40話 決闘(1) 模擬戦開始
今日は、待ちに待った決闘の日だ。
午後の座学授業後、着替えて私室を出ると、制服姿のエマ達が待っていた。
彼女達は、俺の親衛隊を自ら任じている。正直組織は要らないが、応援は嬉しい。
「いよいよですね。アレク様」
「ああ」
「なんだか楽しそうですね。でも、お気を付け下さいね」
「ありがとうな。エマ。それに、みんなも!」
俺は、自然に微笑んだ。
人間と戦える。そして応援してくれている。
はうっと言って女生徒たちが、胸を抑えていた。
ん?なんだ、どうした?
親衛隊メンバーに前後を挟まれて、第2練兵場に向かう。
何か格闘技のリング入場のようだ。
「では、私たちは、観覧席で応援していますので」
「頑張るよ!」
手を振って分かれる。
「アレク様は、罪作りですね…」
「はぁ?」
「今から勝利されて。また女生徒のファンが増えるのでしょうね…」
「でも負けたら、親衛隊は解散だろうな…」
「なかなか穿った見方ですね…」
「あまり良い性格でないことは認めるよ」
「……何か辛い思いをされたことがあるんですか?」
ああ、つい最近な。口にはできないが。
「言ったら、慰めてくれるのか?」
「私でよろしければ…」
「そうか。じゃあ、家族以外には、ユリとレダは信じることにする」
「あっ。ありがとうございます。でも、ランゼ様は…」
「ははは。先生な。信用はできないが、1番頼りになる」
「すみません、仰ってる意味が……」
「分からなくて良い。でも、そういうことなんだ」
「はっ、はあ…」
聞いてますよね。先生!
「もう時間だ」
「では、ご武運を!」
「こういうときは、やることがあるんじゃないのか?」
はっ?と言う顔をしたので、唇を指差してみる。
理解したようだ。
レダが寄ってきて、キスしてくれた。
でも、頬っぺにってのはどうなんだ?
◇
「よく来たな。サーペント!逃げなかったことを褒めてやる」
グラウンドに入るや否や、ハイドラから声が掛かる。
「課外授業だからな」
逃げるわけないだろう。いつも寝付きが良いのに、わくわくしてなかなか眠れなかったぐらいだ。気分てのは、やはり肉体に引っ張られる…要するにガキに逆戻りってことだ。
「そうだ!お前達にとっては、立派な授業だ!2人とも私語は慎め!」
ゼノビア教官だ。審判と介入役をやるらしい。介入役とは、模擬戦を止める必要が発生した時、例えば生徒に生命の危機などに、強制的に中断させる役割だ。
まあ盛り上がって、見境が付かないって場合もあるよな。ガキだし。
観覧席を見ると大勢居るな…見世物じゃないんだが。
魔法科2年だけじゃない。知らない生徒が大勢…他科や他学年も居るということだ。
「アレクーー様ぁぁあ!」
一際大きい声援!
おっ。
シャーロット達だ。2年A組の連中と親衛隊も居る。
そっちに手を振ると、キャァァアアと黄色い声援が挙がる。
俺はアイドルか何かか?
えーーと。
そこから左側に、フレイヤも居た
見付けられて良かった。手を振っておかないと、拗ねるからな。
向こうも可愛い顔で手を振っている。
うーん。兄は頑張るぞ~。
「では、模擬戦のルールを説明する」
「はっ!」
「勝負の決着は、片方が降参した場合、少なくとも一方意識を失った場合か、戦闘継続不能に陥った場合、模擬戦時間20分が経過した場合だ…その場合は戦況がどうあれ、引き分けとする」
戦闘継続不能…?
俺の疑問に答えるように、説明が続く。
「戦闘継続不能とは、基本的に生命力(HP)が上限の3割未満となった時だ。お前達の来ている実習服が赤くなる。ただし、それ以外でも展開が一方的になり、生命の危機、重大な後遺症が生じると判断した場合は、審判の職権で戦闘不能とする。異議は許さない。なお指示に従わない場合は、私が介入して止め、即敗北とさせる」
ふむ。まあ、HPにそれぐらいのマージンがあってもいいか。
「それから、魔道具は事前に審判に登録した物のみ、使用を認める。ハイドラは済ませてあるが。サーペント、お前は何か登録するか?」
「えーと。無いって言ったら、明らかに俺が不利なんですが」
その情報でハイドラが、戦術組み立てられるじゃないか。
「男が細かいこと言うんじゃない」
はっ?……ふん。まあいいか。
「ありません」
「よし。では説明を続ける。禁止事項だ。軍指定の上級魔法は使用禁止。発動の兆候が有り次第、敗北となり介入する。魔法師同士の対戦のため、今回は魔道具、武器による直接打撃も禁止とする」
「拳で殴ったり蹴ったりするのは?」
「問題ない…肉弾戦をやりたいのか?サーペント」
「いえ、あくまでルールの確認です」
「そうか。では、説明は以上だ。双方不服は無いな?認めた後は、異議を一切認めない」
「「はい!」」」
「あっ、言い忘れたが、戦士科戦闘…なんたらクラブの連中が、実況放送をしたいと言ってたので、許可しておいた。あそこの最前列で手を振っている連中だ。安心しろ彼らの声は、観覧席にしか、つまり、お前らには聞こえないようになっている」
そういうのもあるんだね。
ゼノビア教官が、他の教官に手を振って合図する。向こうも振り返した。
歓声が大きくなる
「よし!では……模擬戦始め!!!」
さて…出たとこ勝負で、戦術を考えてないがどうするかな。
むっ!
ハイドラが右にダッシュした。
縮地を使ったように、不連続な加速だ。
おおう。いいなあ、この緊張感。
ハイドラが、高速に移動しつつ、こちらに腕を…
!!
ブゥン!
耳元を衝撃波が突き抜けた。
やべぇー!結構寸前……。
その刹那には、目の前に大きな火球が迫っていた。
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