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36話 メイドと狼少女

 はあ、はあ、はぁぁあ……。


 目眩めくるめく、ひとときの後

 荒い息を吐いていたユリが、ようやく俺の横で上体を起こした。


 至近距離で魅惑の肉塊が揺れたが、生憎あいにく俺は賢者タイムだ。


「アレク様…」

「なんだ?」

 3回戦のおねだりか?今夜は前哨戦もやったわけだが……まあこの歳だから問題ないが。


「あのう、たくさん汗を掻かれていますので、シャワーを浴びませんか?…今度は私が流して差し上げます」

 今度は?


「えーと」

「レダとシャワーを、ご一緒されたと聞き及んでおります」

 はあ。

「じゃあ、浴びるとするか」


    ◇


 ふう、さっぱりした。色んな意味で。

 ユリの一糸纏わぬ姿を見たら、賢者タイムなはずなのに抑えが効かなかった。


「なあ」

「あっ。今、お拭きします」

「そうじゃなくて、自分で拭くよ。ユリも疲れたろ」

「いえ、私は…お任せ下さい。アレク様のお世話ができるのが嬉しいのですから」

「ああ…」


 悪いと思いながらも、結局甘えてしまうな。 

 俺に寝間着を着せたユリは、今度は自分の下着とメイド服を着ようとしている。

 自分の部屋に戻るためだ。


「なあ…」

「はい」

「朝まで一緒に寝ないか?」


 ユリは眼を大きく開き、そして伏せた。


「……それは…困ります。朝までご一緒できるのは、奥様だけです」

「誰が決めた!」

「誰が?……誰と言うか……不文律しきたり。そう、メイドの不文律です」


「俺の命令と、その不文律とやらは、どっちが大事なんだ?」

「そっ、それは………アレク様のご命令です…ご命令が絶対です!」


「では、ユリに命ずる。一緒に俺と朝まで眠れ!」

「はい。喜んで……」

 ユリは涙ぐんだ。


 俺はぬくもりと共に眠った。


 ◇◆◇◆◇◆◇


「アレク様。起床の時間です。お目覚め下さい」


「ああぁぁあ…ユリ…あと五分。一緒に寝よう…」

 俺は声の主に抱きついた。


「きゃぁぁぁああ」

 何で悲鳴?

 あれ…なんだか…。

「小さい」


 俺は手の感触に、違和感を感じて目が覚めた。


「おぉ、お、お、おはようございます。小さくてすみません」


 アンだった。胸を押さえながら、ちょっとむっとしてる。


「いや。そんなことはない。ユリより小柄なだけだ」

 それも絶対的な大きさなだけで、小柄なアンには大きく見えるしな。


「チーフの胸の大きさは、把握されているんですね」

 むっ!

 胸って言ってないだろう。胸のことだけど。


「ああ、詳細にな。さっきアンのも憶えた」

 負けてられん。


「ふふふ。服の上から触ったぐらいで、知った気になられるとは。甘く見られたものです。まあ女子の胸は、殿方に揉まれると大きくなると申します。ぜひお願いしますと、申したいところですが、今朝は時間がございません。またの機会にお願い致します」


「ああ。考えておこう…そういえば、ユリはどうした?」

 目覚めさせてくれるのは、ユリの役目のはずだ。


「ええ。今朝は厨房長がぎっくり腰を起こしまして」

「ほうぅ?」

「そんなに大したことは無いですが…副長は非番で捕まらず、代わりにチーフが朝食を作ってます」

「そうか…」

 それで、アンが起こしてくれたのか。


「ふーむ。そうだ、ゾフィのことなんか聞いてないか?」

「さあ…。なぜ私にお訊きになるんです!チーフの方が良くご存じかと思いますが」


 またしても、アンがふくれている。


「ん?」

「アレク様は、他のメイドのことばかり。私のことは気にならないんですね!」

「がんばれ!」

「もう胸ばっかり見て…早く起きて下さい!」

「わかった」


 アンに手伝って貰って着替える。

 少し気になって、鏡で確認していると、後ろから声が掛かった。


「あのう」

「なんだ?」

「質問があるんですが」

「言って見ろ」

「その、若い殿方っていう生き物は、朝起きた時…」

 生き物?


「あそこが大きくなってる聞いたんですけど…なってませんでしたよね?アレク様」


「痛ぁぁぁあ。つなら、頭じゃなくてお尻でお願いします」

 ちょっとはたいただけだろう、大げさだな。もうちょっと、お灸が要るな。

「やかましい!」

 ひっ!

 涙目で見上げてきたので思い留まる。


「若い女が、そんなこと言うもんじゃないぞ、アン!」


「すみません…」

「まあ、毎日じゃない」

 昨夜はユリと…だからとは言えないしな。


「そ、そうでしたか…何時までも手を出されないので、ちょっと心配になりまして……」

「出して欲しいのか」

「はいっ!」

 満面の笑みだ。


「考えておく……」

「絶対ですよ……そうだ。ロキシーちゃん、どこに居るかご存じありませんか?」


「さあな」

「そうですか。では失礼します」


 彼女は、寝間着を持って下がっていった。

 ロキシーか。


     ◇


 亜空間。

 先生の研究室とは違う位相・・?らしい。


 ここは仕切りがなく、とにかく広い。

 出入り口となってる、ここだけは不自然に白い床が露呈しているが、周りはみんな腰丈ぐらいまである草ッ原だ。

 左の方で、ざざっと音がする。


 先生がどこから狩ってきたのか、小動物や、第2階位までの魔獣も放たれている。


 ざっと音がして、白い塊が飛び出した。

 俺は避けることもなく。それを受け止める。


 飛びかかって来たのは狼だ。はぁはぁはぁ…息を荒げている


「おお。なんか重くなってないか?ロクサーヌ」

 先生が成長を鈍化させているはずだが…。

 床に降ろす。

 毛色が青みがかっている以外は狼と変わりない。まあまだ子供なのだが


 座った獣相の彼女の頭を撫で、首元から腹を掻いてやる。

 嬉しそうに、眼を細めた。


 そう。ここはロクサーヌが、王都暮らしでストレスを溜めないように、運動させるために作った空間だ。俺ではなく先生がだが。

 なにやら飼い始めるときは、渋っていたけど、至れり尽くせりだよな。どんな下心があるんだか……。


「もう朝飯の時間だぞ。ところでお前誰と来たんだ?」


 辺りを探ってみたが、ロクサーヌの反応以外はない。

 ここに来られるのは、俺に先生にレダ…。


 そう考えていたら、ロクサーヌの顔が変わり、毛が短くなっていく。

「ほう。自分の意思で相転換できるようになったのか!」


 そうだ。もう一人いた。 

 この全裸の少女ロキシーだ。


「アレクぅ」

 抱きつかれた。

 懐かれたもんだなあ。俺も。

 うぅぅんと頭に押しつけている。

 耳の位置は、獣相の時に比べて大分下がって、頭の横に降りて居るが、三角で狼ぽい。

 首筋から、背中、腰に掛けて、人に比べると結構毛深いな。


 背は130cm程だが、胸がぺったんこだし。流石に何とも思わない。

 しかし、言語能力も随分発達してきている……この子にあんまり無理させてなければ良いんだが。


「ロキシー。お前、服をどこにやったんだ?」

 こっちを見上げた。

「服だ!服。これ、着る物だ!」

 自分の服をしめしながら言うと、あっ!という顔をした


「あっち!」

 指の方向に白い物が点々と散らばっているのが見えた。


「拾って…来い!」

「あいぃぃ!」


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