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25話 散歩(1) 草っ原にて 

 祖父さんの館へ行った次の日。

 俺は、また外郭地区へ出掛けた。少し方向は違うが。


 市街地を離れた、広々とした草地。


 良い日和だ。

 まだ早春の時期だが、菜の花に似た花が咲いている。膝丈ぐらいの高さに、さながら黄色い絨毯のようだ。

 暖流が運んでくる、温い風が首元を撫でていく。


「気持ち良いですね、アレク様」

「ああ、イオちゃんに誘われて来たけど、風が気持ちいい」

「7日前に、こちらへ参りましたおりに、ソルラの花が、だいぶ咲きかけて居ましたので…」


 イオ・サーペント。

 義理の従妹だ。父伯爵の片腕と呼ばれるグリウス叔父の見初めた人の連れ子。サーペント家にはない穏やかふんわり系美少女だ。


「アレク様。敷き終わりましたぁあ」

 メイドのゾフィのやや低い声だ。


「ああ!イオちゃん、あそこに行って休もう」

「はい」



 草地に敷かれた絨毯の上に、イオと並んで座る。

 数日までは普通の草っ原だったのだろうが、ある程度刈って踏み固めて整地したようだ。昨日イオが言い出して、さっき来たときには、既にこうなっていた。貴族っては権力もってるな。

 4畳半程の絨毯もなかなかの毛足で、座り心地が良い。買ったら高いよなこれ…地べたに敷いてはいけないような豪華さだ。


「お茶を、よ、用意致しますぅ」

「わ、私も手伝います」


 手持ち無沙汰となった俺は、周りに視線を向ける。

 今日、花畑に来たのは、この3人…と言いたいところだが。警護の兵も付いてきている。伯爵の跡取りが単独で城外に出ることはない。


 同行した者は10名。俺達を囲むように、点々と立っている。目線は200m程離れた街道を向いている。なかなかの賑わいで、馬車や荷車を引く人馬が、ひっきりなしに通っている。俺達を害する者が居るなら、そちら側からとの認識なのだろう。


「アレク様、どうぞ」

 イオが女の子らしいかわいい手で、カップを渡してくれる。紅茶が高貴な香りを薫らせている。


 手にしたカップは白磁ぽい。これも高そうだなあ…見た目は貴族、中身は庶民な俺は、いくらなんだろうって、毎回思う。


「ああ、ありがとう…ゾフィもありがとうな」


 お茶を入れてくれたのはイオだが、食器に水筒、魔石式湯沸かし器を運んだのは、彼女だからだ。


「いっ、いえ。私は何も…」

「おいしい。私からもお礼を申し上げます。ゾフィさん」

「そ、そんな。お姫様まで」


 ゾフィは、真っ赤になりながら、首を振って否定している。

 気は優しくて力持ちだな。


 ふう。

「だいぶ、気が晴れたよ」

「それは、ようございました」


 一昨日まで館に缶詰になり、滅入っていたので、この少女…か、そのブレーンが気を遣ってくれたのだ。昨日も外出はしたが、俺が転生者と祖父さんに見透かされ、凄く気分的に疲れたしな。


 まあ、周りに居る人間が代わって、気分も変わったことも否定はしない。

 兵達は気にしないようにしよう。


 腹中も暖まり、少し眠気を催す。ティーカップを置いて、そこへ寝そべるか…。

「アレク様、頭をこちらへ」

「あっ、ああ」


 少し這って近づくと、イオは正座の上に頭を乗せてくれた。

 紅茶とは異なる、甘酸っぱい香りがする。イオの匂いだ。

 柔らかでいて、弾力のある太股が良い。


 これが、先生かユリなら、その肉置ししおきを遠慮なくまさぐっていただろうが。この子はイオだ。自重自重。


 あまりの安心感に、不覚にも、うとうと仕掛けた。

 覚醒する。


「おっ」

 見上げると、胸の丘陵とイオの眠る顔があった。

 静かに頭を避けて起き上がる。


 ゾフィが、こちらを見て微笑んでいる。

 イオをそのままに、ゾフィに近づいて座った


「お二人とも、お人形のようにお美しくて、身惚れておりました」

「どのくらい、寝てた」

「15分程かと」

「そうか、ここは暖かいな」

「そうですね」


「少しゾフィのことを訊いても良いかな」

「えっ、私のことですか?」

「そうだ」

「そっ、そんな、私のことなんて、とっ、取るに足りません」


「さっき。イオが人形のように可愛いと言ってたが…ゾフィも負けない程、可愛いぞ」

 ゾフィのやや浅黒い顔が、みるみる朱くなる。

「ごっ、ご冗談を!こんな、でかい女が可愛いなど」


 ふむと、自分の顎を摘んで、しげしげとゾフィを眺める。

「確かに、俺と同じぐらいの背丈だが、顔立ちは整ってるし、俺の好みだ。それに何より優しくて心根が可愛い」

「ほっ、本当にそう思われますか?」

「ああ。たまにしか嘘は吐かないぞ」


「うふふふ…それで、私の何がお訊きになりたいのですか?」

「そうだな、まずは何で俺の家に来ることになったんだ?」


 ゾフィは目を一旦閉じて、ゆっくり開いた

「私の親は、父が人で、母がドワーフなんです。

 父は、祖父がやってる鍛冶屋に弟子入りした職人です。

 ドワーフは多産で、兄と姉が4人ずつ。弟と妹は3人ずつ居ます」


「そりゃ、また多いな」

「で、兄3人は家業を手伝っていますが、流石にその下はそうはいかないんで…」

「奉公へ出たと。ゾフィは鍛冶をしたことないのか?」

「ないですね。手伝いで研ぎをしたことはありますが。まねごとです」


「ふむ。いつから奉公に出たんだ?」

「7歳でしたから。かれこれ11年ですか」

「家に来たのは…」

「4年前です。それからずっと洗濯係でした」


 洗濯係とは、館で大量に発生する洗濯物、主人や幹部使用人の衣服、シーツなどのリネン類を洗って乾かし、物によってはアイロン掛けもする。俺や家族が貴族らしい清潔な生活を送れるのは、彼らのお陰だ。

 魔石動力による洗濯機もどきはあるが、基本は手洗いだ。ドワーフの怪力は役に立つ。


「洗濯は好きですよ。頑張ったら、ちゃんと綺麗になってくれますから」

 ふむ。考えようによっては、重要な発言だ。覚えておこう


 ゾフィは伸び上がると、目を見開きながら口を開いた。

「あっ!」

 ガガァァン…。


「ん?」

 なんだ、あれ?

 振り返ると、200m程離れている街道に、変な四角い物があった。馬も居る。


「荷馬車が…倒れました」

 ああ、あれは馬車の屋根か…草で見えなかった。


「隊商かな?同じような荷馬車が、後ろに2台…止まったか」


「えっ?」

「ああ。起きたかイオ」

「すっ、済みません」

「いや、俺も少し寝たからな」


 荷馬車が事故を起こしたのを見て、警備の兵が寄っていく。

 その時だった。


 クォオォォォォォ………。

 不吉な鳴き声が、辺りに響き渡った。


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