアレク様にご迷惑を掛けていたことにすら、気が付きませんでしたわ」
「そうだね……何が親衛隊ってことよ!護られたのは私の方。なっさけない」
「結局。学園では大した数しか出てきませんが、実戦ではそうではない」
「さっき、鬼って言ったけど、それこそが普通……なんだね」
「派手に斃すのが良いことではない」
「如何に効率よく斃すか、それこそが生き残ることなんだね。やるべきことは……」
「決まってますわね」
「そういうこと」
カレンは、座り込んだエマに手を伸ばす。
それを掴んで立ち上がる。
「ふーん。イカレたお嬢様と思ってたけど。少し見直した。親衛隊最大の敵には、変わりないけど」
「休憩は終わりだ、次行くぞ」
◇
第4戦、第5戦と、彼女達はお互いを見るようになった。
片方が出れば、もう片方が引く。決して一定以上の距離取らなくなった。
テニスやバドミントンのダブルスフォーメーションのようだ。
固まって攻めて一角を崩し、勢いを付けて残りを叩く。
やればできるじゃないか。それが連携ってやつだな。偉そうに言う俺も初めてできたようなものだが。
第6戦目10頭のオークに挟まれた状態から始まった。
「前方のオーク6頭に集中、後ろは気にするな!」
「はい!」
俺の指示も、聞こえるようになったようだ。
移動しつつ、6頭に迫って次々と攻撃魔法を浴びせ、中央を突破。俺が掃討した後、反転。押し包んで残りを斃した。
「あら!?」
「あっ」
カレンとエマが変な声を出した。
魔法師レベルが上がる鐘の音が、彼らの頭に響いたのだろう。
「えっ!!」
「ちょっと!!」
ステータスを確認したのだろう。俺と同じようなら、驚いて当然ことになっている。
「どうした?」
「レベルアップしたのですが、魔力が……大きく上がっていますわ。信じられません」
「私の方は、精神が2割位上がってる!うそでしょう!」
「本当だわ。私も」
彼女達は、嬉しさ半分、驚き半分といった表情で、とにかく興奮している。
「アレク様!」
「何だ?エマ」
「私……欺されてませんでした」
がくっ。そりゃあ欺してないからな。
「これって、凄いことなんじゃ……」
カレンが気付いたようだ。
「この結果を、アカデミーに発表すれば、魔法師育成の定説がいくつも覆ります、いいえ、これを軍に持ち込めば……」
「カレン。ここで見たことは口外禁止だ!」
「ですが……はい。分かりました」
抑え込んだか。
脊髄反射で誓ったより、逆に信用が置けるのかも知れない。
「そして、アレク様が、なぜここに我らをお連れ戴いたか、分かった気がします」
「それは良かった」
◇
我が屋敷での訓練は、昼までと思っていたが。
カレンとエマのたっての願いで、3時まで延長した。
結局、この短時間でカレンとエマは、もう1回ずつレベルアップし、ルーシアとビアンカも、1回上がった。
それぞれ、ぬめぬめスーツ、もといスライム強化促進スーツを外して、シャワーを浴びた。それから、みんなでお茶を喫したのだが、4人とも、その話題には触れなかった。
馬車を見送って執務室に戻る時に、廊下で先生と並んで歩く。
「シャワーの時に、彼女達へ何をしたんですか?先生」
「ほう。気付いたか。本当に観察力があるな」
「で?」
「ああ、あのスーツの件でな。暗示を掛けておいた」
「……俺は甘いですか?」
「ふふふ……」
先生は、艶やかに笑っている
「なんです?」
「いやあ。アレクは佳い男だなあと思って……気にするな、幸か不幸か、他の者はおまえ程、あれに適正が高くない」
確かに、2回目のレベルアップは、1回目程伸びが良くなかった
「やはり、お前は特別だよ。アレク」
「いや、アレックスのお陰です」
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