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210話 決着


─ 潰榴弾ルフトゼルクラーケン ─


 俺は、風魔法を発動した。

 そして撃った。

 海面へ。何者も居ない真下へ。


 そこは、やつらの四聖(クワサン)(プリズナ)、魔界干渉圏の死角だった。

 発動した突風は俺の足下、ピンポイントで凍りかけた海水を悉く吹き飛ばした。


 遠浅の海底が引き潮のように露呈した。

 飛行魔法を中断。俺は自由落下で降り立った。


 膝を着き、両手で新たな大地に突く!


[いくぞ、アレックス!]

──おうさ!


 頭の芯が冷え切る。共鳴──


   葬られし科人とがびと怨嗟えんさ

── 葬られし科人とがびと怨嗟えんさ


   とげと放て ─ 土銛テッラハプーン土銛土銛土銛土銛…… ─

── とげと放て ─ 土銛テッラハプーン土銛土銛土銛土銛…… ─


 俺の周囲が剣山の如く、土の棘が無数に突き上がる。


  撃て!

──撃て!


 大空を疾駆する箭が埋め尽くした。何者も逃れ得ない物量の暴威。

 刹那に音速の5倍まで加速された土筍は、弾道上の物を全て貫き、1秒持たずして燃え尽きた。

 頭上が紅く灼けた。朝焼けより赫く。


 水音に視線を降ろすと、吹き飛ばした波涛が押し寄せて来る。


─ 翔凰アルコン ─


 戻ってきた海水に濡れるのを嫌い、再び舞い上がった。


 もはや魔界干渉の暴風圏もない。

 3つの何かが放物線を描いて墜ちていく。


 あるものは光を牽き、またあるものは放電し、渦を解きながら。

 いずれも、海水面に激突するまでに尽きた。


 残るは──


 全身血まみれとなった、蛇鳥ヴィーブル=ゾディアックが、元居た宙に漂って居るのみだ。


「遍く魔法を挫く四聖(クワサン)(プリズナ)をどうやって」

「土だ!」

「土?」


「四聖鳥に土属性はない。天空を征く者だからな」

「そのような……ゴフッ」


 つまり魔界干渉圏は不完全。

 無論、生半可な土属性魔法であれば、十分無効化されたことだろうが。

 しかも四聖鳥に直接当たるは、魔束波ではなく、空にはない物理的な土の飛翔体だ。


 故に無防備に攻撃を排除できなかったのだ。


 血に染まった口角が、僅かに開く。

 彼の身体が燃え上がった。

 端から宙に散っていく。


「欠陥……ひ……んは……私の方……か」


 端正な顔が瞑目すると。焔は強まり、その身を燃やし尽くした。


 炎が消え去る。


 そうだ!

[なあ、アレックス。こっちでは火の鳥の伝説はないのか?」


──聞いたことないけど。前世の伝説?


[ああ。火の鳥は自らを焼き尽くして、灰の中から甦るってヤツだが]


 ガルーダというより、フェニックス寄りの伝説だが。


──ふーん。なんか幻想的だね。でも灰は海に落ちたし、無理じゃない?


 散文的なやつ。


 先生にでも聞いてみるか。

 さて次は……反乱軍の残党か。陸へ向かって、ゆるゆると飛ぶ。


 むう。

 爆発があった小高い陣地へ近付くと、強烈な魔力源を感知した。

 おお老師だ。

 歩いていたが、止まって、こっちを向いた。俺の方を睨んで居るように見えるが。あの様子だと、残党共は既に片が付いているに違いない。ついていなかったとしても、老師がやるべきだしな。しばらく放っておいて大丈夫だろう。


 こっちは……唯一残った軍艦と築いてしまった氷の断崖を見下ろす。


     ◇


 軍艦は再び持ち上げ、陸へ降ろした。低温で弱って身動きできないディグラント乗員を、捕虜として国軍の部隊に引き渡した。


 大氷塊の方は貪婪闇珠オートファジーで闇の眷属に氷を喰わせた。

 凍らせたのは秒未満だったが、後始末には1時間以上も掛かった。

 戦死者、戦傷者を最小限にするには必要だったと思っているから後悔はないが。


 新たに敷かれた陣、幾つもテントが張られた丘に降り立つ。ふと視ると、手首を繋がれた、士官の列が見える。参謀共のようだ。


 一瞬ざわついたが、兵達に軍礼で迎えられる。


「中に、ヴァドー師がいらっしゃいます」


 俺は、告げた兵に頷くと、テントに入る。

 中には老師の他、レダにアン、そしてエリーカ嬢も居た。俺を睨んだ後、つーんとそっぽを向いた。


 老師は、さっき歩いている姿も観たが、それほど衰弱してるようには見えないな。


「アレックス卿。ご苦労だった」

 老師は、立ち上がって軍礼する。

「はっ!」

 俺も敬礼を返す。座る途中、手を下ろすと老師は右脚を摩った。


「大凡の話は、そこの間者アン秘書官レダから聞いた」

「そうですか。反乱者共は捕らえたようですね」


 当たり前だろうと言う顔で睨まれる。


 無意識なのか、老師は右大腿をまた摩った。


「うむ……それから。あの軍艦に乗艦していたのは、ディグラント帝国皇帝の第3皇子だった」

 ほう……。

「意外に大物でしたな」


「知っていて、あの艦を捕らえたのではないのか?」

「いいえ。単純に沈み掛かっていたからですが。まあ旗艦とはわかっていましたが」


 老師は俯く。


「失礼ながら、戦傷を負われたようですな?」

 女性陣がビクッと老師の方を向いた。


 老師は俯き、ゆっくりと顔を上げる。

「ふん。爆発の予兆を察知するのが遅れたゆえ、抜かった! が、もはやどうということはない」


「それは、なにより。して、この後は」


「拘束した敵兵、ここの後始末は、我に任せよ」

「了解しました。ああ1つお願いが」


「なんだ?」

「しばらく漁獲高に影響が出るかも知れません。政府で保証するというのは……」

 大規模に凍らしたからな。

 捕虜も取ったことだ。賠償金が国に入るはずだ。


「他の場合もある。確約はできんが善処する。貴公は、このお嬢さんを連れて、帰還されよ」

「はっ! では、お言葉に甘えます」


 エリーカ嬢はさっさと立ち上がると、テントを出た。

 振り返るとギロっと俺を睨む。


「レダ殿」

「何でしょう? エリーカ様」

「ここから、転移門のある町まで、馬車でどの程度時間が掛かるかな?」


「馬車でですか? 一番近いのはロザムンスと思われますが。2日行程余りかと。つまり、お一人でお帰りになるお積もりですか?」


 エリーカ嬢は、少し驚いた表情だ。

「いや、そうは申して居らぬだろう。ただ時間のことを訊いただけで……」

「はあ。でも我らは、馬車では戻りませぬゆえ。ねえ、アレク様」


「ああ、王都まで1時間余りで着くからな」

「なっ、何だと? 王都から結構離れているはず。どうやって……そうか! 空モガ……」


 大きな声を上げたので、周りに居た兵の視線が向く。


「失礼致しました」

 レダが、口を塞いでいた手を離した。


「そうか、そうか。1時間でなあ」


 少し離れてから空路で帰ったが、エリーカ嬢のご機嫌は怖ろしく好転した。

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