35話 シャワータイムと過去の話
登校初日、午後の授業は自分で掘った穴を埋めて整地したあと、ひたすらランニングさせられた。魔法科なのに。
いわゆるシゴキの積もりなのだろうが、体力強化を図っている俺にとっては、何の問題も無かった。
汗と埃まみれになって、自室に戻る。
このまま馬車に乗ると、フレイヤに悪いので、シャワーを浴びよう。
普段は、着付け同様メイドに脱がせてもらっている。が、折り悪くイーリアがレダを訪ねてきたので、自分で脱ぐ。
一応言っておくと、脱がせてもらっているのは、ランゼ先生からメイドの仕事をとるなと言われているし、アレックスの行動パターンを変えすぎるのは、変に思われるからだ。脱がせてもらいたいわけでわない。
ああ、お湯が気持ちいい。
運動の後は、ひとっ風呂入って、ビールだよな!まあ、今はシャワーだし、転生してからは飲んでないが。
あらあら、こんなに脱ぎ散らされて…。
外からレダの声が聞こえてきた。
「失礼します」
「ああ」
レダが、シャワー室に入ってきた。俺を洗ってくれるのだろう。いつものことだ。
「申し訳ありません。石鹸を取って下さい」
「ああ…」
!?
「ちょっ…」
レダが全裸で、立っていた。
下から上までじっくり観てしまい、最後に赤くなったレダと目が合って、慌てて壁の方に向き直る。少しパニックだ。
「なっ、何で裸なんだ?」
メイド達が洗ってくれるのはいつものことだが、そのときは浴衣を着ている。
「申し訳ありません。フレイヤ様のご帰宅準備が既に整って居るとのことで」
「はあ?」
「アレク様がシャワーを浴びられた後、私もというのは、時間的に…明日には浴衣を持ってきておきます」
そう言って、俺の背中を洗い始めた。
さっき、フレイヤの従者イーリアが来ていたのは、そういうことか。いや、だからといって。
「フレイヤも観覧席で見ていたのだから、状況が分かっているはずだ」
「まあ。百人位見ていたのに、おわかりでしたか……でもイーリアに答えてしまったので……」
「じゃあ。俺はもう出るよ!」
「そうは参りません。私がシャワーを浴びるために、アレク様を追い出すなどできようがありません」
「うーむ…仕方ないか。でも適当で良いぞ。館に戻ったら、また入るし…」
汗は流れるが、湯船に入りたいのだ。
「アレク様、こちらを向いて下さい」
「いや、前は自分で洗ったし…」
本当は湯を浴びただけだ。
「私が入った時に、泡が立っていませんでしたが」
見透かされている。
仕方ないので、股間を手で隠して振り返る。
レダの胸が泡をうっすら纏いながらも、十分に首筋から、その量感を魅せている。
先生は、小さくて悪かったと言っていたが、基準が違う!元日本人の俺に何の不満があろうか?
いや、ない!!でかいぞ!
洗ってくれる動作でフルフルと揺れる光景は、まさに桃源郷だ。
首筋から胸、脇の下、腕を洗い終わる。
「手をどかして下さい」
「いや、無理無理!」
「はい?チーフには見せられて、私にはだめですか?」
ユリは特別だ!いや、今はそういう話じゃない。本当の貴族は、メイドに羞恥心を憶えないが……。
「いや、いつもは良いけど、今はちょっと…」
「時間がないんです!」
レダは、床にしゃがみ込んだ。
えぇぇい。ままよ!
「わかったよ」
「始めから、そうしていただ…えっ?あの…何で?」
だから言っただろう。
そんな魅惑的なもの見せられたら、そりゃ大きくもなるって!。
「しっ、失礼します!」
はいはい。後は自分で…
「うわっ、そこは!」
出るって意味じゃないのか?思い切り掴みすぎだ。
「もっ、申し訳ありません!」
「も、もう良いって、自分で洗うから…えっ?」
いや、こんな時に涙ぐむのは反則だって!
「わかったよ。煮るなと焼くなと好きにしてくれ!」
「はいっ!やさしく、やさしく…」
そんな、にこやかにされると、こっちの心が痛むんですが。
身体を拭いてもらって、着付けしてもらう。
ソファに座って待っていると、従者服のレダが出て来た。半乾きの髪が艶っぽいなあ。
ドライヤーってのは無いもんですかね、魔石で熱風が出るとか。
「お待たせ致しました。アレク様」
「行こうか!」
◇
部屋を出ると、フレイヤがこちらに歩いてきていた。
馬車に乗り込むと、すかさず腕に抱きつかれた。
「あら?お兄様、シャワーを使われたのですか?」
「ああ」
男は、やましいとき饒舌になるらしい。いつも通りが肝心だ。
フンガフンガと、フレイヤが息を鼻から吸い込む。臭いチェックのようだ。
洗っておいて良かったな。
「残念……」
「はっ?」
そして、フレイヤがレダを睨み付ける。
髪を見ている。うわっ、勘が鋭すぎるぞ。
「レダとご一緒されたのですか?」
「ん?それがメイドの仕事だろう?」
うん、うまく言えたな。
「そうですがぁ…そうだ!明日からは、私が洗って差し上げます。よろしいですね、レダ!」
「フレイヤ。わがままはやめなさい。あまり言うと、別々に通うことになるぞ!」
「そんなあ。絶対嫌です!」
「だろう…フレイヤも淑女となったのだ。自分を抑えることを知らねばな」
「…お兄様の仰せに従います」
「それでこそ、我が妹だ!」
はいっと力一杯抱き付いてきた。胸が当たってるって!
◇
別館に着いた。
ユリが普段着に着替えさせてくれたのも、上の空だ。ユリが退がっていった直後、先生の部屋に行く。
居ない。
例の空間だろう…奥の部屋に入って、鏡から入り込む。
ベースキャンプと呼ぶ一角に先生は居た。
「おお、アレク。お帰り」
「ただいま戻りました……じゃなくって」
思いっきり先生がにやけている。
人が悪すぎだろう。
「まあ、登校初日、無事で良かったな」
「あんまり無事とは思えませんが」
「いやいや。よくシャワー室で、レダを襲わなかったな」
「学園で襲うわけないでしょう!」
「そうかそうか。やはり乳が…」
「違います!」
「冗談だ。そうか学校ならな…くっふふふ」
思い切り腹黒い嗤いだ。
「はあ。先生に聞きたいんですが」
「何だ?」
「レダの思考をどれだけ操作しているんですか?」
低く唸って、先生は顎を摘んだ。
「それを訊いてどうする」
「行き過ぎだと思えば、是正して貰います」
「まずは、レダには、アレクは大事だ!生命に危険が及べば、お前は替えがある。身を挺して護れだな」
替えがあるという点は、怒りを感じるが、まあ判らないわけではない。
「それから?」
「それぐらいだな。ただし、前にも言ったが、私の思いは純粋な方向で継承している。つまり、私と同じくらい、レダはお前が好きだということだ」
「……本当にそれだけですか?」
「ああ」
「じゃあ、俺に裸を見せたのは?」
「別に具体的には指示していないぞ。お前には見せても良いと……いや、見せたいと思ったんだろうな…」
「はぁ?」
「お前に、躰を見せて深い仲になりたいと、潜在的な願望が出たように見えたがな」
「信じにくいんですが」
「超越者として生きる意義を除けば、私の願望そのものなのだ。私には分かる」
「えっ、えらくあからさまですね」
「ああ。逆もまた真だ。レダの興奮は、私に及ぶ。どうだ。お前も収まりがつかんだろう…実はな、私もそうなのだ。今からどうだ?」
図星だが、俺にも意地がある。
「そっ、それよりも…ゼノビア教官と先生って、どんな関係なんですか?良い関係で無いことだけ判りますが」
「見て判ったと思うが、ヤツ…ゼノビーはダークエルフでな…」
「やはり」
ゼノビーね…。それはともかく、ダークエルフとは、ハーフエルフであるのだが、褐色の肌、黒目黒髪の個体だ。
エルフ神話で神を裏切りったのが、ダークエルフとなっている。
ハーフですら肩身が狭いエルフ社会で、集落から追い出される程忌み嫌われる存在だ。
何の根拠もない。ただ肉体の色の問題だ。
「20年程前、私の生徒でな…」
「ちょっと待って下さい。生徒というのは?」
「ああ、お前の両親をくっつけるため、パレス高等学園の魔法教官をしていた時の、生徒の1人だ」
おいおいおい。
「やっぱり先生は、昔、学園の教官だったんですね」
「言ってなかったか」
「はい。それでヴァドー師と繋がりがあるんですね」
「そういうことだ。今も非常勤講師ということになってるはずだ」
はずだって…。
「それは分かりましたが、なんでゼノビア教官に恨まれているんですか」
「恨んでるかどうかは知らないが、夫人が恋人に成る前に、伯爵と仲が良かったのはゼノビーだな」
「つまり…」
「間接的だが、ヤツに失恋させたのは私だろうよ」
頭、痛た。
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