206話 旅客機に乗る
俺の王都館に戻ると、ランゼ先生とダイモスが待ち構えていた。
ダイモスが少し興奮している。
「お帰りなさいませ。素晴らしかったですな、あの映像。あのようにはっきりと、そして大きく映せるとは思っても見ませんでした」
そっちか。
「銀水晶を大きくしただけだ」
無論。それだけではない。散布した薬剤が奏功して、綺麗に反射させることができたのだ。それはともかく。
「首尾はよろしくないのですか?」
俺の表情を読み取ったのだろう。
「うむ。ダイモス……王都での作戦は、全てうまく行ったのだが。それ以前の問題だ」
「と、申されますと?」
最低限説明しないと駄目だろう。
空の映写により王都内の敵軍が瓦解し、王都刑務所内の捕虜の解放、陸軍と参謀本部の収容した。ゴルドアン次長の病死についても簡略化して伝えた。
「ふん。では、シーヴァルド・ゴルドアンは、謀反の黒幕ではなかったと言うことか……」
先生は、嘆息しながら首を振った。
「敵ながら、なにやら哀れですな。足手まといになったら置き去られるとは」
「確かにな。それで問題とは何かな、アレク殿」
「次長に拠れば、状況は分かりませんが、老師が敵に捕らわれたようです」
「なんと! ヴァドー師が……」
「うーーむ」
ダイモスの顔が引き攣り、先生が唸る。
なかなか厳しい反応だ。先生はともかく、周知されれば民衆も同じような反応を示すだろう。
「後は、メティス殿下の行方が不明だ。最悪拉致されている可能性がある」
メティス・スヴァルス。先王の王女だ。
「そちらは、個人的な感慨を除いて、大勢に影響は無いだろうが……それで、アレク殿は、ゼルスに向かわれるのか?」
「はい。明日の夜明け前には。先生には王室をお願いします」
「ふん! あのような者達はどうでも良い。アレク殿に付いていきたいのだがな」
「私を信用できないと?」
「まあな、ヴァドー師がどのように捕らえられたか分からぬ状況では、なんとも言えぬ」
「それについては、十分留意しますよ。さて少し仮眠をとります」
◇
朝3時。
起きると、新しい肌着が用意されていた。
珍しく自分で着替えて、光学迷彩魔法を発動し、庭に行く。
むっ!
飛行艇1号機に乗り込もうとしたら、既にレダが搭乗していた。
「レダ、おはよう。だが、今回は1人で行く。降りろ!」
レダはきょとんとした顔で、小首を傾げた。
「だから、降りろって」
「一緒に行けないなら、生きている意味がありません。石垣から飛び降りて死にます」
「はっ?」
「私も……行きます」
背後から声がした。
アン?
「ああ、私を連れて行かないと言うことは、すなわち黒衣衆も不要と言うことになりますから、皆で出奔します」
「俺を脅す気か!」
「ああ、まだ日も上がってない内から、うるさいな」
隣に駐機中の、ランゼ先生が自身で製作した旅客機から降りてきた。
「面倒だから! 2人とも連れて行くのだ、これでな」
先生が自分の機を指差す。
「バッチリ魔力充填して、整備してある。その代わり、アレク殿の艇を1つ置いていくのだぞ」
「師の仰せに遵いましょう。ありがとうございます」
「いや、礼はいつものやつで良いぞ」
はあ……。
そそくさと、レダが降りてきて、3人で乗り込む。コクピットの作りを同じのようだ。
搭乗口に、先生が首を突っ込んできた。
「壊さず、返してくれよ!」
愛着があるようだ。
俺も暇になったら輸送機を造るとしよう。
「壊したら、もっと良いのを造って差し上げますよ」
「皆、聞いたな」
機内灯が照らした先生はにっこり笑っていて、扉を閉めてくれた。
「機関始動!」
ふーん。
水晶球に両手を置くと、構造が自然と知覚できる。
2個の反応魔石を緩衝槽に繋げて、吹き出せているのか。
要は流体の爆発的発散反応を間欠的に起こして、それを一旦圧力を安定化させて、放出しているのか。
この構造なら、速力は頭打ちになるが、魔力が節約できて航続距離が伸びるな。俺の方式より洗練されている、魔気発散器とか名付けるべきだな。
流石は先生。
レダ専用機と言うより、俺以外の為の機を造るなら。こっちの方式の延長線上が良いだろうな。
「乗員もベルト着用!」
「はい」
先生とダイモスが離れたので、軽く吹かして浮かび上がる。
体格の割に、華奢な機だ。
加速を念じるがジリジリと上がらない。
旅客機だからな。
巡航速度は、時速400kmか。それでも1時間と掛からない
慌てて行くだけが善とは限らない。
「さて、少し間もあるようですし。お飲み物でも用意しますか?」
アンの声だ。
振り返ると、勝手に立ち上がっていた。
まあ、ベルト着用ランプも装備されていないし、仕方ない。
「アン。パーラーメイドのフリは良い」
「いや、フリじゃ無いんですけど。アレク様ひとつお訊きしたいのですが。外の敵と、中の敵。どちらを先に叩かれるのですか?」
──私も訊きたい!
「さあな」
「いや、さあなって? 決めてらっしゃいますよね?」
「アン。配下は黙って従うの」
いや、レダ。そこまで言わなくても。
「それはそうですけど。聞きたいじゃないですか。レダさんはどうお考えなんです?」
「他人に聞く前に、自分の意見は?」
「はい。お茶どうぞ。アレク様」
「ああ」
カップを受け取って一口喫する。
なかなか良い味だ。
「ああ、私の意見ですか、斃しやすい方を先にでよろしいかと」
漫才か!
「斃しやすい方?」
「斃しやすい方を一気にぱぁーって斃して、斃しにくい方に注力されるでよろしいかと思いますが。ほら申しましたよ。レダさん」
「私は、アレク様が斃したいと思う方から」
「はい?」
「なぜなら、どっちが先でも、アレク様は選んだ方を正解にするから」
「なんですか、それ? おのろけですか!」
「そうとも言う」
「はっ!」
「いずれにしても、状況を確認してからだ。人質もいるようだしな」
「では、決めて戴くための材料を、頭領から預かってます」
「頭領?」
レダが聞き返す。
「黒衣衆の頭領のことです。預かったのは、情報。持って居るのは手の者ですが」
そう言えば、ラメッタに行く前に爺様のところでそんな話をしていたな。
「どこに居るんだ?」
「ゼルスは行ったことないですけど、港町ですよね。そこから北東に2km位にある農村で、ザルマースってところに居るそうです」
魔収納から、地図を出す。
「ザルマース、ザルマース? ゼルスを探した方が早いか」
ゼルスも広く開けた遠浅の海岸があるだけで、精々漁港周りに建物が並んでいる小さな町らしい。
とは言え海岸線にあるから、すぐ見つかった。
ゼルスがここだから。右上の方か。ちょろんと丸が書いてある。ここがザルマースらしい。今は大内海をショートカットしようとしているから、ディグラント艦隊とゼルスを下に見つつザルマース村へ行くとするか。
「もうすぐだ。高度を上げるぞ!」
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訂正履歴
2025/09/23 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)




