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204話 御影放送

「吹かせ!」


 夜空が赫赫と焦げる。

 王都の上空をワイバーン・ヒルダが、気持ち良さげに羽ばたく。

 俺は、光学迷彩魔法で姿を隠しつつ、飛行魔法で横に並んでいる。


 右手に持った籠から、銀煙が噴き出ている。順調だ!

 中にはこいつを噴き出す、魔道具が入っている。以前ハイドラ家に依頼して造って貰った。こんなことに使うとは思っていなかったが。


「よーし、よーし」

 頭を撫でてやると、首を曲げてヒルダがじゃれついてくる。


「もう一回だ。吹かせ!」

 城壁の上を何周か遊弋しながら、幾度となくブレスを放った。


 無論、下に向かないように気を付け、万一には備えて居る。ヒルダは賢いので大丈夫だ。


 戒厳令による夜間外出禁止が布告されているはずだが、人影が通りを慌ただしく行き交っている。ゴルドアンの兵だけではない、王都の民もだ。


 もし火焔を当たれば、街も家もひとたまりも無く燃え上がる。

 その恐れがあるから、他人事ではないからだ。


 竜は、人類の天敵。不倶の仇敵。


 それが、頭上を飛んでいるとなれば、平静で居られるはずもない。

 あの首が、下を向けば。焼かれるのは虚空ではないのだから。


 見えて居るのはヒルダだけだ。少し欠けているが月明かりで結構しっかり捉えられているはずだ。


 そろそろ頃合いか。


    ◇


「隊長! 隊長! 大変だぁ。空、空に……」

「空? 空がどうした!」


 いつも穏やかなクラウスが、血相変えてテントに入り込んできた。

 右足を引き摺りながら、外に出る。


 何だ? 空が轟くように鳴っている。

 雷? いや違う。

 音と少し離れた方向で紅い筋が伸びて行くのが見えた。焔の出所に、影?


 再び轟く空。


 見えた、黒い翼?

「ひぃぃい! 竜……竜だ! 空飛ぶ竜だぁ!!」

「飛龍だ! 飛龍が出たぞぅ!!」


 マズい、マズい、マズい!


「散開……」

 だめだ! 彼らは正規兵ではない。伝わらんか。


「皆。魔灯を消せ! バラバラに散れ、とにかく、ばらばらなるんだ、固まれば一撃でやられるぞ!」


 慌てて言い替えると、ようやく散開した。

 なぜ、亜竜(ワイバーン)が?


「おおい。ワイバーンが東へ行ったぞ」

 確かに、東の空が灼かれている。


「たっ、助かりましたね……中隊長殿」 

「ああ」


「何だこれ? 空がキラキラしてるぞ」

「はあ?」


 キラキラと細かい塵が降りてきた。

 しかし、手で届きそうになる高さまで降って来るまで消えた。

 何だか空が霞んでいるよう見えるが、おそらく飛龍が吐いた、これの所為だろう。

 いやいや、今はそれどころじゃない!


「情報を集めろ。飛龍がどこへ行くか。戻ってくるかも知れん」


 今度の遠征は変なことが多すぎる。


 ゴルドアンの家宰様は、仰った。

 宰相様が、国王陛下の暗殺を仕掛けたと。

 もはや王都の人間には、任せられない。国王陛下を補佐奉るために、王都に行くと。


 そもそも義理の親子だが。評判の仲の良さだったお二人だったのに。宰相様が、陛下を害しようとするだろうか? 

 ゴルドアン侯爵領にいる我々に真相が分かるはずもない。


 他領へ加勢のため出払った領軍正規兵を呼び寄せる暇も惜しんで、農民を中心とした大隊が組織された。

 戦傷で国軍から退役し、ゴルドアン領軍の教育役となっていた私にも声が掛かり、皆と共に転移門で、王都へ来るまでは良かったが……。


 何かがおかしい。

 懐かしい王都の、その民を護るため来たというのに、ほとんど歓迎されていない。

 

 この街区の中隊長をしているが。国軍のヤツらは何をやっている?


 別の中隊のヤツらは、王宮に入ったようだ。そして言っていた。我々は王を御守りしていたのかと。

 兵達は軍に慣れていないから、分かっていないようだが。


 それからも何度か、ワイバーンが何度か回遊するように戻ってきて、その度大騒ぎになった。が、突然途絶えた。


 街は大騒ぎになっている。

 夜間外出禁止令などなかったことのように、多くの市民も表に出てしまっている。


「なっ、なんだ、あれは!」

 テントに入りかけた足が止まる。


 空に何か映っている。

 金獅子……あれは王家、スヴァルス王家の紋章。それが、空に浮かび上がっている。


「あれは、王様の御紋章ではないのか? なっ、そうだろう」


 兵達も、気が付いたようだ。王宮に翻っていたからな。

 我々が来てから、すぐ掲揚されることがなくなったが。


 大音量が響き渡った。

『これより、王都の皆様に大切なお知らせがあります。謹んで聞いて下さい。繰り返します──』


 女性の声だ。

 なんだ、どこから聞こえてくるんだ。

 その呼びかけは声は、3度続いたかと思うと途切れた。


 金獅子の紋章がすうっと消えたかと思うと、総白髪の紳士が空に浮かび上がった。


 ストラーダ侯爵……大逆未遂事件を起こしたと言われる男だ。


『王国宰相ランベスク・ストラーダである。皆の者、良く聞いて欲しい。王国に戒厳令が出された。が、これは政府の意思ではない。国軍参謀本部の一派による独走である。そして、言うだにおぞましいが、国王ヨッフェン・スバルス4世陛下に対し奉り、私が弑逆を企てるなどと絵空事を宣したのは、同じく反逆者によるものだ!』


 まっ、まずい。


「たっ、隊長。知っているんですよね。あれは、あの人は本当に宰相閣下なのですか」

「ああ。ほんの5日程前までは……」


 皆信じられないという顔をしているが、私自身が信じられない。


『ゴルドアン侯爵領軍の兵を持って、恐れ多くも陛下を監禁しておった。許しがたき暴挙だ。しかし、安心して欲しい。陛下並びに我らは解放された。もはや、賊の手には無い。それでは、これより陛下の御影と玉音を王都の民に届けるゆえ、謹んで拝聴するよう」


「へっ、陛下……」

 肖像画で見たことがある。


「おっ、王様だぁ! 国王陛下だぁ!!」

 知っていた者が居たのか、そこここで声が挙がった。

 私も国軍の警備任務で数度しか拝したことの無いが、よく知っていた者だ。


 確かに陛下がベッドの上に座っている。

 あの肥えた体躯、見間違えるはずもない。

 その後ろにに、ストラーダ侯がその背中を支えている。


『朕が望むことは、ただ1つ。民の安寧である! 反逆した賊が、朕や我が一族を人質にして、民の生命や暮らしを壊すようであれば、賊諸共に朕を滅ぼせ! そして、我に衷心より尽くしてくれる、この義父を罵る者があれば、鉄拳を持ってその蒙を開かせよ!』


 再び、ストラーダ侯が映った。


『陛下と我らは無事である。ゴルドアン領軍の兵達よ! 知らなかったとは言え、そなた達は、陛下に対し奉り弓を引いているのだ。直ちに投降せよ。前非を悔いた者には、陛下より寛大なお慈悲がある。直ちに投降せよ!』


 私は、回りを見た。


「たっ、隊長! おっ、オラ達は、王様に弓を引いているだか?」

「すっ、すまん。クラウス、私にもわからない」

「わからないって、はあ。王様が、宰相様を父と言ってただ。殺そうとした人をそんな風に呼ぶはずないだ」


 クラウスの言うことは正しい。

 我々は騙されたのだ。

 誰に? 家宰様? いや子爵様にか……。


「どうなるだ。オラ達反逆者だか。殺される、殺されるだか」

「おっ、落ち着け。我々は騙されたのだ! 国王陛下に弓引くなど、天地がひっくり返ってもありはしない。」


「じゃ、じゃあ、これから。これからどうするだか」

「投降する!」

「投降?!」

「それに、さっき宰相閣下はおっしゃった。お慈悲はあると。王宮へ行って、今度こそ陛下を護るぞ!」


     ◇


「何、あれ? なんなの?」

 アンに問いただす。


 騒ぎとなった後、隠れ家の屋根に登って見た物は、空に映る巨大な顔だった。今では金の獅子、王家の紋章に変わっているが。


「エマ様。私達が、据え付けた物の成果に決まってるじゃないですか」

 事も無げに言った。


 よーく見ると、私達がさっき言った、カテドラル教会の方から、光の筋がうっすら伸びている。


「あの箱から、光を出して空に?」

「そうですね。我々の他にも数カ所からの箱を据え付けています。

「えっ?」

 むう。他でもやっていたのか。


「それら箱には大きな銀水晶が入っていて、そこから空に漂っている微粒子に当たって跳ね返って見えると言うわけです」

「それって、もしかして、あの亜竜が撒いていたの? どうしてそんなこと思い付くんだろう」


「ああ、プ、プラネ……なんかとか言う物から思い付いたらしいですよ」

「なんとかって……ふふふ」

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訂正履歴

2025/09/23 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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