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205話 参謀本部襲撃

 国王陛下と宰相閣下の小演説上映は終わった。

 反応を待つこと30分。


 王都城門の屋上から城外を見下ろす。


「ふふふ……どんどん逃げていくぞ、アレク殿。追わないのか?」


 追わないよ。 

 農民兵は殺すなってあんたが言うから、こんな七面倒臭いことをやっているのだろうが! ランゼ先生。


「もはや戦力たり得ないでしょう。追う必要を認めませんが」


 しかし……あぁ。もうちょっと整然と進軍しないと損耗するぞって正規兵じゃないし、仕方ないか。

 ばらばらに逃げていくの見て、少し後悔しかける。王都の周りは夜盗の類いも居ないし、襲われはしないだろう。まあ、農家の人は粘り強いし、根性あるから頑張って欲しい。


 逃げずに王宮を護り始めた隊もあるしな。逃げていく彼らは余り優遇する気にならないな。


「アレク殿も博愛の意識が強くなった。持って居る槍が奏功したかな?」


「はっ?」

「元々の持ち主は汝の敵を愛せと言ったらしいぞ」

「俺は、そこまで人間できてませんけど。さて、まだやることがあるんで失礼しますよ」


─ 翔凰アルコン ─


 10秒余りで中央街区まで到達した。素でも音速を超える日は近いな。

 月夜でも闇に溶け込む、忌々しい建物に降り立つ。


 反乱者の巣窟だったであろう参謀本部だ。。


 屋上にある窓を引っぺがして、中に入る。


 やはり、人気が少ないな。

 一番近い反応は……。


「貴様、何者……」

 こいつだ。

 廊下の角から、士官が飛び出してきた。


「俺の顔を知っているようだな、敬礼はどうした? 少尉」

「魔人……かっ、革命の敵め!」


 弩を構えるが、遅いな。

 ダダダッ!

 連射した矢は天井に刺さった。


 その前に、踏み込んだ俺の掌底が、狙撃者の顎を撃ち抜いている。失神してしまい、受け身を取らず倒れた。


 おい……参謀本部勤務とは言え、軍人だろう。もう少し鍛えておけよ


 それにしても。革命とは笑わせる。


「侵入者だ!」


 またもや士官か。5人が突っ込んで来た。

 面倒だな。


─ 烈風フルトゥーナ ─


 見えない壁に衝突されたように、廊下の突き当たりまで、まとまって吹っ飛んでいく。

 殺さないように手加減するのは存外骨が折れる。


 それにしても、士官ばかりだな。兵はおろか、下士官すら見当たらない。

 クーデターに反対する者は、謀反の一派に排斥されたとは聞いていたが。


 無人の廊下を進んで、人間の反応がある部屋の前に来た。

 参謀次長室──


 扉を開ける。


「はぁあああ!」

 裂帛の気合い。

 サーベルの切っ先が閃く。俺の喉笛へ。


 突き込まれた刃は砕けた、遮った左拳の前で。


「腰が入った、悪くない突きだ」


 若い刺客は、右目を見開いた

「馬鹿なっ! ヘブッ!」


 金色を纏った左裏拳が顎をとらえると、刺客は壁にぶち当たって、そのまま崩れ落ちた。


「クロヴィス!」


 でかい机の向こうに声の主が椅子に掛けていた。ゴルドアン次長だ。

 一応襲撃するものの、もぬけの殻も覚悟していたが、意外な大物が居た。


「魔人殿か……相手が悪かったな」

「顎を砕かないように、衝撃を拡散しておいた」


 ゆっくりと近付いていく。


「痛み入る。魔人殿が王都に着くのは5日は先かと思っていたが。あの騒ぎは、あなたの仕業なのだな」


「そうだ。なぜここに残った?」

 彼が謀反の首謀者のはずだが。


 今まで伏せていた顔を上げた

「寿命が来たのでな、廃棄された」


 廃棄? が、その疑問は瞬時に消える。

 重篤な死相──


「癌なのか……」

「そこまで分かるものなのか、退役後は医師になると良い」


 尋常な癌ではない。全身に点々と発生している。生きているのが不思議なぐらいだ。

 数ヶ月前見かけた時から逆算すれば、異常な進行速度だ。


「貴様が盟主だと思っていたが、違うらしいな。そして身代わりでもない」

 前回会ったときと99.999%同一人物と鑑定魔法が告げる。


「ああ、私が盟主? ふん。無論違う。身代わりでもない。ゴホッ」


 そうらしいな。


「愉快だ。死ぬ前に魔人殿に会えて良かった。告白しよう。シーヴァルド・ゴルドアンなる人物は以前から存在しない」


 何だと?

「では、貴様は何者だと言うのだ?」

「私か。彼の複製人間だよ。魔人殿のことだ、その意味が分かるだろう」


 複製人間?


「なんだと?」

「ああ10年前に、ムグッッ、ゴホッ、ゴホッ……造られたのだ。ああ、仮初めの父もそうだ」


「複製が不完全なのか」

「流石だ……な。複製人間の意味が分かるのか。ああ、突如として癌化が異常進行する。我ら劣化複製体には盟主様の御技をもってしても不可避な症状だ」


「盟主とは誰だ?」


「……自分で確認し給え。その方が楽しい……ゴホッ……代わりに善いことを教えよう……老師は今日の夕方に虜にした。だから……」


「だから?」


 沈黙が流れ、彼の唇は再び言葉を紡ぐことは無かった。


     ◇


 時刻は、12時を回っているが、参謀本部前に人が集まってくる反応があり、そこへ降りていく。

 見知った顔があった。


「ドラン准将!」


 俺の声に反応して彼は見上げた。

「魔人殿!」


 地に降り立つと士官服を着た200人足らずの軍人が居た。皆々俺に敬礼する。

 兵の制服を見るに、参謀本部と陸軍がほぼ半分ずつ、海軍所属は僅かだ。


「レダ殿!」

 ドランが呼ぶと、兵達の間からレダが出てきた。彼女には別動隊を指揮させていたのだ。目の前まで出てくると、敬礼した。


「報告します。王都刑務所に軍人が400人程収容されていましたが、これを解放しました」

「ご苦労。それにしては兵が少ないが。残りは?」


「虜囚の中に、王都防衛師団長のミュネス中将閣下がいらっしゃいましたので、3拠点占拠のご意向をお伝えしましたところ、我が意を得たり、すぐ向かうとのことでした」


 3拠点とは、王宮、転移門、ゴルドアン家上屋敷だ。


「ミュネス中将が居たか」

「はい。10日ほど前から監禁されていたそうですが、お元気でした」


 彼が、王都守備隊まで、差し向けて王都を空にした張本人かと思ったが。

 気が大きくなって、ゴルドアン家で略奪や放火をしなければ良いが。

 レダが、すすっと寄ってきた。


「中将閣下には、黒衣衆を付けております」

 

 保険は掛けた、一応信じておけと言うことだな。まあ人が足りぬ、今は致し方ない。

「分かった」

「はっ!」


「ここに居る陸軍所属で最高位は」

「ああ、小官ですかね」

 亜麻色の髪に童顔の男が前に出てきた。


「シュトローム中佐」

 鉄の船が浮かぶと賛同した評議会議員だ。


「貴官居たのか」

「ええ、こう見えても小官はへそ曲がりでして。参謀本部のお歴々に付いて行くのは、嫌でしてね。そうそう、刑務所を出たところで、あの空に映った、国王陛下を拝見しました。あれで勝ったと思いました」


 良く舌が回るヤツだな。

「で?」

「ああ、申し訳ありません。閣下のお役に立って見せます」

「我ではなく、陛下だ」


「あっ、なるほど」

 童顔が渋い顔をした。


「では、貴官に命ずる。陸軍軍人を率いて参謀本部を確保せよ。と言っても、中には居るのは死人と無力化した者だが」

 一瞬眉が吊り上がったが。

「了解!」


 准将が寄って来る。

「魔人殿。陛下は、今何処におわしましょうか?」

「陛下と、宰相閣下は保護した。今はランゼ・ハーケン殿が世話しているから心配無用だ」

「魔女殿が!」

「その内、自ら出て来られるだろう」

「はい。我らにお任せになるということは、魔人殿は」


「ゼルスの戦場に向かう」

「了解致しました。ご活躍を祈っております」

 准将の敬礼に、敬礼を返す。

 

「レダ!」

「はい」

 柔らかな手を掴み、夜空へ舞い上がった。

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訂正履歴

2017/10/07 細かく修正

2025/09/23 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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