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211話 論功行賞

 もう1ヶ月前の話になる。

 ゼルス戦役直後、俺達は王都へ戻った。


 ストラーダ候と共に国王へ謁見し,反乱軍の壊滅とディグラント海軍の撃退、ディグラント帝国第3皇子他を捕虜としたことを報告した。


 居並ぶ廷臣から賞賛を受けたが、引き続き大内海沿岸を中心として、国境警備に当たって欲しい旨要請を受けた。その頃はまだまともに軍も機能していないから受諾して、ゴルドラン派を除く辺境伯の元を訪れる巡視の旅に出た。


 昨日。

 巡視がようやく終わり、昨日再び王都に戻って来た。

 結果は既に文書で報告済みだが、ストラーダ侯が不在のため、久々にゆっくりと過ごしていると、夜半に使いが来た。


 そして今日。

 日を改めて、宰相府に出頭した。執務室に伺う。


「魔人アレックス参りました」

「おお、アレックス卿。相変わらず元気そうだな」

 満面の笑顔だ。


「ストラーダ閣下も、ご息災のようで……新直轄領はいかがでした」


 先月までゴルドラン侯爵領だったところだ。


「うむ。反抗らしい反抗もない。大人しいものだ」


 新しい大貴族の領土に編入されるのであれば、また状況は変わったのかも知れないが。


「貴公こそ、諸領の巡回警戒ご苦労だった。掛けられよ」

「はっ!」


 対面のソファに座ると、背後にレダが立った。


「報告は読ませてもらった。防衛網に問題なしか。喜ばしいが、ディグラントに動きがあるという話だったな」


 我ながら、なかなかの文量だと思うが、もう読んだのか。


「閣下もご存じのことと存じますが、彼の国でも反乱が発生しました。幸か不幸か、数日で鎮圧されましたが」


 黒衣衆の調べた結果によると、我が国への再度の出兵準備指令に対して、ディグラント海軍一派が反乱を起こしたようだ。荷担した軍関係者は、百人規模で粛清されたらしい。


「うーむ。ディグラント皇帝の威信は下がってきているのは間違いないが。瓦解までは行かなそうだ。しかし……」

「その失点を外征で埋め合わせようという強硬派は、出てくることが予想されます」

「そうだな」

「まずは、辺境伯の方々には、例の魔道具を配布すると共に、警戒を厳にするよう要請しました」

「ありがたい。ハーケン女史に狐殿と、卿の周りは多士済々で羨ましいな」


 むっ!


「しかし、卿の使い方のところが大きい事はよく分かっている。政府として干渉する気はない」

「それはどうも」

 流石はストラーダ侯。よく分かっている。まあうまく行っている内はということだろうが。


「ところで、今日呼んだのは、別のことが主体だ」

 大体察しは付くが。


「先の反乱鎮圧の論功行賞に結果が出たのでな。卿も含めてのことだが」

 宰相は、表情を少し硬くした。


「アレックス卿の軍功は並ぶ物がない、それは誰もが認める所だ。さりながら……陞爵させることはできぬ」

「いえ、お気になさらずに。先に伯爵位を戴いておりますゆえ」

 まあ侯爵にするわけにはいかんだろうな。そうなれば、セルレアン辺境伯になることは事実上なくなってしまうので、俺としても望む所だ。


「替わりになるとは思わぬが、陛下直属の特務中将に昇格してもらう」

「特務?と申しますと」

 中将はともかく。特務?


「ああ。中将ともなると、実効部隊かどうかはともかく、軍団を抱えることになる。しかし、魔人にとっては運用が却って負担になる。よって特務だ」


 前例になるのを嫌うものが、政府、そして軍にも居るのだろう。そこで、特務だ。俺の軍への影響力の拡大の歯止めにしたいのだろうな。


 俺自身は、どうでも良いことだが。俺が簒奪を企てると警戒する者が居ることは忘れないようにしよう。ここのところ俺を王都から引き離して居たのも、その一環だろうしな。


 さて気になっていることを訊くか。


「わかりました。ところで老師は?」


 閣下は片眉を上げた。

「老師……何か聞いているのか?」


「いえ。ですが、ゼルスでの老師の言行に違和感を感じまして」


「そうか。まあいずれわかることだ。魔人ヴァドー・シュテファニツアから、辞任の意向を示されている……」


 やはり。


「……この時勢だ。慰留はしたが、本人の意思は固いしな。陛下も同人の意向を尊重するよう仰られた」

「そうですか……」


「辞任は魔人に留まらぬ。公職全てだ。よって、国防評議会議長は、卿に就任して貰うことになる」


 げっ!

「いえ、それは」

「老人の推薦でもある。委員会は辺境伯も大勢入っているからそれほどでもないが。評議会はゴルドラン一派が抜けるしな、逆に海軍優勢になる。先が見えている者がやらねばな」


「毒を以て毒を制すと?」

「ふむ。そのことわざは初めて聞いたが、そう言うことだ。ああ、あと王立パレス高等学園魔法科、陸軍学校、海軍学校の、ぞれぞれ名誉教官の後任になって貰う。面倒臭いだろうが、人造りは……17歳の卿に言うのも変な話ではあるが」


「いえ。了解しました」


「そうだな。卿も知っていることもあるだろうが、顛末や他の者の論功行賞を一通り説明しよう」


 まずはゴルドアンについて。

 俺がゼルスに行っている間に、ミュネス中将が率いた一隊によって、ゴルドアン侯爵領王都上屋敷の他、下屋敷、別荘が急襲された。主立った者は、ゾディアックがゼルスに同行させたため、ほぼ無人だった。空振りではあったが、当初の目的である、同家の無力化と接収は遂行された。

 

 同日午後には国王ヨッフェン・スバルス4世の名において、戒厳令は取り消され、王都の安全宣言と共に、夜間外出禁止令は解除された。


 翌日、転移門システムが再稼働。

 初回使用はゴルドラン侯爵領への突入だった。

 ここでも王都屋敷と同じように兵はなく、延べ千人超の国軍歩兵が転移したことで、無抵抗のままゴルドラン侯爵領は、国軍に制圧された。


 ゴルドアン領都城に入った国軍は、侯爵の姿を探したが確認できなかった。

 当然指揮官の中将は、侯爵の行方を、副家宰、家令に尋ねたが、帰って来たのは4年前に死亡したとの答えだった。しかし、その証言は鵜呑みにはされず、捜査はその後も続けられているが、未だに侯爵は……今となっては元侯爵だが、発見されていない。


 官僚組織、閣僚は数日で機能を取り戻したが、軍組織はゴルドアン制圧軍派兵もあり、戦略指揮系統である参謀本部が絶対的な人員不足に陥った。


 10日後にはドラン准将とシュトローム中佐が指揮を執りつつ、地方領の王都上下屋敷に詰めている参謀系の武官が緊急招集されなんとか好転した。

 その後、軍用にか使われていなかった転移門が、ようやく通常使用に戻った。

 不備だらけだが、ようやく国軍も回り始めたことになる。


 論功行賞だが。

 侯爵と同子爵の死亡によりゴルドラン家は改易となった。領地は先に述べたように国王直轄領となり、財産没収の上、残存の分家、親類筋は反乱に参加した者は、同じく改易。不参加の場合、男爵家以上は、審査待ちとなっている。


 ストラーダ宰相以下内閣、官僚は、軍関係を除いて、そのまま現状維持となった。


 軍はかなりの異動がある。

 陸軍大臣ヴァルタザール伯爵は辞職、参謀本部総長大将ロンダル宮廷伯爵は更迭された。両名の反乱関与に関する捜査は未だ続いているが、少なくとも前者は無実らしい。

陸軍大臣は,海軍大臣のフォーゼズ宮廷伯爵が臨時兼務となり、参謀本部総長は空席のままだ。その他、参謀本部の士官以上で87名が更迭された。うち66名は軍刑務所に収監された。


 あと、面識のある者だが。

 ミュネス中将は、王都失陥の責任をとって辞表を提出したが、人材不足を理由に慰留され、現職に復帰した。ドラン准将は、少将に昇格の上、参謀本部次長に就任した。


「問題は、ディグラントだ」

「はい」

「予定では明後日に、外交使節が来訪する」

「捕虜返還交渉ですか」

「うむ。第3皇子の引き渡しを要求してくるだろう。こちらとしては、謝罪と不戦協定を要求するがな……」


「見通しは、良くなさそうですね」


「ディグラントの戦略目的は卿の尽力で阻止されているが、彼らは負けたとは思っていない。余り言いたくはないが、被害が少なすぎる。懲りるまで行かず、不完全燃焼に陥っているわけだ」


「むぅ」

「そう眉根を寄せるな。アレックス卿。双方の被害を最小限に抑える卿のやり方には賛否両論あるが、私は高く評価している。人道上の話もあるが、和平が成った後の遺恨が少なくて済むからな」

「ありがとうございます」


「いや、礼を言うべきはこちらの方だ。卿と直接戦った者達は卿を恐怖しているだろう。それが反乱騒ぎにつながっているしな。が、問題は戦争を起こすのが、彼らではなく、安全な所にいる声高な扇動者だ」


「閣下と意見は一致しているようです。策があります」

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2025/09/23 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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