39話 嵐の前
「お兄様。学園で決闘を申し込まれたと訊きましたが」
フレイヤに尋ねられた。
申し込まれたのは昨日で、今は上屋敷母屋の食堂で夕食後の団らん中だ。
「なっ、何で知っている?」
危なく紅茶を吹きそうになった。
「1年生の間で、お兄様は大変な人気なのですよ」
「えっ?」
1年生なんて、何の接点もないが。
「そんな意外そうな顔をしないで下さい。聖者の直系子孫にして、討竜魔術師、そしてなにより学園一の美男子なのですから…もう少し自覚なさって下さい」
「いやいや。そんなことないだろう」
また、フレイヤの身内びいきだ。
「妹に謙遜してどうするんですか。お兄様をご紹介して欲しいという同級生を、何度目で殺してきたことか…」
殺すのは、目でだけにしておいてくれよ。
「…それで、決闘は申し込んだ身の程知らずの馬鹿は、どんな男ですの?」
言い過ぎだ。
「カレン・ハイドラとかいう2年生だ」
「ハイドラというと…侯爵の?」
やはり、そう思うよな。
「いや、分家の子爵家らしい。ほら、登校初日に玄関で、馬車の到着を妨害した」
「ああ、あの。顔を見ておりませんが。どうせ、お兄様の美貌に嫉妬した、醜い男でしょう?」
美貌って、俺は男なんだが。
「いや、結構美少年だったな」
そう普通にしていれば、結構女子ウケする感じなんだがなあ。
聞いたところによると…いやエマが、勝手に喋ったんだが
「では、今まで有った人気をお兄様に持って行かれた恨みですね。そうに違い有りません」
…なんか動機の推定が偏っているな。
フレイヤは、凄く可愛いし、頭も良いのだが、思考形態というか性格に難ありだな。俺に関わる部分限定だろうが…。
思考を戻そう。妹の推理は、途中がダメダメだろうが、結果としては当を得ているかも知れない。本人は迷惑と思っていても、端から見れば、ちやほやされていたとしか思えないだろうし。前世なら俺も、正直むかついていただろうからな。
──あの子が気になる?
アレックスが割り込んできた。
[そりゃあ、決闘を申し込まれたら、普通気になるだろう…]
──あの子は私に似てるからね……
[んん?どういう意味だ?]
より強く交信しようと、目を瞑る。
[…………おい。アレックス答えろ!おい!]
「………ぃ様、…お兄様!!」
おわっ!
気が付いたら、フレイヤが至近距離に居た
「お兄様ったら。お食事されたら眠くなられましたか?」
「あぁ…ああ。すまんな」
そういうことにしておこう。
「学園で、今みたいに居眠りされると、危ないですわよ」
「あっ、ああ。でもレダが付いているからな」
「ふふふ。レダも安全とは言えませんわ。お兄様の唇は…」
「唇?」
「ふふふ……」
フレイヤが笑いながら、食堂を後にした。
◇
ユリと共に別館にある俺の部屋に戻ると、ランゼ先生が待っていた。
「先生、どうしたんですか?」
「アレクと話したいことがあってな。今良いか?」
「別に良いですけど…」
「ええ。お風呂の準備をしておきます。失礼致します」
ユリが辞していった。
「アレクは、風呂が好きだな。もしかして毎日入るのか?」
「はあ…」
俺は風呂好きだ!
平均的な日本人として、当然毎日入りたい。
しかし、この世界の人はそうでも無いらしい。
まあ前世だって、一生湯船に浸からないのが普通という国の人が多かったし。
こっちは湿気も少ないし、気候が良いしな。シャワーで十分って人が多い。年配の人は大体香水付けているしな。そもそも、降水量が少なくて、水の価値が高いらしい。
アレックスもその点は、平均的なルーデシア人だったようだ。俺が乗っ取って床上げしてから、風呂に入るようになったわけだが。闘病時に、実は汗ばんでトラウマになったと言うことにした。
ユリは、俺が風呂好きになったを知って…というか、関係を持つようになってから、少なくともシャワーを毎日浴びているようだ。
「先生は?」
「ん?臭うか?」
そういえば、無臭だ。いろいろな部位を嗅いだが…おっと。
「いいえ。大丈夫です」
「そうだろう。たまにしかシャワーを浴びないが…」
え”ぇぇぇ。
「そんな顔をするな、魔法で綺麗している」
ああ、良かった…良かったのか?
ということは、レダも同じなのか?
「レダは、最近しっかりシャワーを浴びておるぞ」
「あの、俺の思考を読まないでくれますかね」
「ふふっ、お前も、憶えた方が良いな」
「そうですか?俺は風呂が…」
「男の癖に、そんな綺麗好きでどうする。まあ、それだけの美しい顔だ、そうしたいのは分からないでもないがな」
「顔は関係なくないですか?」
そもそも俺は綺麗好きじゃないし、平均的日本人なだけだって。
「それはともかく、これから泊まりで園外実習もある。そうなると風呂などそう簡単に入れないぞ」
うぅぅむ……実習は良いけど、それは嫌だな。しっかり憶えよう。返り血を浴びることもあるだろうしな。
「その魔法は、教えて頂くとして……ここに来られた用件はなんですか?」
「ああ、そうだった」
おい!
「用件は、決闘の件だ……」
やっぱりな。
「ゼノビアが許可を出したか。あの馬鹿が」
確かに教官は模擬戦の許可を出した。今週の金曜日。つまり明後日だ。
「お前は、勝つ気で居るだろうが…」
「勝負は何があるか分かりませんし、そうは思っていません。ああいう申し入れは、受けない方が良いですか?」
「そんなことはない。好きにすれば良いが…カレン・ハイドラ。そいつ自身は知らないが、彼奴の家系は魔法師でな…」
「へえ。そうなんですね」
先生が身を乗り出してきた。
なんだ?
「どうでもいいが。アレク!最近のレベルアップ連発に慢心していると、足を掬われるぞ!」
俺は、最近ばんばん魔法師レベルがアップした。
それを上回る速度で精神が、つまり魔力の効果を決める法力もあっと言う間に2倍になった。
「はあ…」
「まあ聞け。ハイドラ家は、魔法師の上、魔道具造りで高名だ。本家が侯爵なのは、その線での王国への貢献が大きい」
「魔道具!?」
「魔道具には非常に強力な物や、働きが奇想天外な物があるぞ……どうだ少しは危機感を持ったか?」
「ええ。面白いですね。ますますやる気になってきましたよ」
「あいかわらず戦闘好きだな…」
「先生は、本当に人間同士が争うのが嫌いなんですね」
「ああ嫌いだ!例え模擬戦であってもな」
「戦争なら、言うまでもなくですか……」
先生が怖い顔になった。
「このところ…慢心かも知れませんが。土人形以外の敵で、試してみたいところはあります。ぬめぬめスーツの成果を」
そう。レベルアップの秘密はそれだ。また説明することがあるだろう。
「効果が高いのは結構なことだが……他に呼び名は無いのか?」
先生がやれやれと言う顔をした。
◇◆◇◆◇◆◇
現時点でのステータス
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アレックス・サーペント
・基本
人間:男性16歳
位階 : 貴族(子爵)
婚姻 : 未婚
・状態
クラス: 魔法師 レベル40
生命力: 2150/ 2150[-]
体力 : 550/ 550[-]
魔力 :12850/12850[-]
素早さ: 350/ 350[-]
精神 : 6500/ 6500[-]
異常 : なし
・
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・
・スキル
剣技:LV22 槍技:LV 9 弓技:LV30
乗馬:LV19 回避:LV23 索敵:LV41
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・
・
火炎 / 炎弾 / 焔陣 / 爆焔
烈風 / 風壁 / 旋風
水礫 / 水斬
土槍 / 土銛 / 版築 / 縮地
回復 / 強壮
解毒 / 治癒
詠唱短縮 / 無詠唱 / 瞬間発動
結界
獣懐柔 / 獣操縦
身体強化 / 金剛
魔鑑定(初級) /魔鑑定(低級) /魔鑑定(中級)
魔収納 /魔収納(拡大)
・称号
聖者の曾孫
討竜魔法師
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2016/06/12 アレックスへのアレクの返事を[]で挟む表記に変更




