幕間 魔法談義
まだセルビエンテの館に移る前、俺が魔法を勉強し始めた頃の話だ。
「以上が、基本の話だ。後は本を読んで自分で学べ!」
俺の執務室のソファで向かい合ってる、ランゼ先生が理不尽なことを言いだした。
「あっ、あのう。先生」
「なんだ、アレク?」
「いや、そのう。魔法の学習の導入にしては、短すぎませんか?」
「なんだ、不満か?」
先生は、造形の神が大いに恵みを与えた脚をゆっくり組み替える。
短いローブから大胆に露出された肌に、思わず視線が持ってかれそうになる。
いやいや。もう誤魔化されませんよ、それぐらいでは。
「不満というか、もう少しお願いできませんかねえ…」
「そうは言うが…確かに私は教師だが、お前には1度教えたわけだからな、2度もやらせる気か?」
「いやあ、前はアレックスで、今回は俺ですから」
「お前は、お前だろ。訳が分からないことを言うな」
訳分からないのは、あんたじゃないかと思いつつ、ぐっと堪える。
確かに何が分からないかと言う点に、気が付けば、頭痛と共に思い出せなくもないが、辛いんだよな。
「うーん。お前が困った顔には…これが惚れた弱みかぁ」
嘘臭ぇー。
「仕方ない。本に沿って教えるのは御免被るが、質問があれば言ってみろ。答えてやる!」
当たり前のことを恩着せがましく言っても、ははぁって平伏しそうになる、この人は何なのだろう…。
「では、質問ですが…魔法って何なんですか?」
「また漠然とした質問だな…どういうレベルで答えて欲しいんだ?」
「はっ?」
「ここの料理長に理解できるレベルか?魔法師だった奥様レベルか?王立アカデミーの研究者レベルか?それより上か?」
「……それぞれ違うんですか?」
「当たり前だ。聞くヤツが理解できないことを言っても仕方ないだろう」
「おふくろさんレベルって、きっと、この書籍レベルですよね」
「察しが良いな」
「この書籍、情緒的でとっかかりには良いんでしょうけど、整理ができてないんですよね」
「生意気だな」
「はぁ…済みません」
「でも、私もそう思ってる」
おーーーぃ。
「なんて言うか、俺は前世では、大学の工学部で学んだんですが」
「自慢か?」
こっちの世界にも大学は有るが、研究機関ではない。しかも、神学、法律学、経済学と文系しかないらしい。研究はアカデミーの領分だ
「いえ、単純にこちらとは環境が違うだけです。俺達の世代の半分は大学に行ってましたから…ああ日本って国の話ですが」
「半分、信じがたいな…ふむ、それで?」
「魔法=不思議な力っていう理解では、どうも…」
「その辺りは坊ちゃんだった、アレックスとは違うな。それで、お前は何だと思っているんだ?」
いやいや、質問したのは、俺だし!
俺のレベルによって答えを選ぼうって腹か?。
じゃあ…。
「魔法は、力場だと思います」
「ほう」
手で続けろと促された。
「前世には、4つの基本的な力ってのがありまして。2つは省きますが、一般的な現象は電磁気力と重力の2つで説明できると言われていました」
「随分難しい言葉を知っているな。お前が学士だったと言うのは本当のようだ」
疑ってたのか。先生!
「それで、前世には魔法なんか無かったし…いや…見つかってなかっただけかも知れませんが。それはともかく。俺の仮説としては、魔法は第5の力なのかなと」
「ふむ。それは勘か?」
「勘ですが。そうとしか考えられないなあと」
「悪くないぞ、続けてくれ」
「電磁界というのは、電荷に力が作用する力場なんですが。魔法もそれに近い物かなあ…と、それぐらいですが」
「良い線を突いているぞ」
「そうですか」
「ああ。それは定式化されているのか」
「マクスウェル方程式というものです」
「マクスウェル…」
「発見したと言うか、まとめた人の名前です」
「魔法も、式で表現するイメージがあるか?」
おっ、流石研究者、こういう話題には食いついてくるね。
「流石に、そこまで考えてませんけど。魔法が熱を起こせるところを考えると…そうですね、マクスウェル方程式が拡張されたような形かなあ。魔束密度というのが有れば、湧き出しがあって、魔荷密度と同じ。魔界強度の回転は、電束密度と磁束密度の時間偏微分の和に等しいとか。電界と磁界のそれぞれの回転には魔荷密度の時間偏微分の項も入っているとかだと、辻褄も崩れないし、面白いですね」
「うーーむ。その式は、今思いついたのか?」
「えっ?そうですけど」
「見直したぞ、アレク!」
「おおう。珍しく褒められた…まあ方程式を知っていれば、誰でも思いつきそうですけどね」
そう言いつつ。ちょっぴり誇らしい。ちょっと先生の反応が大げさだ。
「もしかして、俺の仮説は正しいとか?」
「いや」
うぎゃあ、気を持たせすぎでしょう。泣くぞ、俺。
「まあ、それでだけでは正しくないと言った方が親切だろうなあ」
「と言うと?」
「魔法は重力にも影響を与えるからな」
「さらに拡張する必要が…あるとか」
「ふふふ」
いやいや、”ふふふ”じゃなくて。
「重力の方は、アインシュタイン方程式ってのがありまして。ああ、アインシュタインは人名です」
「お前達の世界は、目立ちたい人間が多いな」
「いや、それは周りの人がそう呼んだってだけですよ!もう」
「それで!」
「いや、俺は工学部なんで、そこまでは」
「ふん。テンソルとかで躓いた口か」
図星!
「というか、知っているんですか?」
それにしても、どう見てもテンソルって発音して居る口には見えないし、そういう俺自身もテンソルとは違う口の動きだ。これも後で聞くか。
「ああ、こっちの世界では一般化されていないし、お前が居た世界には魔法項が無いのだろうから違うだろうが。空間の歪みで表現されるのは同じだ」
すげーー。
「はぁぁああ」
「なんだ、感心してるのか」
「ええ、こんな科学水準が高そうにない世界で、凄いですね」
「ふん。超越者を舐めるなよ」
そうだった。
「ところで、俺の仮説はさっきの、4つのレベルのどこに該当しますかね!」
ふふーーんと、ドヤ顔で言ってみる。
「ふん。いい気になりそうだから、答えぬ!」
いや、それ答えてるのと同じですけど!
「それよりもな、もっと生きていく上で大事なことがあるぞ!」
そうかも知れないが…
巨乳を突き出しながら、言うことではない気がする。
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