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212話 完結

第3作を連載開始しました。

天界バイトで全言語能力をゲットした俺最強!

https://ncode.syosetu.com/n3733em/

よろしくお願い致します!

 ディグラントの外交使節が来訪し、交渉が始まった。

 彼の国はかなり強行で、無条件で第3皇子の返還を要求してきた。それが入れられない場合、再度出兵すると暗に臭わせていたそうだ。


 これに対して我が国は、ディグラントの保護国ハークレイズの離脱を要求した。

 しかも、各国に対して喧伝した。


 敵は内政干渉と突っぱねて、第1回交渉は予想通り物別れになった。

 ストラーダ候も金銭で解決することになる見込みを伝えてきた。


 俺の目的は、ディグラント帝国の威信低下であるため、国際的な喧伝こそ狙いだ。

 それを受けて、複座航空機で大内海の上空を飛んでいる。


「アレク様、見えてきました。ディグラント帝国領です。減速します」

 前側の操縦席に座るレダが淡々と言った。

 前にのめるような、負の加速度が作用する。


「ゼッケルク軍港だな」

「たくさん軍艦がいますね」

 そう言いながら、銀水晶を風防キャノピー越しに構えている。


 大きな軍艦を、感知魔法で走査するが、魔力砲は搭載されていない。

 使えるのは、我が国から横流しされた3門だけだったか。まあ、あの魔石に刻まれた魔法紋章は一朝一夕には再現できないだろう。


 それにしてもディグラントの被害は軽微だ。これだけの軍艦が用意できるのだからな。

 この軍艦に正面から対抗するのは下策だ。


 ディグランド内の和平派は、俺を恐れ逃げ帰った者だけとは言わないが、少数派に違いない。

 皇帝を含む強硬派の強気の理由は簡単だ。

 外征をして痛い目に遭うことは有っても、ディグラント本国が我が国によって攻められることはない。そう思い込んでいるのだ。


 そして、俺の防衛を無効化するのも、実は簡単なことだ。

 飽和攻撃すればよい。

 複数の攻撃点を設けて、同時に俺が対応できないようにすることだ。

 正直、これは辛い。


 2カ所までなら何とか排除する自信があるが、3箇所、4箇所と増やされていくと手に負えなくなる。海軍は健在だが、一旦上陸されてしまうと、今の陸軍では心許ない。


「改心させないとな」

「はい?」


 軍港はあっと言う間に飛び越した。

 眼下に見えている、この段丘を越えた先に、帝都ディグラスがあるはずだ。


「あの明かり……帝都ですね」

「ああ。黒衣衆の地図は正確だな」

「アンが聞いたら喜びますよ」


──いや、疑ってたでしょって怒ると思うけど


 ここらで良いか。


「停めてくれ」

 一気に減速して静止した。


「出るぞ!」

「こちらで待って居ります。ご武運を」

「ああ」

 風防を開けて、飛び立つ。


 石造りの家が建ち並ぶ街には、沢山の火が灯っている。

 活気があり栄えている。良い都だな。

 規模から見て数十万の住民が居そうだ。


 王宮は?


──あれじゃない?


 帝都の城壁の中。一際高い塔がふわっと見える。まあライトアップしているわけじゃないし。


 ぐっと近付く。

 まだ夜の8時だ。宮殿にも灯りが付いている。舞踏会とかやってたりしてな。

 皇宮門の上空で佇む。


 魔人の特権──

 6.魔人は、国内において、他国軍と戦闘できる


 国内であれば他国軍と戦うことが許可されている。

 国外ではそうではないと言外に臭わせているが、永い歴史の中で、魔人が所属する国の外で戦った例はある。

 そのいくつかでは、戦後複数の第三国から干渉を受けて苦境に陥ったそうだ。ただし、それらは侵略の先兵となった場合だ。


 始めるか。

 自分達だけが攻めることができるという、大誤解を質すために。


 城壁前の広場の中ほどまで進み、宮殿から離れる。人影がない。


 予め作ってきた物を、魔収納から出庫する。

─ 金剛(ヴァジュラ)招来(シッディ) ─


 喰らえ!


 怪力魔法で、大質量を頭上に持ち上げ、銛のようにぶん投げた。

 うなりを上げて落下し、広場の石畳に激突。

 凄まじい轟音と共に、地表を捲り上げる、それでも勢いが余り、広場の境界を突っ切って城門へ50mと迫ったところでようやく止まった。


 おっ!

 城壁の一部が、衝撃で崩れた。やり過ぎたか?


 静かだった帝都は、大音声と地響きと共に大きく揺れ、土砂が大量に飛散した。落下地点は濛々と土煙が上がり見渡せない程だ。


 焦れてきたので、軽く風魔法で吹き飛ばすと、惨状が見えてきた。長さ120、幅20mに渡って地表が抉れ,その先端に城壁を見下ろすほどの(オベリスク)が建っていた。


 やや緑がかった柱状節理の一本石。断面が6角形だがまあ良いだろう。

 

 中程にはオベリスクと同じように碑文を刻んである。


 汝 殺すことなかれ

 汝 盗むことなかれ

 汝 他の家を欲することなかれ


 前世世界の十戒と、精霊教の聖句の共通する言葉だ。


──これを読んで、改心してくれると良いけどね。


 どうかな。


 だが、自分たちも、何時、どこが、攻められるかわからない。

 そして、止める術を持たないという恐怖。

 この帝都に居る者達にも味わって貰おう。


 そうで無ければ、俺の腹の虫が収まらないからな。


 おっと。振動と轟音が収まって数分経った。恐々と城内から兵が出てきた。

 俺がやったと宣言する気はないので、帰るとしよう。


    ◇


 それから、1週間後。


 第2回の外交交渉で、ディグラントが軟化してきた。

 我が国と3ヵ年の有期不戦条約を結びたいと言い出したと、ストラーダ侯が笑っていた。皇帝が震え上がったと、帝都の奇跡が効いていると。


 原初の報道機関が、俺がディグラント帝都に撃ち込んだオベリスクもどきを、精霊の思し召し、帝都の奇跡と読んで伝えている。閣下はそのことを言っている。

 どうやら、ハークレイズを初めとして、保護国のいくつかで、小規模な反乱が頻発しているようだ。


 それもあるのだろう、交渉は進んだ。

 第3皇子含め捕虜の身代金をディグラント金貨10万ディグ、500万デクス相当を積んだそうだ。あと使節の団長が1つだけ非公式の要望を出したそうだ。


 魔人をディグラントへ来させないでくれと。


 ストラーダ候は、魔人の件は心当たりが無いが、その他は検討すると返したそうだ。

 役者だ。


 さて、俺はと言うと。

 王立パレス高等学園中央にある塔を登りつめた。


「失礼します。ヴァドー老師」


 学園の特別教官室だ。


 長く白い髭を蓄えた老人が、反応してこちらを向いた。

 いつものように白いローブを身に着け、木箱に荷物を詰めている。


「ふむ。もうここへ来たのか。荷物は少ない。すぐに明け渡す」


「いえ、名誉教官の件は、まだ保留にしています」

「なんだ、儂の推薦が不服か?」


「それ以前に、老師がお辞めになる必要を感じませんが」

「見ればわかるだろう、儂は老いた」

「そうでしょうか?」


「若い者が、年寄りを楽にさせる。自然の摂理だ。後事を託せる者が出てきた。老人にとって、幸せなことだとは思わないか?」


「さあ。まだ17歳の若造ですから。わかりかねますが。ご意志は固いのですか?」

「そうだ! 陛下にもご承諾戴いた」


「残念ですが……お疲れ様でした」

 無意識に、腰を曲げ最敬礼していた。


 顔を上げると、最後の木箱が無くなっている。

 そして、穏やかな顔が有った。


「ルーデシアを……いや、世界を頼むぞ!」

「精進します」


「それでいい……」

 老師は、つかの間、俺の肩に手を置くと去って行った。


     ◇


「では、会ってお別れできたんですね」

 王都館の居間で、寛いでいると、お盆を持ってユリが近付いてきた。


「ああ。運が良かったな。背筋がすっと伸びて、とても老いたなどという感じではなかったな」


「あの老人らしいな」

 長いソファに身を委ねるように座る先生が、少し淋しそうに呟いた。


 ユリが淹れてくれた、茶を喫する。

 柔らかで暖かい。


「これで名実共に、アレク殿の時代となったな。鉄の方も旨く行って居るのだろう?」

「ええ、圧延工程も順調に試験生産を続けていますよ」


「そうか……私もこれを機に……ああ、とっくの昔に魔女は辞めていたのだったな。それに、まだまだアレク殿の活躍を見ないとな。なんなら、アレク殿の子の面倒も見てやろう」


──それは……。

「 それは……」


「何じゃ、2人して」

「2人?」

 ユリが怪訝な顔をした。


 ふふふ。


「子供のことは、妻達にも相談しませんと」

「なんだ、アレク殿はもう尻に敷かれているか。だらしないのう。あははは」


 俺とユリは、微笑み合った。



 乗っ取り転生者の共鳴魔法レゾナンス 完

活動報告にも書きましたが、当初構想の最後までは達しておりませんが、良い区切りに達しましたので、一旦の締めとさせて戴きます。


長らく連載に付き合って戴けた皆様。ありがとうございます。

最後まで読んで戴けた方に感謝申し上げます。


次の執筆の指針としたく考えていますので、ご感想並びにご評価を是非戴きたく存じます。

よろしくお願い致します。


訂正履歴

2025/09/23 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)


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― 新着の感想 ―
[一言] 最後まで奥の深い構成、展開、表現を心ゆくまで堪能できました。素晴らしかった。
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