34話 通過儀礼
今から、年度初めに当たりのヴァドー師の訓示がある。
『王都で待つ。万全な身体で来い!』
ヴァドー師の伝言をランゼ先生から聞いたけど。期待されているんだか、どうだか。
それにしても、どうも学園内に居るのかな。そこそこ魔力の強い人は感知できるのだが、近辺に居る気配がない。まあ、ランゼ先生を感知できないことが多いしな。
以前練兵場で、見かけたときには姿を現すまで、気配を察知できなかったが。やはり、効果の高い魔法で防御しているのだろう。
今日の授業は、練兵場だ。
俺の前を、レダは歩いて案内してくれる。
いやあ、良い服だ。
レダのメリハリの付いた体型を、より引き立ててくれる。
セルビエンテと同じく、ドーム状の建物の内部に土のグランドがある。内壁にも意味不明な文様が描かれているのも同じだ。ちなみに練兵場は屋外、屋内の2つあり、今日は後者の第2練兵場だ。
おっと、既に生徒達が整列している。
しかし、全学年が揃っている割に少ないな。どうやら1年生と3年生は居ないようだ。
おかしいな。全学年で訓辞を聞くんじゃなかったか?
そちらに歩き出すと、女生徒が手を振っている。
「サーペント様ぁぁぁ!」
目が大きく、なかなか可愛い子だ。
名前は、エマ・レイミアスだったはずだ。食堂で同席した中にいた子だ。男爵の娘だったな。この子も、レダと比べるのは可哀想だが、なかなかのプロポーションだ。
列に近づくと、2年A組以外の生徒も居る。やっぱり女子が多い。まあ魔法師の7割は女性らしいからな。さらに、女生徒の従者は、間違いなく女子だから、全体で34人中、男子は13人だ。2年は5クラスあり総員で120人。魔法科は、家政科に次いで、女子率が高い学科らしい。
「サーペント様…」
「エマ。さっきも言ったけど、アレクで良いよ」
「嬉しい。ちゃんと名前を憶えてくれましたね。アレク様。ちゃんと並んでないと、教官のゼノビーが怖いですよ」
ゼノビーとは、ゼノビア先生のことらしい。
「分かった」
本鈴のベルが鳴った。
俺達が入ってきた門とは逆側の門から、実習服に身を包んだ女性が現れた。
噂していた教官だ。
未だヴァドー師の気配を感じないが……。
「号令!」
「教官に向かい礼!」
右胸に拳を当てる軍礼を捧げる。
教官は、一同を見渡していく。
「直れ!」
「前期日程開始当たり、本来ヴァドー師より訓示戴く予定だったが、本日は勿体なくも王より諮問を受け、王宮へ参内されている。よって訓辞は、またの機会となった」
やっぱり居ないのか。それで、他の学年は来てないのか。
おっ、こっちを睨んだ。
「共通科A組の者は知って居るだろうが、昨年度全ての課程を病欠し、本日2年次に復学した者がいる。一歩前に出よ」
俺とレダが前に出る。
「自分の名前を言え」
「アレックス・サーペントです」
「レダ・ハーケンです」
俺達の前まで歩いて来る。
「師は認めたようだが、私は認めていないぞ、サーペント。2年次に復学できるかどうかは、実力が有るかどうかだけだ」
「それは、アレク様にその実力がないと言うことでしょうか」
「誰が私語を許可した!ハーケン」
うわー、嫌な教官だな。
「今日は、お前も初日だ。大目に見てやる。お前ら2人が実力を示せたらだが。あそこにある的をお前等の魔法で破壊せよ!それが課題だ」
「了解!」
さて、了解はしたが、どうやるかな。的は30m位先の土を固めた直径40cm長さ150cmくらいの円柱だ。
課題が簡単過ぎる。何か裏がありそうだ。
「では、私から」
ちっ。そう、小さな舌打ちが聞こえた。教官の方から。
─ 氷礫散 ─
レダの掲げた腕の先から、無数の飛礫が眼にも留まらぬ速さで発射される。
大気中の水蒸気を一瞬にして氷結させ、高速度で打ち出す魔法!
飛礫が的に殺到…と思いきや!
あろう事か!的がいきなり1m程動いた。
これか!企みは。
虚しく飛礫は、元の位置を通過した。
が!
さらに続く氷の飛礫は、弾道を変え、鞭のようにしなった!!
的を瞬く間に撃ち抜き、グズグズの土塊へ変えた。
ひゅうぅ…。やるなぁ!レダ。
「ふん。よくやったな!ハーケン。1発でと限定しなかったからな合格にしてやる」
レダは、優雅に会釈を返した。
まあ、的が動くとも言ってないしな。
「なんだ?サーペント!不服そうだな!言いたいことが有れば言って見ろ」
応える替わりに、にやっと嗤ってやった。
「随分余裕だな、サーペント。では、多少難度を上げてやろう」
頼んでないが!
土円柱が、高速で地面の上を機動し始めた。しかも、動きが不規則だ。
うわぁっと、他の生徒も溜息を漏らした。
「サーペント。撃って良いのは1発のみ。あとは、そこから動くことは許さん!」
「了解!」
──なんだかムカつくね。
[出てくるな。アレックス!]
──じゃあ、任せるけど。鼻を開かせてやってね!
[ああ!]
腕を上げて構える。
的の動きは、半径5m程の範囲を動き回っている。
これもきっと罠だろう!
凝縮せし劫火もて刹那に燃やし尽くせ! ─ 炎弾 ─
白味が掛かった焔が、俺の手の先に産まれ、轟と唸りを上げて飛翔した!
動きの範囲の真ん中へと。
「甘い!」
その刹那。
的は地を離れ、斜め上に飛び出した。
「上!?」
俺の撃った炎弾が地に…墜ちる!
全く的とかけ離れた位置に…。
──フッ
教官の口角が釣り上がった刹那!
ドッガァァァァッッッッッ!!!!!
凶悪な地響きとともに地が爆ぜた──
衝撃波が半球状に広がり、的を含む空間を圧した。
土の塊が、四方八方に飛び散る。無論こちらにも。
─ 風壁 ─
障壁にバシバシと、土塊が当たるが、全て防いだ。
「キャァァアアア……ア・あ・あれ?」
悲鳴を上げたのは、エマ…の従者……なんて名前だっけ。えーと。
「ビアンカ…やっちゃった」
エマが嘆息した。
そうそう。ビアンカだった。
「ビアンカ!無様に悲鳴を挙げた罰として、練兵場10周!レイミアス!お前も連帯責任だ!」
「「はい!」」
2人が、門へ走っていく。
ありゃあ、悪いことしたね。
もうもうと舞い上がった土煙が収まってきた。
炎弾が墜ちた辺りは、地面に大きく穴を穿っていた。
的は、衝撃波か、飛び散った土に当たったか…ともかくも原型と分かるものは存在しなかった。
「それと、サーペント!」
「はい」
「的を破壊したと認めよう。あの女の弟子にしては随分と効率の悪いやり方だな…だが、私は嫌いじゃない」
あの女…ランゼ先生のことだろうが…どんな関係があるのやら。あまり良い関係ではないに違いない。
女教官は、外れたと早計したときより上機嫌の面持ちだ。
「では、サーペントとハーケンの、復学を認めない者は、一歩前に出ろ!」
踏み出した者は居なかった。
だが…。
「ハイドラ。不服のようだが、異論があるのか?」
おっ、今朝登校を邪魔した男子だ。居たのか?!
ハイドラ…そういう名前の侯爵家があったはずだ…が、学園長は我が家がもっとも上位と言っていたから、違うのだろう。
「いいえ!」
声変わりしていないような高めの声だ。
「ふん。そうか、その顔はそうは見えんがな。まあいい、満場一致で、2人の復学を受け入れる。あのでかい穴を埋めておけ!」
「はい!」
是非是非、ブックマークをお願い致します。
ご評価やご感想(駄目出し歓迎です!)を戴くと、凄く励みになります。
Twitterもよろしく!
https://twitter.com/NittaUya
訂正履歴
2016/06/12 アレックスへのアレクの返事を[]で挟む表記に変更
 




