49話 特訓(前) スライムスーツ
土曜日。
「やあ、おはよう」
「おはようございます!」
カレンとルーシアが、私の館に来た。馬車から降りて、綺麗な跪礼をする。
応接に通す。
既に、エマとビアンカがソファに座り、紅茶を飲んでいた。
「私たち、少し遅かったですか?」
「いや。まだ10時まで、少しある」
エマの方を向くと、にやっと笑った。
「ええと。わくわくして、少し早く門前に来たんだけど、門番さんに見つかって。入れて貰ったんだ」
「1時間前のことだけどな。あははは……」
「エマさん!」
「面目ない」
カレンが怒りつつ、エマが手で押さえようとしてる。
「カレン。お前らも茶を飲むか?」
「あっ。いいえ。それより、ランゼ師は?」
「ああ、先に練兵場に行っているそうだ」
カレンは、蕾のような唇に手を持って行き、思案顔となった。可愛い。
「お待たせするのは申し訳ないので、そちらに向かいませんか?」
「じゃあ、行こうか」
応接室を出て、廊下を歩く。
先頭を俺、数歩後をカレンとエマ、さらに従者3人が続く
「ここって、アレク様の館なんですよね?」
「ああ。曾祖父さんが建てた館を、改築したんだ」
「聖人・サーペント様が…」
「へえ。それは知らなかった。親衛隊で周知しなきゃ」
「周知…」
「ああ、口外できないことは言って戴ければ。こう見えても口は硬いんです」
「そうだな…」
廊下の端。行き止まりに突き当たった。
「ここからのことは、少しまずいかな…」
俺は壁に掌を近づける。
「おおぅ」
数人が慨嘆した。
今まで見えていなかった通路が、突如として壁に口を開けたからだ。
「練兵場は、この先だ」
ほぁぁぁ。溜息と区別が付かない声が上がる。
「ここまで来てもらってから言うのは、卑怯かも知れないが。この先でのみんなの安全は保証する。だが見たこと聞いたことは、口外禁止だ。それが誓えない者は、帰ってくれ」
エマは瞬間的に応える。
「もちろん誓います。ビアンカも……」
従者も頷く。
カレンは、少し考えた風だが。
「私たちもお誓いします」
「そうか。では、みんな付いてきてくれ」
そう言って、隠し通路に入った。
人間が居るところだけ、魔道具で明かりが点く。暗い下り斜面の通路を進むこと数分。
進む先の明かりが大きくなって、開けた場所に出る。
「よく来たな」
そこには、ランゼ先生が待っていた。
黒く圧倒的な存在感。珍しく笑っている。
「ランゼ・ハーケンだ」
パーティーメンバーが、一斉に跪礼した。
「黒き魔女様。お噂はかねがね。お目に掛かれて、光栄です。カレン・ハイドラです。それと従者のルーシアです」
「アレク様の同級生のエマ・レイミアスです。こちらは、従者のビアンカです」
「ほう。先に挨拶した君がアレクに結婚を申し込んだ、子爵家の娘か」
「はい。お力添え下さい」
「カレンさん。ちゃっかり売り込まないで下さい」
「うむ。皆、私のことはランゼと呼べ…それにしても、アレク」
「はい?」
「メンバーは容姿で選んだのか?」
「はっ?」
「美女揃いじゃないか。お前も隅に置けないな」
まあっと…カレンとエマが頬を染めた。
発言の意図は分からないが、結果的はそう思われても、不思議がないメンバーだ。
「……とは言え、それぞれのステータスもなかなかのようだ。期待できるな。では、皆に渡す物がある。レダ!」
先生の、横に積んであった箱を、皆に手渡す。
「箱の中には、輪が5つ入っている。1番大きいのは首輪だ。蝶番で折れるようになっているから、全裸になって頸に填めろ」
「全裸ですか?」
「ああ、もちろん更衣室でやれば良い。後はレダが教えるのだ。それから、中くらいの輪は足輪、1番小さいのは腕輪だ。では、通路を少し戻ったところに更衣室がある」
「はい」
「そっちの奥の扉が女子の方だ」
「はぁい。では、アレク様。覗くときは言って下さいね」
「ああ、そうする」
きゃーとか叫んで、エマ達4人が入っていった。本当に覗いてやろうか……なんてな。
さくさく脱いで、股間に自作のファールカップを当てつつ、首輪を填める。
首輪から、褐色の粘液が噴き出し、身体の表面をヌメヌメと濡らしていく。なかなか気色悪いが慣れた。
いやぁぁあはぁぁん……。
隣の部屋から、随分艶めかしい声が何回か聞こえて来た。
まあ、そうなるわな。初めてだし!
女体を伝い滴る粘液……。
……いかんいかん、想像するな。
俺の方はそうなってることが目立つからな。
数十秒で首から下がスーツで覆われる。それにしても、これが魔法で強化されたスライムとはなあ。
これまでも、何度か使ったけど、驚くよな。
部位によって違うがスライムの厚さは、大体5mmから10mmくらいで、潜水服にかなり似ている。形が安定すると、不透明に変わる。
それから、腕輪と足輪を填めて準備完了だ。
練兵場上入口で、待っていると女子達5人がやってきた。
おおう。いいですね。
スーツの生地がしなやかに体表面へ貼り付き、彼女達の体型が皺もなく浮き立っている。
レダやカレンの胸の谷間から乳房の下の括れが露わで、思いの外に扇情的だ。
「アレク様。余り見ないで下さいね」
「あら。身体に自信が無いのですね、エマさん」
確かに3人は、胸を抱いて隠している。
「カレン。問題は、自信の有無ではなく、羞恥心の有無ですが?」
まあ、カレンは貴族のお嬢様だし、羞恥心が薄いよな。身の回りの世話は、メイド任せだからな。
両者の睨み合いは、1人の声で決した。
「ああ。済まん。言っていなかったが、スーツを引っ張れば形状を補正できるぞ。5分程で元に戻るが」
先生だ!
「早く言って下さいませ、ランゼ様!」
カレンとレダ以外は、みんなスーツを摘んで引っ張っていた。なかなか滑稽な姿だ。
「アレク様!」
「なんだ?」
「なぜアレク様は、大丈夫なのです?」
股間を凝視するな、股間を!
「スーツを装着するときに、当て物をしてるからな」
「ああん。卑怯!」
おいおい。エマ。
「で、そのスーツだが、多少の防御力向上はあるが……まあ、学園の実習服並みだ!」
えっとカレン達が驚く。こんなスケベな物を着せられて、そんな物かと思ったろう。
「だが1つ、普通の服とは違う点がある。魔法の発動時に魔力を吸収する」
「すみません。補助してくれるのではなく、吸収ですか?」
エマは混乱しているが、カレンは即座に質問してきた。
「そこは、発案者のアレク、お前から説明してみろ」
皆に視線が俺に来た。
「このスーツを着ていると、魔法の発動に、いつもより魔力を多く使うことになる」
「ああ、なるほど。魔力消費が大きくなって、疲れやすいから鍛錬になる」
「相対的に魔獣が強くなるわけですね」
「魔力が少なくなってきたときの戦い方も体験できますね」
良く気は付くが……。
「それだけではなく、詳しく言うのは止めておくが、経験値が上がりやすい」
「ほっ、本当ですか?」
カレンは目を輝かせ、エマは頭を抱える。
「アレク様は、常識を良く覆されますよね」
「まあ、それ以前に常識が無いからな」
先生!あんたにだけは言われたくないって。
「まあ、だまされたと思って、やってみてくれ」
「はい。だまされます!」
なんだかなぁ。
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訂正履歴
2025/09/21 カーテシーの表記削除 (コペルHSさん ありがとうございます)




