38話 決闘を申し込まれる
老師ことヴァドー師の挨拶が終わり、魔法科講義室に戻ってくると、中途半端な時間となったためか、自習となっていた。
まあ責任のほんの一端を感じるな。
課題が出ていた。問題集をやれか…。
教師は居ないが、助教と呼ばれる監視員は居るので、皆素直に問題集をやりはじめた。穴埋めと5択問題だ。
10分位経って、俺が半分くらい終わると、隣のレダがペンを置いた。
もう終わったのか?
さらに10分掛かって、やっと俺も終わった。周りも見たが、まだほとんどの生徒が解いている。つまり、俺が遅いわけではなく、どちらかといえば速い方だ。しかし、レダは倍速い。
「解き終わった者は、隣同士で答え合わせをしなさい」
こっちを見た助教が命じてきたので、レダと答え合わせする。
なんと、レダは全問正解!
驚き掛けたが、よく考えたらランゼ先生の知識をある程度引き継いでいるのだった。
俺はと言うと。
「3問不正解です」
全25問だから88点か。悪くは無いが、レダと比べるとな…。
「館でも見ておりますが。アレク様は根が素直でらっしゃいますので、引っ掛け問題に弱い傾向がございます。しかも、誤答は後半ばかり、焦らず取り組まられるとよろしいかと」
へいへい。レダの速さを見て、ビビって焦りました。認めますよ…と思いつつ。
「うむ。心しよう」
冷静を装ってみた。何を言っても負け犬っぽいからな。
終業のベルが鳴り、助教が出て行った。
さて、私室に帰ろうと、持ち物一切をレダに渡す。言って置くが、いじめではない。彼女は魔収納に入れるので、重たい物を持たせるわけではない。
立ち上がると、エマ達に立ちはだかれた。またか!
「あのう。アレク様」
「アレク様は、ご帰宅の待ち合わせ時間がございますので、手短に願います、エマ様」
「あっ、うん」
ナイスフォロ-だ!レダ。
「では、単刀直入に。アレク様は、竜属をご自身で討たれたことがあるのですね?」
「まあ、弱ったガーゴイルだがな。だから、そんなに、みんなが騒ぐ程のことじゃない」
「いいえ。称号というものは、価値無くして顕現するものではありません」
エマの従者ビアンカが、口を挟む。そうなのか?
「確か、30年前。平民ながら火竜を斃した戦士が、いきなり軍で大尉になったはずです」
大尉と言えば、兵士なら生涯最後に辿り着く地位だ。それは、すごいなぁと思いつつ、顔には出さない。
「とにかく。アレク様が、大変お強く、見目麗しい魔法師であられることがはっきりしました」
いやいや。でも、みんな頷いてる。
「そこで、アレク様の親衛隊を結成したいと思います」
はっ?
親衛隊?
俺は、アイドル歌手にでもなったのか?
「えーと。冗談だよな?」
彼女達が、一斉に首を振る。
「いや。強いなら、守られるのじゃなくて護る方だろう」
なんだか頭痛がしてきた。
自信たっぷりに破綻している論理を押されると、聞いてる方が混乱する。
レダが前に出た。
「アレク様を、お守りするのは、従者たる私の聖なる使命です!」
いいぞ!レダ。
もっと言ってやれ!まあレダは、護衛より監視だろうがな。
「でも、お仲間が居るのは悪くありません」
何だと!
「レダちゃん!」
「エマ様!」
がっちり握手してるし。どういうことだよ?レダ。
「おい!女子共退け!」
「ちょっと、何よ!」
ハイドラだ。
不平を鳴らす女子を無視して、俺の前に来た。
「おい!サーペント。顔を貸せ!俺はハイドラ侯爵家の…」
「侯爵家はご本家で、お宅は分家で子爵でしょう!それで、あなたは准男爵」
ちなみにルーデシア王国の爵位は、大公爵(王弟あるいは王太子)、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵。ここまでが正式な貴族だ。その下に准貴族として2つ、本来は大貴族の部下である准男爵と、そして一代限りかつ名誉位の士爵がある。魔法科には士爵の子女が多い。
ちなみにサーペント家は辺境伯だ。伯爵と実質差はない。まあ、名前を呼ばれる時とか、何かの順番がつくとき先に呼ばれるくらいの差で、あまり一般に区別されず、父も正式な場以外では伯爵様と呼ばれている。ちなみに、辺境伯と呼ばれる家は、国境線近辺に本拠領地があって、防衛のために独自戦力保有が許されており、領域地内の刑事・司法権を有する。
「ふん、俺は今サーペントと話しているんだ。レイミアス」
「先に割り込んだのはあなたでしょう!ハイドラ君」
話を戻すと、ハイドラ家より我がサーペント家の方が上位だが。事はそう簡単な話ではない。本家侯爵家の威を振りかざしているからな。
「それで、何の用だ?ハイドラ」
「顔を貸せ!」
「ここで言えないことなんですか?我々が先にお話をしていたんです。ここから連れだそうなんて、虫が良すぎだよ!ハイドラ君」
おお、流石は親衛隊長!
「ふん!じゃあ、ここで言ってやる。私と決闘しろ!サーペント!」
「決闘?」
「ハイドラ殿。貴族同士の決闘は、王国法で禁じられていますが。ご存じないのですか?」
レダは、いつも冷静だな!
「従者の分際で、差し出がましい!知っている。だが授業の一環で試合を行うことまでは禁じられてはいない。実際私は7人決闘で倒しているしな。いずれも立会人はゼノビア教官だ!」
面白い!
「ならば、相手をしよう」
「アレク様!」
「取り消しは効かんぞ!はははは…」
高い嬌声を響かせながら。ハイドラは教室を後にしていった。
「もう。アレク様ったら」
はあ、とレダは溜息を吐いた。
「アレックス様、あんな馬鹿に付き合うことないのに…」
「俺は喧嘩は売らないが、売られた喧嘩は買う主義でな」
「見かけによらず、武闘派ですね!アレク様は」
その見かけがなあ…。
「それにしても、何か強いって魔法科生が現れると、絶対決闘しかけるねよね、ハイドラ君は」
「男子限定だけど」
「そうだね、女子とも戦ってないことも無いけど……挑まれたときだけかあ」
うーーむ。変に陰に籠もらなくて、決闘申し込むことは別に悪くないと思うがな。
確か、俺ってガキの頃は喧嘩早かったよな。
筋肉を付けまくるようになってから、ほとんど誰からも絡まれなくなったはずだが。
それが今では…。
ステータス上では、体力値や生命力値は人並み以上になっているのに、今だ手足は細いし、ガリガリだ。ユリは筋肉付いてきましたよと言ってくれるが……俺の理想とは程遠い。
ランゼ先生の好みの体型から外れないように、体質を調整されているからな。
「でも…彼はいけ好かないやつだけど、こと魔法については、負け無しなんです」
「ほう。なんだかエマも戦ったことがあるみたいだな」
こくっと頷く。
「速攻負けましたけど」
「ほう、そうか。強いんだな彼…美少年なのにな」
顔立ちは良いし、目も綺麗だ。なんか倒錯的な美しさだが…。
ふふふ…。
あれ?みんな笑ってるし。
「それ、アレク様が仰ると嫌みです」
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