209話 竜の天敵
「ククク……流石に魔人殿には隠し事はできないな。まあそう言うと思っていた」
仮面を取って、整った顔を晒した。
「ところで、私が盟主と何時わかった?」
「ゴルドランの終焉──自ら盟主でないと告げたのでな」
「……欠陥品は、最後まで欠陥品か」
ゾディアックは吐き捨てた。
「これは戦争だ。人質など効かぬ」
「王族であってもか」
「王族? 自らが人質になった折りは、諸共に討てと陛下は仰ったがな」
「ふん! 豚の王が……」
外観に異議はないが、なんかムカつく。
何時までも付き合う必要はないか。
「そろそろ良いんじゃないですか? エリーカ殿!」
キシャァァァァァア!!!
女性の腕が光り輝き、大鷲は悲鳴を上げながら、宙へふらふらと逃げた。
「アレク殿!! 何時助けてくれるかと待って居れば、相変わらず冷たい男だな!」
真っ赤になって俺に抗議した。
「ご自身で反撃できると……現にできましたし」
やはり、只者ではなかったな。地母神の試練を乗り切っただけのことはある。
ゾディアックが、真っ赤になっている。心なしか振るえている。
「エリーカ会長? そなた何者だ?」
「ふん。不埒者に名乗る名はないが……男爵エリーカ・ランデルヌだ!! 自治会長はそこな魔人の妹御に譲ったと言うに、いつまでも役名で呼ぶでない」
端正なゾディアックの顔が引き攣っている
「王女ではない…… 騙したな!」
まあメティス殿下は、ほぼ行事にも参加しない。顔を知っている国民は極々僅かだ。国王も大した違いはないが、こっちは肖像画が出回っている。
「ふふふ。妾は違うと言うに、無理矢理王宮より連れ出したのは、汝らであろう」
その光景が眼に見えるようだ。メティス殿下を庇って態と誤認させ、拉致させたに違いない。
「さて、ディグランド皇妃の座も捨て難いが、その不埒者をアレク殿が押さえている内に去るとしよう」
その声が耳に残っている間に、エリーカ嬢は姿を消した。
くっ、くくく…………。
項垂れたゾディアックの嗤い声が聞こえる。
「もはや貴公と戦って雌雄を決するしかあるまいな」
次の刹那、軍服がビリビリと破れた。
顔はそのままだが、背中からコウモリのような翼が広がり、脚は猛禽、太い蛇の尻尾が生えた。
半人半蛇の獣人ヴィーヴルと頭に浮かぶ。
「この姿は見せたくなかったのだが……出でよ!」
ゾディアック=ヴィーヴルが叫ぶと、俺を囲むように虚空に3つの炎が灯った。
召喚魔法だ。
面白い。最近とみに歯ごたえのある敵が居なかったからな。
斉竜は敵にはならぬし。
明らかに俺は増長しているのだろうが、血が滾る思いが心を占める。
炎が大きく輝くと、実体化した。
左、閃光を纏いし姿、金色鳥。
右、稲妻を纏いし姿、雷鳥。
後、暴風を纏いし姿、獅子鳥。
そして──
前、火焔を纏いし姿、蛇鳥
──四聖鳥だ!
それで、黄道帯か……。
前世の黄道には、十二星座があるが、この世界では四聖鳥が鎮座する。
ゴルドラン侯爵家遠縁の分家と聞いたが。そう言う名付けか。
四聖鳥が羽ばたき、俺の周りを縦横無尽に猛烈に飛び違う。
==四聖獄==
目にも止まらぬ速さで、飛行により俺の周りに妙な力場が……
うわっ!
俺は墜ちた。一瞬驚いたが、魔力を数倍増して立て直す。。
海面上数mで持ちこたえた。
「はははっ! 魔人と雖も所詮は人間! 四聖獄から逃れることはできぬぞ!」
「ふん!」
確かに魔力の通りが悪い。
どういうことだ? 空気の比透魔率は1.005。真空と変わらないはず。
それが下がるはずは……。
少し動揺があったのか。右上から飛んできた火焔を避けるのが遅れる。
ちぃ!
熱ッ……。
辛うじて避けた物の次々火焔が襲ってくる。
ダァアアアン。
空気絶縁が破れ、電撃が乱れ飛ぶ。
空間を膜で包むように迫る。避けきれる物ではない
クッ!
大部分は防御したが、電圧が殺しきれず四肢に痛覚が走る。
あの光……。俺の光壁を霧散させている。
「フハハハハァ、アッハハハハ……電撃はなにも君の専売ではないぞ! アハハハ」
哄笑が響き渡る。
痺れた身体が重い。
暴風に煽られ、思うように身を処せない。
負けるものか!
─ 爆焔 ─
魔束が渦巻く暴風に捲かれ、放った火焔が消え去る。
─ 爆焔 ─ ─ 爆焔 ─
「ハハハッ! 無駄無駄無駄!」
渦巻く旋風が、鎌鼬の如く真空波を繰り出す。
火焔、電撃、旋風、光波。
四聖の複合魔法。
干渉──
魔界の干渉により魔法を無効化しているのか
敵が自ら行使する時のみ干渉を解除し、俺を攻撃している。
──じゃあ。それに合わせて。こちらも繰り出せば!
[無理だな。解除を感知して、こちらが魔法を撃っても、到達する前に再び干渉の渦に捲かれる]
諦めではなく、爆焔魔法多発よる検証結果だ。
──手も足も出ないってこと?
アレックスはのんきなものだ。
絶え間ない火焔を、電撃を、避け続ける。
[策が無いわけではないが……駄目だ]
魔界の干渉を過剰な魔力を込めて、遍照金剛で弾き飛ばす。しかし、干渉魔界を打ち破った瞬間、爆風が発生して、衝撃波が地表面の半径数kmの全てを薙ぎ倒すことになる。
戦術核並の惨状だ
──ああ……蛇の天敵は鳥って言うけど、竜の天敵も鳥なのか!
[何だと?]
──天敵!
そうか! 天敵か!
風の精霊の御名に拠りて 怨敵を叩きつぶせ ─ 潰榴弾
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訂正履歴
2017/10/21 不良品→欠陥品
2025/09/23 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)




