212話 完結
第3作を連載開始しました。
天界バイトで全言語能力をゲットした俺最強!
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よろしくお願い致します!
ディグラントの外交使節が来訪し、交渉が始まった。
彼の国はかなり強行で、無条件で第3皇子の返還を要求してきた。それが入れられない場合、再度出兵すると暗に臭わせていたそうだ。
これに対して我が国は、ディグラントの保護国ハークレイズの離脱を要求した。
しかも、各国に対して喧伝した。
敵は内政干渉と突っぱねて、第1回交渉は予想通り物別れになった。
ストラーダ候も金銭で解決することになる見込みを伝えてきた。
俺の目的は、ディグラント帝国の威信低下であるため、国際的な喧伝こそ狙いだ。
それを受けて、複座航空機で大内海の上空を飛んでいる。
「アレク様、見えてきました。ディグラント帝国領です。減速します」
前側の操縦席に座るレダが淡々と言った。
前にのめるような、負の加速度が作用する。
「ゼッケルク軍港だな」
「たくさん軍艦がいますね」
そう言いながら、銀水晶を風防越しに構えている。
大きな軍艦を、感知魔法で走査するが、魔力砲は搭載されていない。
使えるのは、我が国から横流しされた3門だけだったか。まあ、あの魔石に刻まれた魔法紋章は一朝一夕には再現できないだろう。
それにしてもディグラントの被害は軽微だ。これだけの軍艦が用意できるのだからな。
この軍艦に正面から対抗するのは下策だ。
ディグランド内の和平派は、俺を恐れ逃げ帰った者だけとは言わないが、少数派に違いない。
皇帝を含む強硬派の強気の理由は簡単だ。
外征をして痛い目に遭うことは有っても、ディグラント本国が我が国によって攻められることはない。そう思い込んでいるのだ。
そして、俺の防衛を無効化するのも、実は簡単なことだ。
飽和攻撃すればよい。
複数の攻撃点を設けて、同時に俺が対応できないようにすることだ。
正直、これは辛い。
2カ所までなら何とか排除する自信があるが、3箇所、4箇所と増やされていくと手に負えなくなる。海軍は健在だが、一旦上陸されてしまうと、今の陸軍では心許ない。
「改心させないとな」
「はい?」
軍港はあっと言う間に飛び越した。
眼下に見えている、この段丘を越えた先に、帝都ディグラスがあるはずだ。
「あの明かり……帝都ですね」
「ああ。黒衣衆の地図は正確だな」
「アンが聞いたら喜びますよ」
──いや、疑ってたでしょって怒ると思うけど
ここらで良いか。
「停めてくれ」
一気に減速して静止した。
「出るぞ!」
「こちらで待って居ります。ご武運を」
「ああ」
風防を開けて、飛び立つ。
石造りの家が建ち並ぶ街には、沢山の火が灯っている。
活気があり栄えている。良い都だな。
規模から見て数十万の住民が居そうだ。
王宮は?
──あれじゃない?
帝都の城壁の中。一際高い塔がふわっと見える。まあライトアップしているわけじゃないし。
ぐっと近付く。
まだ夜の8時だ。宮殿にも灯りが付いている。舞踏会とかやってたりしてな。
皇宮門の上空で佇む。
魔人の特権──
6.魔人は、国内において、他国軍と戦闘できる
国内であれば他国軍と戦うことが許可されている。
国外ではそうではないと言外に臭わせているが、永い歴史の中で、魔人が所属する国の外で戦った例はある。
そのいくつかでは、戦後複数の第三国から干渉を受けて苦境に陥ったそうだ。ただし、それらは侵略の先兵となった場合だ。
始めるか。
自分達だけが攻めることができるという、大誤解を質すために。
城壁前の広場の中ほどまで進み、宮殿から離れる。人影がない。
予め作ってきた物を、魔収納から出庫する。
─ 金剛招来 ─
喰らえ!
怪力魔法で、大質量を頭上に持ち上げ、銛のようにぶん投げた。
うなりを上げて落下し、広場の石畳に激突。
凄まじい轟音と共に、地表を捲り上げる、それでも勢いが余り、広場の境界を突っ切って城門へ50mと迫ったところでようやく止まった。
おっ!
城壁の一部が、衝撃で崩れた。やり過ぎたか?
静かだった帝都は、大音声と地響きと共に大きく揺れ、土砂が大量に飛散した。落下地点は濛々と土煙が上がり見渡せない程だ。
焦れてきたので、軽く風魔法で吹き飛ばすと、惨状が見えてきた。長さ120、幅20mに渡って地表が抉れ,その先端に城壁を見下ろすほどの塔が建っていた。
やや緑がかった柱状節理の一本石。断面が6角形だがまあ良いだろう。
中程にはオベリスクと同じように碑文を刻んである。
汝 殺すことなかれ
汝 盗むことなかれ
汝 他の家を欲することなかれ
前世世界の十戒と、精霊教の聖句の共通する言葉だ。
──これを読んで、改心してくれると良いけどね。
どうかな。
だが、自分たちも、何時、どこが、攻められるかわからない。
そして、止める術を持たないという恐怖。
この帝都に居る者達にも味わって貰おう。
そうで無ければ、俺の腹の虫が収まらないからな。
おっと。振動と轟音が収まって数分経った。恐々と城内から兵が出てきた。
俺がやったと宣言する気はないので、帰るとしよう。
◇
それから、1週間後。
第2回の外交交渉で、ディグラントが軟化してきた。
我が国と3ヵ年の有期不戦条約を結びたいと言い出したと、ストラーダ侯が笑っていた。皇帝が震え上がったと、帝都の奇跡が効いていると。
原初の報道機関が、俺がディグラント帝都に撃ち込んだオベリスクもどきを、精霊の思し召し、帝都の奇跡と読んで伝えている。閣下はそのことを言っている。
どうやら、ハークレイズを初めとして、保護国のいくつかで、小規模な反乱が頻発しているようだ。
それもあるのだろう、交渉は進んだ。
第3皇子含め捕虜の身代金をディグラント金貨10万ディグ、500万デクス相当を積んだそうだ。あと使節の団長が1つだけ非公式の要望を出したそうだ。
魔人をディグラントへ来させないでくれと。
ストラーダ候は、魔人の件は心当たりが無いが、その他は検討すると返したそうだ。
役者だ。
さて、俺はと言うと。
王立パレス高等学園中央にある塔を登りつめた。
「失礼します。ヴァドー老師」
学園の特別教官室だ。
長く白い髭を蓄えた老人が、反応してこちらを向いた。
いつものように白いローブを身に着け、木箱に荷物を詰めている。
「ふむ。もうここへ来たのか。荷物は少ない。すぐに明け渡す」
「いえ、名誉教官の件は、まだ保留にしています」
「なんだ、儂の推薦が不服か?」
「それ以前に、老師がお辞めになる必要を感じませんが」
「見ればわかるだろう、儂は老いた」
「そうでしょうか?」
「若い者が、年寄りを楽にさせる。自然の摂理だ。後事を託せる者が出てきた。老人にとって、幸せなことだとは思わないか?」
「さあ。まだ17歳の若造ですから。わかりかねますが。ご意志は固いのですか?」
「そうだ! 陛下にもご承諾戴いた」
「残念ですが……お疲れ様でした」
無意識に、腰を曲げ最敬礼していた。
顔を上げると、最後の木箱が無くなっている。
そして、穏やかな顔が有った。
「ルーデシアを……いや、世界を頼むぞ!」
「精進します」
「それでいい……」
老師は、つかの間、俺の肩に手を置くと去って行った。
◇
「では、会ってお別れできたんですね」
王都館の居間で、寛いでいると、お盆を持ってユリが近付いてきた。
「ああ。運が良かったな。背筋がすっと伸びて、とても老いたなどという感じではなかったな」
「あの老人らしいな」
長いソファに身を委ねるように座る先生が、少し淋しそうに呟いた。
ユリが淹れてくれた、茶を喫する。
柔らかで暖かい。
「これで名実共に、アレク殿の時代となったな。鉄の方も旨く行って居るのだろう?」
「ええ、圧延工程も順調に試験生産を続けていますよ」
「そうか……私もこれを機に……ああ、とっくの昔に魔女は辞めていたのだったな。それに、まだまだアレク殿の活躍を見ないとな。なんなら、アレク殿の子の面倒も見てやろう」
──それは……。
「 それは……」
「何じゃ、2人して」
「2人?」
ユリが怪訝な顔をした。
ふふふ。
「子供のことは、妻達にも相談しませんと」
「なんだ、アレク殿はもう尻に敷かれているか。だらしないのう。あははは」
俺とユリは、微笑み合った。
乗っ取り転生者の共鳴魔法 完
活動報告にも書きましたが、当初構想の最後までは達しておりませんが、良い区切りに達しましたので、一旦の締めとさせて戴きます。
長らく連載に付き合って戴けた皆様。ありがとうございます。
最後まで読んで戴けた方に感謝申し上げます。
次の執筆の指針としたく考えていますので、ご感想並びにご評価を是非戴きたく存じます。
よろしくお願い致します。
訂正履歴
2025/09/23 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)




