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48話 悪意とパーティーの欠陥

 終業の鐘が鳴った。

 常軌を逸してる──確かにそうかも知れないな。どうもサーペントを見ると、頭に血が昇ってしまう。


「私も失礼致します。伯母様。先程の件、私は本気ですから…では!」


 カレンは、教官室を辞していった。

 私に対して怒った表情を向けた。初めてのことだ。


 うーん。あんな子では無かったのだが。

 恋は盲目か。


 分家とは言え、子爵家令嬢。箱入りに育てられた所為か……。

 いや。私の失態だ!


 カレンが、あんなチャラチャラした男に負けるわけはないと高を括ったのが間違いだったのだ。

 やはり、サーペントとは戦わせるべきではなかったか。

 人間性はともかく、魔法戦闘に関しては段違いだったのに。

 それを見抜けなかったとは情けない……。


 今更悔やんでも仕方ない。

 問題はこれからだ。どう対応するか、考えねば。


 ん? ノックだ。

 カレンか?

 しかし、扉の向こうに立っていたのは、学園の事務員だった。見覚えの無い顔だが。


「ゼノビア教官。ヴァドー師が、第1応接室でお呼びです」

「老師が?」


     ◇


「ゼノビア。入ります!」

 ここは、大貴族が来園した時に使う部屋で、教官の私とて入ったことがなかった。


「そちらへ」

「はっ」

 真っ白な総髪に、白い髭を蓄えた老人に手で勧められ、ソファの対面に回る。

 普段とは違い、膝を揃え淑やかに腰掛けた。


「どういった、ご用件でしょう」


 無表情。

 老師こと、ヴァドー師がどのような感情なのか窺い知れたことはない、これまでも。


「話は他でもない。アレックス・サーペントのことだ」

 もう。カレンとのことが、お耳に入ったか……。


 脇に汗が滲むのを感じる。

 ん?

 老師は、手を突き出すと、くうから透明な結晶を取り出した。


「銀水晶?」

「3日前、魔法科で模擬戦をやったようだな」

「はい。ご報告が遅れまして…」

 とはいえ、それ以前から老師とは会っていなかったのだが。


とがめているわけではない。戦闘は、これで見たからな」

 ふぅ…カレンがらみのことで、呼び出されたわけではないようだ。では何だ?


「彼の者をどう見る」


 サーペントのことだな。

「はあ、既に魔法科同学年では、魔力、法力とも群を抜いているかと……老師は、サーペントのことをよくご存知なのですか?」

「いや。さほどでもない」


「やはり、討竜魔法師ドラグベインの効果でしょうか?」

「さて、どうであろうな……そこで、汝に頼みがある」


 はっ。

 気が付くと、私は廊下を歩いていた。

 振り返ると、応接室が遠くに見えた。私は、満足していた。その理由に覚えがなくとも、疑問すら浮べず。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 園外演習のパーティーメンバーが決まって以降、戦闘訓練をやり始めた。

 それにしても、そのパーティーの名前が……。

 俺が浅はかだった。忸怩じくじたるものがあるとは、こういうことを言うのだろう。


『パーティー名?』

 一昨日、火曜日の座学終了後、そういう話になったのだ。心底どうでも良かった俺は、言ってしまった。任せると!


 アレク様と仔羊隊。

 アレックス卿と愉快な仲間達。

 アレク様の美女親衛隊。


 話し合いが始まって、すぐに後悔した。


 カレンとエマが競い合って、脱線して行く。

 たしかにどうでも良いとは言った。正直、ここまでとは思わなかった


 おまえらに、羞恥心はないのか?

 どうやら、ないらしい。

 この2人に無くても従者がと思ってはみたが……話にならない。

 ルーシアとビアンカが、自らの主人の発案をメモしつつ囃しているではないか。


 俺の溜息が聞こえたのかどうか知らないが。レダがぽつりと言った。

『アレクズ!』


 カレンとエマがあっ!と言う表情となった。

『簡潔だけど、的を射ているね!』

『身も心もアレク様の物という意味にも取れますわね』

 

 色々言いたいことはある。が!

 3人は、それで手を握るのを、俺は傍観した。辛うじて、前言撤回せずに済ますことが範囲だったからだ。


 さてさて。そんな2日前の話はどうでも良い!

 良いと自己暗示を掛けずには居られない。


 それより焦眉の急は、戦闘訓練の話だ。

 何と言うか、表面上は問題になっていない。学園の練兵場で用意される魔獣擬もどきの的では、アレクズを脅かすことがないからだ。


 これぐらいの敵だと、カレンとエマが、競うように吶喊とっかんして斃してしまう。いくら連携が無くとも、戦術が皆無であろうと、個の力で解決できてしまっている。

 彼女らが、にこやかに戻ってくる様は、主人の歓心を買うことしか考えない猟犬のようだ。

 俺の出番がないのは悪くはないとしても、これではパーティーではない!

 何のまとまりもない。

 ただ魔法師が6人、同じ所にいるだけのことだ!!

 あるいは王都郊外の森でも、なんとかなってしまうかも知れないが。


 これで良いのか?

 否!断じて良いはずがない!

 俺がリーダーのパーティーだぞ。


 では、どうする!。


「聞いてくれ!」

「何でしょう?アレク様」


「提案だが……明後日、我が屋敷に来ないか?」

「ええぇ。いいんですか? 土曜日!? 伯爵家の上屋敷ですよね。行ってみたかったんです!」


 エマの食い付きが凄い!

 両手を胸の前で握り合わせた懇願ポーズだ。

 あれ? この子も意外ととあるな、バスト。


「ああ」

「ふふ。私、先週も参りましたから」

「押し掛けた! の間違いでしょ」

「そうとも言いますかしら?」

 カレンが、自分の胸を突き出して強調した。


「では。もう、行かなくてもよろしいのでは?」

「何ですって!」

「何ですかぁ!」


「あーいや。今回は、遊びじゃなくて、訓練だ!」

「訓練??」

 カレンとエマが、異口同音を発して互いを見合わせた。


「ああ、先生に話したら、見てくれるってさ」

「おおぅ、黒き魔女が!」

「それで、どうなんだ?」

「はぁーい。カレンが行かなくても、エマは行きまーす」

「私も参りますわよ!」

 従者2人も大きく頷いている。


「……そうか。じゃあ。午前10時に、家の上屋敷に集合で!」

「「はい!」」

 良い返事だ。


 レダが、エマの従者に寄っていく。

「ビアンカ。後で屋敷を地図を渡すから」

「知ってます!親衛隊に抜かりなし!」


 ちと、背筋が冷たくなった。

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訂正履歴

2016/07/03 ゼノビア教官:叔母→伯母

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