29話 帰城(1章 本編最終話)
イオとゾフィの3人で城に戻ると、父母とグリウス叔父に迎えられた。
「アレク、無事で何よりだ。おおよその話は聞いている。災難だったな」
「はい」
「本当に、どこも怪我していないのですか?」
「ええ。ご心配掛けました。申し訳有りません。母上」
うわぁ。近づいてみると目が真っ赤だ。結構泣いたみたいで、美人が台無しになってる。
「父には申し訳なくないのか?」
「そこは男同士。分かりますよね」
「ははは…」
「もう。これだから男の子は。これからは、1人で背負い込まず、兵達に頼ることも憶えなければ」
「そうだぞ。戦では、将が死ねば負けだからな!」
「はっ。肝に銘じます」
「アレックス殿!」
「叔父上」
「こたびは、イオをお守り戴き、お礼の申しようもない。この通りだ」
大男が頭を下げる。
「いえ、大事な従妹ですから」
「それにしても、ガーゴイルを1人で倒されるとは、末恐ろしいですな」
「アレク様は水の剣を魔法で出されて、まずは腕を、そして首を刎ねたのです。あの凛々しいお姿、イオは一生忘れません」
なんだか小っ恥ずかしいぞ。
「イオさん。アレクをあまり調子に乗せないで下さいまし」
母が心配そうに釘を刺す。
「まあ、そう言うな。セシリア。アレクのおかげで、懸案が一つ片付きそうだ。よく密輸団と気が付いたな。私は何も話して居らぬと言うのに」
あっ!ヤバい。
「誠ですか?兄上!」
「何がだ?グリウス」
一瞬叔父は、難しい顔をして、破顔した。
「魔法のみならず機知もお持ちだ。これは一本取られました。うっははは。兄上が隠居されたら、このグリウス真っ先に御曹司へ忠誠をお誓い申す」
「何を申すか、グリウス!ははは。まだ儂は隠居などせぬぞ。だが、アレク」
「はい」
「我が弟は、本当に頼りになる男だぞ。昵懇にしておけ」
「叔父上。よろしくお願い致します」
「こちらこそ。御曹司」
「父上。ひとつお願いがあるのですが…」
「なんだ、言ってみろ」
◇◆◇◆◇◆◇
夕食の後、先生の部屋に呼ばれた。
「おお。来たか、アレク。研究室へ行くぞ」
「はあ…」
先生の居室を抜けて寝室に入り、鏡から、亜空間にある実験室に至る。
「おわっ」
驚いた。亜空間に入ったところで、全裸の少女が寝そべっていた。
毛足の長い絨毯の上だ。
誰だ?
この空間にいるからレダと思ったが、明らかに小さい。
ぱっと見、10歳とか12歳ぐらいか。
俯せ気味の横臥なので、胸は見えないが、尻は丸出しだ。
魔収納から布を出して、被してやる。
「意外と優しいなあ。アレク」
意外とって…。
「誰なんですか?この子」
「見てもわからないのか?」
「さあ…」
こっちに来て、こんな少女の知り合いになった憶えは無い。
またレダと同じく、人造人間かと思い、顔を見てみるが、先生には全く似ていない。目を閉じているので、よくはわからないが、かなり可愛い。
言われた通り、よく見てみると、あることに気付く。
黒髪が随分青っぽい…
青っぽい?
先生の微かに笑う顔を見る。
「この毛の色。まさかと思いますが…」
「そいつは青狼だ」
はあ?
「いやいやいや。この子は…人間ですよね」
…人じゃ無いかも知れないが。
「青狼は獣人の一種だ」
「獣人?」
獣人!そう念じる。
痛たたた。偏頭痛と共に思い出した。亜人の一種。本相は獣相だが、人相と交番することができる種。
要は人間の形態も取れる魔獣か。
いくつある種で、確かに青狼は獣人らしい。
「獣人…で。なんでここに居るんですか?」
「……この館で…人間と一緒に暮らすため、処理をした。その反動で寝ている」
処理?あまり良い響きじゃ無い。
「何をしたんですか?先生」
先生の顔は、氷細工のような硬さだ。
「成長を遅らせる処理をした」
「はぁ?」
何てことするんだ!
怒りが滲み出ているであろう俺の顔を見て、先生はふっと笑った。
「そいつが、あの母親と同じ大きさになるまで、どのくらい掛かると思う」
ん?何を言い始めた?
「さあ…」
「2年ぐらいだ。1年で8割、半年で5割位」
「…そこまで」
早いのか…。
「青狼だけじゃない。魔獣はなぁ、成長が早いんだ。半年後、おまえはこいつを飼っていられるか?」
うーむ。無理だろうな…。
あの巨体の半分となれば、その餌は1日で百kgを超えるだろう。数日で馬一頭だ。
父伯爵の経済力なら何十頭と飼えるだろうが…。
それ以上に、まともに育てさせるためには、体格に見合った土地が必要だ。この館は、今で限界だろう。
犬や猫と違って魔獣を育てるのはそういうこと意味するのか。
「先生は、俺の尻ぬぐいをしてくれたわけですか…申し訳ありません」
「分かれば良い。最近物わかりが良くなったな」
「そうだといいのですが…」
「それからな、セルビエンテにいる内は、時々外郭部へ連れて行ってやれ」
「はい。そうしますが、王都へ行っている内はどうしたもんですかね…」
「乗りかかった船だ、任しておけ」
「ありがとうございます。優しいですね。先生」
「ふん、お前にはもっと優しくしてやってるだろう」
「違いない…」
「青狼のことは、もういいかな…ああ、いや。名前を付けてやれ、アレク」
「はい」
「訊きたいことはひとつだ。どうやったら、あの水斬を出せた」
「……アレックスが助けてくれたんです」
「アレックスがな」
「ええ。約束しました。俺が呼べば答えると……ん?」
──ロクサーヌ
はっ?
この子の名前!
ああ、青狼の仔の名前か……ちなみに耳には全く違ってって聞こえているが、意識にはロクサーヌと理解される。これはどういうことなんだ?アレックス!
──私が翻訳しているからだよ。名前だけじゃなくて、全ての言語…文字もね。
やはり、そういうカラクリか。俺がしゃべる言葉は?
──それも逆変換してる
つまり、お前は時々出てきたわけではなくて、ずっと居たのか。
──そう。アレクが気が付かないだけ……
「アレク!おい、どうした…」
「ああ、すみません。アレックスと話してました」
「ほう…そうか」
「ロクサーヌだそうです。この子の名前」
「ロクサーヌな…ロキシー。悪くない」
「はあ」
「ふん。ところで、自分のステータスは見たか?」
「まだです」
「では、見てみろ。いやちょっと待て」
先生は、胸の前に指で十字を作り、それを気合いと共に切り離した。
俺の頭の中で、鐘が盛大に鳴り響く。
「これって…」
─ ステータス展開 ─
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アレックス・サーペント
・基本
人間:男性16歳
位階 : 貴族子弟(未叙爵)
婚姻 : 未婚
・状態
クラス: 魔法師 レベル31
生命力: 757/ 997[-]
体力 : 115/ 325[-]
魔力 : 425/5250[-]
素早さ: 180/ 180[-]
精神 : 2075/2075[-]
異常 : なし
・
・
・
・スキル
剣技:LV19 槍技:LV 6 弓技:LV25
乗馬:LV15 回避:LV21 索敵:LV25
・
・
・
火炎 / 炎弾 / 焔陣 / 爆焔
烈風 / 風壁 / 旋風
水礫 / 水斬
土槍 / 土銛 / 版築 / 縮地
回復 / 強壮
解毒 / 治癒
詠唱短縮 / 無詠唱 / 瞬間発動
結界
獣懐柔 / 獣操縦
身体強化 / 金剛
魔鑑定(初級) /魔鑑定(低級) /魔鑑定(中級)
魔収納
・称号
聖者の曾孫
討竜魔法師
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おお!魔法師レベルが大幅に上がってる!
前は25ぐらいだったか…。
しかも、状態項目の異常が全部消えてるじゃないか…。
ガーゴイル1頭で、これだけ。流石は竜属と言うべきか。
それから先生の言っていた、上限体力200も軽く超えた。慢性異常も解消されているから、休息すれば、上限まで上がるはずだ。
その割には、まだまだ筋肉が付いてない。腕や脚も太くなった…かな?って言うレベルだ。先生曰く体力と筋力は違うそうだから、そういったものかも知れない。
おっと、今見るべきはそこじゃ無い。スキルの欄だ。
やっぱり、魔法の封印が…しかも全部。
先生の顔を見ると、優しそうに微笑んでいた。麗しさが倍増してる!
いつもこの顔で居て欲しいなあ。
「魔法の封印を解いておいた。今のお前ならば問題ないだろう。王都にいるやつらの鼻を明かしてやる必要もあるしな。明日からはゆっくりと魔法鍛錬を再開するぞ…」
「はい。望むところです」
ん?
なんだか称号が増えている。
討竜魔法師?
大層な名前だが、大したことは無いだろう。ガーゴイルだしな。
「それでだ。今日は、お前のために相当尽くしてやったぞ…私を労っても良いのではないか?」
「はぁ…」
「鈍いな…これから…」
先生が、腰を捻って科を作った。
おお、色っぽさが急上昇する。
「ああぁ。そうですね…まだ夜も更けていませんしね」
「ふふふ…そうこなくてはな」
1章 乗っ取り転生!編 本編了
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