23話 罪と捌け口
「レダ…」
ガラスの中は、やや青みがかった液が満たされ、その中に先生を若くしたレダが浮かんでいた。
おおぅ。
「うつくしい…」
一糸纏わぬ姿に、身惚れてしまう。
華奢な身体には大振りの胸も、淡い叢も余すところなく晒している。
しかも、どうしたって先生と比較してしまう。むっちりとした熟れ具合はないが、蒼い感じで、なんとも…。
これは、見てはいけないものだ。
だが、目が離せない。
誰でもそうだろう──男なら。
ごぼっ。
呼気の泡が音を立てた。
それに惹かれて目線を上げると、麗少女と眼が有った。
「おわっ」
しかし、その瞼はすぐ閉ざされた。
ビビったぁ。
この子は生きてるのかぁ…。
よく考えると、なんで溺れないんだ?
魔法か。
それはともかく。
短いながら髪の毛が揺蕩う姿は、何とも艶めかしい。
「見ないで、アレク!」
「いいや、見てない見てない」
慌てて振り返り眼を瞑る。
「ふふふ…あははは」
はっ!
先生が立っているではないか。
「はっ。さっきの声は」
「ははは。私だ」
「先生、寿命が縮まるじゃないですか!」
「乙女の裸を、覗く方が悪い!」
そりゃ、そうですけど!
「そっ、それよりも。なんでレダが水槽に入れられてるんですか?」
「こやつは、この中で生まれた。まだ外に出たことがない」
…ん?
「この子はレダ…ですよね?」
「ああ、レダ2だ」
「2…って?」
はっ、ホムンクルス…だからか。
「こやつは、外に出ているレダの予備だ」
「予備…」
俺は、眩んだ目頭を押さえる。
「俺のためですか?」
「そうだ」
「先生がやっていることは、罪深い…」
「罪深い?」
「そして、俺は共犯なんですね」
共犯──佳い言葉だ。ふふふ……
「私は存在自体が罪だ…な」
俺は何も答えられなかった。
「さて、余りおまえがここに居ては、ユリが気を揉む。もう帰れ」
「また来ても良いですか?」
「いや、余り来るな。おまえだけは通れるようにしておくが…」
◇
先生の部屋を出て、自分の部屋に戻ろうと廊下に出ると、ユリが待っていた。
「部屋に行こう!」
「はい」
俺の後を、何も言わずに歩いて来る。
居間や執務室ではなく、寝室に続く次の間の扉を開け、そのまま奥へ入った。
5歩進んで止まる。
「アレク様?」
俺は振り返りざま、ユリを抱きしめた。
あぁぁっ。
荒々しく口吻を奪う。
驚きながらも楚々と従うユリ。深く舌を差し込み忙しなく動かす。
んっくぅ。
彼女の呻きを心地よく覚えながら、腰に回した左腕を引き寄せると、ユリの柔らかな腹を突いた。
たまらない。
大きな肉塊を、右手で持ち上げ手首を回す。
うっ、やぁあ。
ユリから漏れ出す声に、頭を灼かれる。左手を下げていき、太股に達すると、そのまま彼女を持ち上げた。
部屋の中央に設えたベッドに、そのまま倒れ込む。
「あっ、アレク様ぁあぁあ…」
◇
ふうぅぅ。
汗ばんだユリの額に、貼り付いて髪を指で剥がす。
「アレク様…」
ユリは。
涙を溜めていた。
罪悪感が丹田から沸き上がってくる。
「ああっ」
「ユリは、ユリは幸せです」
しあわせ…?
「アレク様にあんなに求めて貰って。初めてお役に立てた気がします…」
再び、裸のユリをぎゅっと抱きしめる。
「ああ。痛いです」
「なんで。なんで、俺なんかに尽くしてくれるのだ?」
ユリは、耳元でふうと吐息を漏らした。
「尽くす?ふふふ。アレク様のことを、いつも考えているだけです」
「どうして?俺にそんな価値があるとは思えない、俺のどこが良い?」
「どこ…?と仰られましても…いつも間にか、気が付いたら、お慕いしておりました。殿方にこんなことを言うのは変かも知れませんが…」
「ん?」
「アレク様は、私の理想だったんです」
だった…?
「今は雄々しくなられて、ただただ愛しいです」
「そうか…」
俺は実存に──
「私はアレク様のお母様になりたかったのかも知れません」
「おふくろ?」
「でも。これからは、お側に居られるよう励みます」
「俺は、ユリが居ると安らぐよ。いつまでも居てくれ」
うふふふ。
「そうですか…」
ユリは、嬉しそうに、手を合わせ下唇をなぞる。
「名残は尽きませんが、そろそろお昼です。起きませんと」
「いいじゃないか」
「すみません。それではメンバーに示しが付きませんし、アレク様も空腹でございましょう。後生ですから、起きて下さいませ」
「わかった」
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