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5話 女教師の誘惑 (前) 告白

 だめだ、だめだ!

 話にならん。


 俺が何者であろうと。

 こんな貧弱な身体ではいかん。


 復活してから3日。

 寝てばかりでは、身体が鈍る。というか既に鈍りきっているんだが。

 身長はまあいい、180cm近くはあるだろう。

 体重が…体重計が無いから分からないが、きっと50kg代だ。骨皮筋ェ門じゃねーか。

 あり得ない!

 起き出し、部屋を出た。


 一昨日は、トイレに行くのにも介添えが必要だったが。昨日から一人で問題なく歩けるようにはなった。


 ここは、俺が衰弱していく奇病になって、静養するため来たハイエスタという村にある別荘だそうだ。

 本家に比べれば小さい館だが、2階建て、部屋数12の堂々としたものだ。

 と言うか、なぜ行ったことない本家のこと知ってるんだ…やめよう不毛だ。

 昨日、両親は俺の様子に安心したようで、そちらに戻っていった。


 まずは食だ!

 出される物は…口に合わない物もあるが、全て平らげ、そして無理してお替わりする。

 なーに。その内、胃が広がって、もっと喰えるようになる。

 そうすれば、身長はあるんだ…。横に広げるのは不可能では無いだろう。

 プロテインがあれば、手っ取り早いのだが。


 後は鍛錬だ。

 腹筋…10回しかできん。どんどん増やしていくぞ。

 腕立て伏せ…3回やったら腕がぱんぱんに成った。


 うーむ。長期戦になりそうだな。

 庭に出て、木剣を振ってみた。5回振ったら肉刺まめができた。


「アレク殿」


 頭上から声が掛かった。

 頭上?

 見上げると、黒いショートローブ姿の女性が、2階の窓枠に座っていた。


「ランゼ先生!」


 すーっと重力を無視して、ゆっくり降りてきた。

 すごいな。流石魔法師…ただパンツ丸見えですけど。

 凝視しないようするのに、苦しんだじゃないですか。


「アレク。身体を鍛えたいのか?」


 そう、先生は俺を呼び捨てにする。少なくとも2人の時は。

 うちの使用人では有るが、家庭教師たる教育役の地位は高い。

 それに王国でも高名な魔法師だそうで、両親から絶大な信頼が寄せられている。

 辺境のうちに、よく来てくれたものだ。


「もちろんです」


 あっ。まずいか?

 魔法の先生に。


「ふーむ」

「だめでしょうか」

「だめではないが…」

「はあ」

「以前はあれだけ、身体も鍛えろと言っても、全く言うことを聞かなかったのに。どういう風の吹き回しかと思ってな」


 いててて。頭痛と共に、ランゼ先生との思い出が流れ込んでくる。

 初めて会ったのは、12年前か。

 最初はハーケン先生と名字で呼んでいたのだが、本人たっての意向で名前に変えたんだった。

 その頃から見た目が全然変わってないんだが。何歳なんだこの人。


「死にかけて、心を入れ替えました」

「ほう、心をな」


 怖いね。

 厳しくも、優しい姉のようにも思える、あの少し意地悪そうに笑う口角が。

 あと、眼がね。全てを見抜く眼力があるような。


「話がある。部屋へ行こう」

「はい」


 ◇◆◇◆◇◆◇


 俺が部屋に入り、ランゼ先生が扉を閉める。そのときに指に光が見えた気がした。


「魔法?」

「ああ、見えたか……結界魔法だ。これから暫く誰も近づけたくないからな」


 それはどういう?


 20畳以上ある俺の部屋のソファに、向かい合って腰掛ける。


「もっと、早く説明してやる気だったんだが。伯爵ご夫妻が居たのでな。今日になって悪かったな」

「と、言いますと」

「おまえの転生のことだ…」


 げっ!!

 まずい…あれ?転生のこと、バレたらまずいよな?

 うわー。思いっきり混乱してるぞ、俺。


「アレックス…ああ、その身体の前の持ち主のことだが、死にかけてな」

「えっ…あの」


「ああ、言うまでも無いが、今のおまえが、前のアレックスとは別の意識、別人格だと言うことは知っている」


「ど、どうして、それを!!」

 しまった………。

 この貧相な身体が許せなくて、性急に鍛え始めたのが疑われたか。

 ぐっと眉間に力が入って目を瞑る。


「ばれたからには、俺はこの家を…」


「ばれた?知っているのは、おまえの魂をその身体に定着させたのが、私だからだ!」


「はぁぁぁぁああ?」

「おまえの魂を…」

「いえ、聞こえなかったわけではありません」


「そうか、そうか。話を戻すか。アレックスが死にかけたのだが、死なすわけにはいかなかったのでな。アレックスの身体に適合する、おまえの魂を呼び寄せて定着させた」


「ということは、前の世界の俺は、やはり死んだんですね?」

「ああ、死んでいなければ、次元の壁は越えられぬからな」


 そうかあ。やっぱりなあ。

 両親とか、恋人とか悲しんでいるだろうな…。


 あっ、あれ?

 両親居たよな、全然思い出せん。なんでだ、肝心なことが思い出せない。顔も声も姿も、名前すら…。

 恋人も、サークルで知り合って、半年の交際を経て深い仲になって…その存在はあったはずだか、そこから先の記憶が全く無い。顔すら思い出せない。結構好きだったはずなのに…。

 どういうことなんだ。


「俺…前世の俺や周りの人のことが、思い出せないんですが」

「ああ、それは執着になるからな」

「それなら、完全に記憶が消えれば良かったのに…なんで中途半端に憶えているんですか」


「…それは…」

「それは?」

 先生の美しい眉間に皺が寄った。

「秘密だ!」

「はっ?」

「だから、秘密だ!」

「いや、聞こえてますって」

「表向きは、完全におまえが以前のおまえ…面倒臭いな」


 いやいや。面倒臭いって。


「おまえと呼ぶときは、基本的に今のお前だ」

「はい」

「それで、紛らわしいときは、今のおまえをアレク、昔のおまえをアレックスと呼ぶことにする」


 この説明セリフ、俺宛なんですかね?あっ、メタなことを考えてしまった。

「分かりました」

「話を戻そう。アレクがアレックスに完全に同化してしまっては、意味がない。つまりアレクの要素を残す必要があったのだ」

「はあ」


 先生が何を言っているか良く分からないが…。

 どうやら、消えなかった!ではなく、消さなかったってのが真相のようだ。

 そんなことができる先生って。


「えっ。えーと。あのう……先生は、人間ではないのですか?」


 先生は辺りを見回した。

 げっ。何か、やばいこと聞いたか!


「ここだけの話だが」

「はい!」

「私は人間ではない。超越者だ!」

 人間じゃない!だとぅ。超越者…って何者。神?仏?


「よく分かりませんが、超越者というのは、神様とは違うのですか?」


 先生はふと困ったような顔をした。

「うーむ。神というのは、定義が人によってまちまちでな」


 そこに困ったんかい。


 何はともあれ、この人?がヤバい存在であることは間違いない。


「アレックス、そんな顔するな。大丈夫だ、安心しろ。取って喰ったりはしない」

 いやいや、全然安心できません。そう心で突っ込んだが、声にはならなかった。


「先生……」

「なんだ」

「俺を甦らせてくれて、ありがとうございます」


 先生は、まじまじと俺の顔を見た。

 ふう、本当に綺麗だなあ。俺はもう惚れてるよなあ。


「いや、礼には及ばん。おまえが前世で死んだのは、多分私が望んだ所為せいだ」


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