27話 散歩(3) 撃滅!
密輸団自らが逃れるため、その目眩ましとして解き放たれた魔獣は、別の魔獣を襲っている。不幸中の幸いで、被害はここまで出ていない。
ガーゴイルは、動かなくなったマンティコアに、興味を失ったようだ。のそりと動き出す。
行き先は、倒れた荷馬車だ。
そこには、青狼親子が居る。
急に飛びかかった!
ガーゴイルと青狼。
通常なら前者が圧倒的だろう。しかし、前者は翼膜を失い、空を征くことはない。
ならば、強さは拮抗?
そうはならなかった。
手傷を負っているのは、主に青狼だ。
仔と同じように、蒼い毛を赤く染めて来ている。
速度は出ないが自由に動くガーゴイル、負傷で動けない仔を護りながら戦う青狼。この戦況は当然の帰結と言える。
青狼から機動力を取り上げれば、並の魔獣に成り下がる。
数分で決着が付くだろう。
その前に安全な距離を。
──ねえ
ん?
──ねえ
アレックスか?
──アレク。助けて上げて!
[はっ?何を?]
──青狼を!
[何であれを助ける必要がある?魔獣だぞ!]
──あの仔が可愛いから…
可愛い…かなあ?
体長で70cm程。まあ、犬ぽいし…多少人気は有るかもな…。
[条件がある!]
──条件?
[おまえも手伝え!アレックス。
今回だけじゃない、俺が呼べば答えるんだ!]
──わかったよ、アレク。
「カークス。おまえは下がれ」
「御曹司はどうされるので?」
「ガーゴイルを斃す!」
「まっ、まさか。もうすぐ弩隊もやって来ます。御曹司が自ら戦うことなど…」
「俺の言うことが、聞けないのか…」
とりあえず、すごんでおくか。
「はっ、はい」
俺の睨みが効いたのか?これ以上馬鹿なヤツに付き合えるかと思ったのか?どっちかは知らないが…隊長は、こちらを気にしつつ下がっていく。
ここに居ては、ガーゴイルの次の標的になるからな。
さて──。
凝縮せし劫火もて刹那に燃やし尽くせ! ─ 炎弾 ─
焔の塊がガーゴイルの側面から襲い、10m程吹き飛ばした。一気に全身が燃え上がった…かに見えた。
ヤツは身を震わせると、火が消えた。
やはり、火属性魔法と竜の相性は悪い。
それなりのダメージしか与えては居ないようだ。俺が使える範囲で最強魔法を持ってしても。だが、少しは時間が稼げる。
──だめだよ、アレク。一緒にやろう…ボクが合わせるから…。
合わせるだと?
ゴフっ。
母青狼は大量に吐血した。
ちっ、遅かったか。
こちらを見る目から、力が消えつつある。
助けてやりたいが、ガーゴイルを斃さないことにはな。
火属性が駄目なら、水か…。
低級の水斬しか使えないしなあ。貫通力が低いため、一定時間同じ箇所に当て続ける必要がある。
翼は使えなくとも、ガーゴイルには俊敏だ。
──やってみようよ!心をひとつにして。
[わかった、やるぞ!]
──行くよ!
頭の中に欠けた部分に、何かが填まり込んだ。
ああぁぁぁ…なんだ、これ?
強烈な昂揚に全身が包まれる──
◇
居た!アレクだ。
数十mの高みから、弟子を見下ろす。
戦っているのはガーゴイルか。
属種で再弱とは言え、竜属だ。今までの訓練とは段違いの強敵。
アレクの腕から、焔の弾丸が撃ち出され敵を吹き飛ばした。
うっ!
また異常値だ!
いや!またじゃない。
極端だ!
「これは…楽しみだな」
アレクは消費する魔力に対して、効果がでかい。法力の高さだけでは説明が付かん。
それが今日は極端だ。
何かあったのか?
亜竜は流石にアレクの手に余るかと思ったが、案外やれるかも知れない。
いつでも一撃で斃せるようにして、アレクの戦い振りを見守ることにしよう。
◇
ガーゴイルが、俺を標的とした。
地を震わせ突進してくる。
「来やがれ!亜竜が!」
アレックスを思い、呼吸を合わせ……。
[ 葬られし科人の怨嗟を棘と放て ─ 土銛 ─ ]
俺の魔力が瞬時に膨れ上がる。発動にいつもの抵抗がない!
地に掌を向けると、大地に棘が無数に生え、次々に宙に打ち上がる。
ドスッドスドドッドドドドッ!!
放物線を描いて、ガーゴイル周辺に墜ち突き刺さった。
キィシャァァアアア!!!
硬い鱗皮を貫き、銛が幾本を突き刺さる。
足や腹を貫き、ガーゴイルを地に縫い付けた!
「アーハッハハ!飛べない竜は、ただのトカゲだ!!この糞が!」
腹の底から笑う!
─ 火炎 ─
手の先から以前とは比べものにならない、火焔を放射する。
「それそれっ!こんがり灼いてやるぞ!」
如何に火属性に強くとも、数十秒も費やせば炭化するだろう。
グゥゥゥガァアア!!
断末魔を上げつつ、身体を打ち振って銛を引き抜いた。
「やるじゃねえーか!!」
しかし、代償も大きい、どくどくと赤い血を流しながら、一歩二歩と歩み来る。
[ 水精の迸りを刃と化し 万物を切り裂け! ─ 水斬 ─ ]
おぞましき程の全能感が背筋を駆け上がる!
水流はまさに刃だ。
糸のような刃は、先に行く程に霧と化すが、今日は見えない。
狂乱のガーゴイルが、地を蹴った。
来る!
ガーゴイルが、指呼の間合いに!
時間が滞り、頭の芯が冷えた──
右上から袈裟懸け!
振り抜かれるヤツの腕より前に、軌跡が網膜に映る。
弾かれるように、禍々しい爪を紙一重で掻い潜った。
「ダァァアアア!!」
水斬を右下から、逆袈裟に斬り上げ!
暗緑の腕が血飛沫を噴き、宙を舞う。
水平に薙ぎ払う!!
再び時の刻みが歩み始め──
撓った水斬が一閃!!!
亜竜に首が無かった…。
宙高く血柱が迸り、ガーゴイルの胴だけが、音も無く倒れた。
はあ、はあ、はあ…
どすっと、すぐ脇の地面を打ち据える音…刎ねた首だった。
「おらおら、首が飛んだぐらいで寝るのは早いぞ!何が亜竜だ!トカゲの分際で、人間様に楯付きやがって…起きろ!この、この………」
痛て、痛て…。
あっ、あれ。俺は何をやっている?
血溜まりに横たわるガーゴイルの胴体を蹴っていた。何回も何回も。
蹴ってる足が痛い。強化が切れてる。
何やってるんだ?俺。そう思い至って、脚が止まる。
頭に昇っていた血が、すっと下がったような感覚に襲われる
うっ。身体強化の反作用だ。
躰が重い。
それにしても、さっきの俺はなんだ?
何者にも負けない、この世に不可能はないといった心持ちだった!
無意識──いや、無意識ではない!
確かに俺の意思…でもあった。だが…。
「アレク!」
声は上からだ。
はっとなって、顔を上げると、遙かな高みに人影があった。
「先生…?!」
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訂正履歴
2016/06/12 アレックスへのアレクの返事を[]で挟む表記に変更




