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194話 総主教猊下

 聖都ラメッタの朝は早い。

 6時に、強烈な鐘の音に起こされた。

 眠り足りないが、もう寝られる気がしない。


 夜這い来た方には丁重にお帰り戴き、表沙汰になることはなかった。そこから考えることも有ったし、しっかり寝てない。


 7時には、一般の巡礼者に混じって礼拝に参加させられるし。踏んだり蹴ったりだ。


一応、精霊教信者と言うことになっているが、それはアレックスだしな。俺はそもそも精霊様とやらは信じてないし、昨夜のあれが有ればなあ。


 その後、言ってはなんだが不味い朝食を摂った。

 質素でも旨い食事はそれなりにできると思うのだが。


 10時。ようやく総主教の面談が実現した。

 白い漆喰塗りの談話室に呼ばれたのは、俺1人だ。


 総白髪で白い髭と続いている。在位2年と聞いたが、年齢は結構行っているな。


 案内してきた、司祭が下がったので、跪礼する。

 表向き魔人はへりくだらないが、まあ良いだろう。


「サーペント卿、掛けられよ!」

「はっ!」


 簡素な布張りのソファに腰掛ける。

 ギシ……。


「ははは。そろそろ、それも直さないといかんな。それはともかく、遠路はるばるお越し頂き感謝する。馬車に揺られて大変であったろう」

「ああ、いえ」

 実際は、乗ってませんでしたとか、言いづらい。


「ふむ。予め聞いてはいたが、やはりお若いの」

「17歳に成りました」


 なんだろう。

 とても話しやすい。なんだか親戚の人みたいだ。

 ほわっとした笑顔だろうか。


「そうか、17歳でいらっしゃるか。では、こちらの食事は辛かろう。私もドルーシャの生まれでな。教会の食事はなかなか慣れなかった。正直旨くないし、量もな。ははは、よろしければ、院外に食事処が有ると聞くゆえ、行かれるとよろしかろう」


「あの……」

「おっと、いかんいかん。つい話し込んでしまってな、いつも司祭にも叱られるのだ。それで、何か?」

「ああ、総主教カイウス猊下に、我が国王と宰相より親書を預かっております。お受け取り下さい」

 魔収納から取り出して渡す。


 猊下はふむと呟いて、封蝋をちぎって、便箋を取り出す。2通共目を通した。

「特段、アレックス卿へ回答すべき事項はないようなので、後程しかと読ませて戴こう」

「はっ!」


「では、本題に移らせて戴こう。貴国ルーデシアと、大内海を挟んだディグラント帝国の話だ」

「はあ……」

 まあ外交問題なら、それだよな。


「教会としては、両国の和平をお願いしたい……」

 ズバッと来たな。


「……分かって居る、攻めてくるのはディグラント! そう言いたいのであろう」

「いかにも。我がルーデシアは、もとより和平を望んでおります」


「無論、教会としても彼の地の司教を通じて、和平に努めるよう要請して居る。が、芳しくはない。フランツ殿にも困ったものだ」

 フランツ3世。ディグラント皇帝だ。


「猊下。いずれにしても国と国の和平の件、外交官にあらざる我の手には余ります」

「そうかの?」

「そのご要請は、それぞれの元首に伝えられるべきであるかと。お委ね戴ければ、我が王には親書を持ち帰ります」


「うむ。もっともではあるが、そのようなことはミケーレに申し付ければ良いこと……」

 その通りだ、俺もそう思う。ならば、なぜ俺を呼んだのか?


「……我が教会の教義には、不殺の戒律があります」

「存じ上げています」

「アレックス卿は、ディグラント軍を撃退されましたな」


 そう。

 俺は、その時にディグラント人あるいはハークレイズ人を、少なくとも数十人殺した。

 それを恥じることも、省みることもないが。


「はい。何十人かを死に追いやりました。言い訳は致しません」


「貴国には貴族制度があり、アレックス卿を含む貴族には、侵略者から国土と国民を護る義務があるとか」

しかり!」


「貴族制度は、教会として古より容認しております。故にその義務と戒律に相反することもあるでしょう。要は努めることが精霊様の意に適うと存じます」


「はあ」

「我が教会も、調査組織があります。それに拠れば……アレックス卿の力を持ってすれば、全てのディグラント船団を撃沈できた。でも、そうはされなかった!」


 ふむ。


「……そのように聞いています。出来得れば、そのご配慮を続けて戴きたい。考えたくはありませんが、次の戦役に於かれても」


「同意致しかねる。前回は、偶々ああなっただけのこと」

「そうは思えませぬ。が、魔人の立場としては、そうお答えなさるが至当なのやも知れませぬが……しかし、祈らずには居られません」


 斉竜には安寧を壊さぬと言い、人間の代表にはにべもない返事か。


「御用向きは以上でありましょうか?」

「まだありまする。精霊教会総主教として申す。月満ちる明後日。アレックス卿には、聖王に謁見を差し許す。それを後日国内外に宣する」

 口調と共に、目付きが鋭くなった。


「つまり、我は精霊教会が認めた者。その者が護る国へ攻め入るは、賊軍という名分を与え給うと」

「その通り、それで両国の諍いが治まれば、重畳」

 そうだな。ただの名分で紛争が収まるほど甘くはないが。


「我が国にとっては願ってもないこと。お請け致す」

「そうですか」

「ただし、謁見には、連れてきて居る妻達も同席させて戴きたい」

「ふーーむ。即答致しかねるが、至極もっとも。聖王付きと調整致す」


 カイウス猊下の表情が戻った。

 数歩歩んで、壁に垂れた綱を引っ張った。すぐさま扉が開く。


「お呼びでしょうか」

「うむ。アレックス卿がお帰りだ。そうだな。教会外に宿を取って差し上げろ。明後日まで逗留される」


「畏まりました」

「では。アレックス卿、よろしく」

「失礼致す」


     ◇


 教会内の部屋を引き払い、市街に宿を取った。


「ふう。やはり普通の宿の方が落ち着きますね。昨日の部屋は、清潔でしたが殺風景ですし、ベッドも堅いですし」


 確かにな。

 精霊教会は、清貧を貫いているようだ。それだけでも悪くない教団とは思える。


「アンでもそうなの?」

「奥様、アンでも(・・)というのはどういうことでしょう? 何か私が酷く鈍いように仰っているように感じますが」


「気にしすぎだわ。レダはどう?」

「私は、余り気になりません」

 レダらしい。


「ああ、そんなことより。夕食は外で取ろう」


「ああ、アレク様。お店選びは、私にお任せ下さい。おいしい店の情報を入手しております」

「なんだ、アンの偵察ってそう言うこと?」

「奥様!」

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訂正履歴

2025/09/21 カーテシーの表記削除 (コペルHSさん ありがとうございます)

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