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207話 魔人撃たる

 乗っているランゼ先生の旅客機の高度を1000mまで上げる。

 俺の飛行艇と違って、翼も大きくステルス性も高くない。まあそれは、光学迷彩魔法で何とかするにしても、他にも探知されかねない問題がある。


「機関停止!」


 機関の作動音が消え、静かになった。


「えーと。アレク様?」

「なんだ?」


「気の所為だと思いたいのですが。私達墜ちてませんか? 先程機関を止めましたよね」

「気の所為じゃない。滑空比20対1位で墜ちてるぞ」

「えぇ? ちょっと!!」


「アンは騒ぎ過ぎ。アレク様は、機関を止めることで、敵に発見される確率を下げているのよ」


「いやいや発見されても良いから墜ちない方が」

「でも墜ち切るまでに遠ざかることができるように、さっき高度を上げたでしょ。どのみち死ぬ時はみんな一緒」

 最近俺の思考を先読するようになったな、レダは。


 あれは……居た!

 西に沈みつつある月が、鏡のような海面に船影を伸ばしている。


「左舷を見ろ!」

 機を左に倒す。


「痛い! 痛いです。レダさん」

 レダが、アンにのし掛かっている。

「後ろ、後ろの席からも見えますから」

「ああ……」

「ああ、じゃなくてですね!」


「ディグラントの戦船、大きいのが6、7……。小さいのは数えられないほど」

 なかなかの規模だ。

 昨年夏とは規模が違う。


「アン!」

「お任せ下さい。さっきから撮影しています」


 まだ海岸から7km余離れているが、早暁に上陸戦を敢行しようと言う意思が窺える。

 その上空を通り過ぎると、海岸線が見えてきた。少し内陸に入った所に陣地が線状に敷かれているが、やや海抜が高い一部が不自然に途切れている。


 ヴァドー師なら、あそこに陣取るだろうなと言うところだ。

 おそらく魔力砲を据え付けていたことだろう。

 

 しかし、今となっては、謀反を起こした反乱者共がたむろって居るようだ。数的にも、防衛軍の方が多そうなのだが。

 一掃しないのは、重大な理由があるのだろう。

 

 その上空もあっという間に行き過ぎると、台地が見えて来た。

 

「機関再始動!」

 当機のロケット噴射は、ただの圧縮空気だ。だが、噴き出た瞬間に周囲の空気を断熱圧縮させて温度が上がる。だが、これだけ離れれば、発見の恐れは低いはずだ。

 

 落下が止まり、水平飛行に移る。

 

「アレク様。あの台地の頂に降りて下さい。仲間が居るはずです」

「了解」


 平坦な原っぱが有ったので、垂直に舞い降りる。

 数分待つと、わらわらと黒い影が集まってきた。

 降りていくと、5人の間者が跪いた。


「ご苦労! ディグラントの軍容は見てきた、それ以外を」

「はっ! 報告致します。あの船隊は、以前はもっと沖合にいましたが、2日前から、あそこに停泊して居ります。我が海軍は、3日前に小競り合いが有りましたが、参謀本部からの指令らしく撤退しています」


「うむ。陸の方は?」

「昨日昼過ぎに友軍が来訪し、現地司令のヴァド-師を呼び寄せられたのですが。その後、日暮れ前後に爆発がありまして」


「爆発?」

「ええ。中程の小高い丘です」


 あそこか。

 防衛陣地が、一部不自然に途切れていた辺りだ。


「ふむ。それで」

「十数人の死傷者が出たとのことで、緊急に近郷の者が借り出されました。我らはそれに紛れ込んで情報を集めた所、怪我人は主に国軍とこの辺りの領軍の兵ばかりでした。それからまもなく、真偽は確認できていませんがヴァドー師が捕らわれたとの、話が出ました」


「うむ。老師の件は、参謀本部を奪還した時に反乱分子の証言でも、出た話だ。他に人質の情報はないか?」

「入っておりません」


 うむ。

 話を戻して。なぜ、そして何が爆発したのか?


「そうだ。何か長く筋を引くような輝きは見なかったか?」

「はあ?」

 俺に報告していた者が、仲間を振り返って訊いているが、どの者も首を振っている。

「アレックス様、見た者は居りません」


 魔力砲は撃たれてはいないようだ。

 暴発の線ではないのか、ならば……。


「分かった。ご苦労。以降はアンの指揮下へ入れ!」


「了解致しました」

 黒衣の男が下がる。


 アンとレダが寄ってきた。

「これから、まずはディグラントの船隊を食い止める。それで、反乱軍は釣り出されるだろう。その隙を突いて、ヴァドー師と王女を奪い返す算段をしてくれ。ただし、無理する必要はない。人質を盾とされたら、おとなしく引き下がれ」

「承りました」


 レダもアンも肯いている。


「では、行ってくる!」

「ご武運を!」

 レダが黙っているので、抱き寄せて接吻する。

 大丈夫だと囁いて躰を離した。


─ 翔凰アルコン ─


 一気に舞い上がり、海岸を過ぎて船隊上空まで到達する。

 見下ろせば、船長100mを超える軍船(ワルター級)が、白い航跡を引いている。

 マストから甲板の縁に向かって、網が幾つも張られている。何の意味が?


──アレクが墜とす岩を、受け止めるためじゃない?


[ああ、なるほどな]


──アレクは、自分が敵にとってどれだけ脅威か、わかってないよね


 そんなことはない。


 ほう……。

 視線を巡らせると、船首にありうべからざる物を見付ける。

 大砲だ。


 木造ながら、大砲をもった船。

 もはや軍船では無く、軍艦と呼んで認識を新たにする必要があるだろう。


──アレクのイメージはわかったから、そう訳すけどさ。ルーデシアというか大内海沿岸国じゃあ、船も艦も同じ単語だけどね。


 前世のshipと同じだが。まあ雰囲気ってのは重要だ。


 さらに高度を下げてよく視る。

 火薬砲では無い。

 大きさと言い、形状と言い、魔力砲そっくりだ。

 開発競争の末、同時期に出来上がったわけではなく。どうやら、ヴァドー師の技術が流出したと見るべきだろうな。


 ならば……。

 やはり、ディグラントと反乱者達は通じている。それも前者の手先と見なければならない。ディグラント艦隊がなぜ、この戦略性の乏しいゼルスをわざわざ攻め、浜から眼に見える距離で長らく待っていたのか。


 自分たちも持っている魔力砲の威力を撃ち合う不利を、反乱者の攻撃で我が国の内部から食い破る戦術で対応したわけだ。


 許せん。

 相応の恐怖を味わって貰う。


─ 光彩(アーミタ) ─


 光学迷彩の代わりに別の光魔法を発動すると、俺の全身が輝きだした。

 突如頭上に現れた発光体に、水兵つまり甲板員が間もなく気付き、右往左往し始める。中から士官らしい兵も出てきた。


 そろそろ良いだろう。

 拡声魔法を発動。


「ディグラント兵に告ぐ!!」


 聞こえたようだ。指差しながら、俺を見上げている。


「我は、魔人アレックスなり! 我は、ラメッタに行き聖人となった。これこそが、その証。聖王聖下、総主教猊下より賜ったロムルスの槍なり!」


 俺は魔収納から十字槍を取り出し、これ見よがしに大きく揮って槍術の構えを取る。

 周りは十分明るい、水兵も見えて居るだろう。


 敵は眼に見えて混乱しはじめた。

 ディグラントも精霊教国の1つ。大半の国民は教団を尊崇しているし、この槍のことも常識として知っている。


 もう一押しだ。


「我は精霊の御使いなり。精霊を畏れるなら、直ちに撤退せよ!」


 俺に艦首を向けた一隻がある。

 士官が何事か俺に向けて叫んでいる、どのみち罵声に決まっているが。その横で兵が2人掛かりで砲の仰角を上げている。


 士官が俺に向かい腕を振り上げた。

 そのとき魔力砲の尾栓の辺りが鈍く輝き、一瞬遅れて砲口が火を噴いた。


 目の前が、昼間の何百倍も明るく飽和した。

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訂正履歴

2025/09/23 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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