44話 決闘(5) 後日談
「お目覚めですか? アレク様」
起き上がると、んんーと腕を伸ばして、はぁと息を吐く。
「おはよう。ユリ」
「おはようございます」
昨夜は、3回もしたっていうのに、ユリは元気だなあ。もうメイド服に身を包んでいる。まあ動いたのは主に俺の方だが。
顔を洗い歯を磨く。
ん?
今日は土曜日で学園は休みだし、王宮に出掛けるには、まだ全然早いのにきっちりとした服装を出された。とは言え、王宮に行く衣装はもっとフォーマルな服で、これは中途半端だ。
「えーと、ユリ。なんで、この服?」
「本館に、お客様がお越しになっています」
「客?」
はて?
今日は、そんな予定はなかったはずだが……。
「はい。カレン・ハイドラ准男爵様です」
げぇ。
週明けに、学園で何かあるかと思ったが……家にまで押しかけてきますか。
あっと顔に出たか? ユリが心配そうだ。
「とても、お綺麗なお嬢様ですが。お会いになりますよね」
なんか、少し苛立ってないか、ユリ! 嫉妬? 嫉妬なのか? 可愛いなあ。
それはともかく。会わないはいかない。それで、開き直るか、素直に謝るかは、会って考えよう。
「ああ。行く」
本館の応接室に出向く。
「やあ、ハイドラさん」
「おはようございます。朝早くから押し掛けまして…」
立ち上がって、跪礼する。
うわぁぁ。改めて見ると綺麗だな。
びっくりした。
今日は女子……いや女性の服装だ。当たり前か。
今まで、男子学生服と実習服姿しか見たことがなかったが。こういうドレスとまで行かなくても、清楚なのが凄く似合っている。
部屋の中程まで歩き、ソファーの間まで行った。
「どうぞ、掛けてくれ」
腰掛けた彼女を見降ろす
いつも束ねている髪を今日は降ろしていて、どこから見ても美少女、流石はお嬢様だなあ。
やはり流行りなのか、服の襟ぐりが大きい。そこから除く谷間、魔収納に隠してました? そう、訊きたくなるぐらい豊満だ……おっと、いかんいかん。
「よくこの屋敷が分かった、わかりましたね」
「ゼノビア教官に訊きました」
あの教官、個人情報を……それより、どういう関係なんだ?
「ああ、教官は私の伯母です」
「伯母?」
「はい」
そういうことか。やはり身内か。
しかし、先生の従妹と、教え子の姪が同い年って言うのは、設定に無理があるんじゃないか?
「失礼します」
本館付きパーラーメイドが入ってきた。
ハイドラの手の付いていない冷めた紅茶を交換し、俺には新たに給仕して辞していった。
「まあ、どうぞ」
そう言いつつ、良い香りに誘われて一口喫する。同じ葉を使っているのだろうが、ユリが淹れた方が旨い。
「それで……今日参った用件ですが」
おっ!
「昨日、私が模擬戦で負けました」
ハイドラが少し顔を顰めた。
来たか!
「もちろん悔しかったのですが、それより……」
ああ、やっぱり来た!
思わず何かに備えて、額に皺が寄る。
「サーペント殿に謝らなければ、ならないと思いまして」
「はあ?」
がっつり肩すかしだ。
「いぃ、いや…」
「新学期初日には、玄関の車寄せで嫌がらせをし、A組の教室に参り、大変失礼なことを申しました。それも、強い魔法師の方に挑むことを目的に、模擬戦かそれ相当の試合に持ち込もうと、わざと反感を買おうとしてやったことです。申し訳ありませんでした」
ああ、そういうことだったんだ。
生意気で、正直嫌なヤツだと思っていたが。
「ああ、いや。別に、別に気にはしていない。だからもう、ハイドラも気にするな」
「……そう言って頂いて、少し気が晴れました」
「そうか。それは良かった」
「はい。それで本題なのですが…」
あああ。やっぱりあるんじゃん。
「私から決闘を申し込んだことがあるのは、男性魔法師だけです」
んん?また話が見えなくなったぞ?
「私、一人っ子なのですが。いい歳になりまして、日頃父から何度も言われておりましたが、信念がございまして…」
「えーーと。ごめん。さっきから話が良く判らないのだが」
「要するに、父から何度も縁談を持ち込まれましたが。全てお断りしてきました」
「はあ、だから?」
事態が一向に好転しないぞ。
「私の夫になる人は、魔法師で……」
ほう。
「しかも、私より強い人でなければということで、めぼしい方に決闘を申し込みました」
んんん?
「つまり、サーペント様。私と結婚して下さい」
「はあぁぁあ??」
無意識に立ち上がってしまった。
なんでだ? 俺が勝ったからか?
「失礼は承知で申しますが、私の夫になって欲しいのです」
冷静になれ、俺! 俺は少し頭を振って、再び腰掛ける。
「いやいやいや。君とは知り合って間もないし、昨日まで男と思っていたからな」
「でも、貴族の間では、一度も会うことなく、婚約するなど普通のことです」
「うっ。そうかも知れないが、いきなり過ぎて」
「男の形はしておりましたが、女ですから。家事は…料理は、少しあれですが」
「いや、そういうことではなくて…」
「私の容貌が、ご不満でしょうか?」
「いや、相当綺麗と思うぞ」
あっ、いかん。素直に返してしまった。
「まあ」
頬を赤らめる。
「いや、だからそういうことではなくて、魔法が強いとか弱いとかで、結婚相手を決めてはダメだと思う。第一、ハイドラは俺のこと好きなのか?!」
今まで必死そうだったが、静かに座り込んだ。
そうだよな。負けたショックと、自分の信念に板挟みになって早まった結論に至ったんだよな。
「あのう……」
「なんだ?」
「私のことは、カレンとお呼び下さい」
「あっ、ああ。カレン」
「はい。それから、私もアレク様とお呼びしても良いですか…」
おおう。上目遣いで見られると弱いな。こうして見ると、本当に可愛いし。
「別に構わないが。あと、様は要らないぞ……じゃなくって。カレンは俺のことを好きなのか?」
話を本題に戻さないとな。
「実は……」
「おう」
「学園の玄関で初めてお顔を拝し、倒れていた私に優しい言葉を掛けて頂いたときに……」
んん?
「アレク様に一目惚れしてしまいました!!」
「はあ?」
いやいやいや、おかしいだろう。
また、俺の外見が……。
「先程、私の容貌は問題ないと言って頂きましたので、意を強くしました。上半身だけではありますが、私の裸をご覧になりましたよね!」
「いっ、いや。あれは、不幸な事故で!」
「如何でしたか?」
えっ?えーっと。
ド・ド・ド・ドンとノックがあり、扉が開いた。
「緊急時故、ご無礼の段、平に!!」
「フレイヤ!」
扉を開け放ったのは、肩で息をする妹だ。
怖ぇぇえ。鬼の形相だ!
美しい人の必死の形相ってクル物があるよな。
「やはり!なんとなく不吉な感じがしましたが、やはり女性だったんですね、ハイドラ准男爵!何しに来られたんですか?」
凄いなフレイヤ! そんなことも分かるんだ!
ハイドラは、すっと立ち上がった。
「これは、妹君。おはようございます。つい先程、アレク様に結婚を申し込みました!」
「はぁぁああああああ!!!!」
俺が聞いた、フレイヤの最大音量だ
「別途、父からサーペント辺境泊様へ、正式に婚姻を申し込ませて頂きます。それでは、失礼致します」
ハイドラは、優雅に跪礼をして、部屋を辞していった。
「いっーーーーやぁああああああ!」
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訂正履歴
2025/09/21 カーテシーの表記削除 (コペルHSさん ありがとうございます)




