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191話 巡礼出立

 楽しい時間は瞬く間に過ぎ、1月4日には王都に戻り、6日には初登庁した。


 そして今日は9日。

 ラメッタ巡礼へ出発だ。

 王都転移門に着いて、御者を務めたゾフィが見送ってくれているので呼び寄せる。


「アレク様、なんでしょう?」

 なぜか近くに寄ったゾフィの顔が少し紅い。


「うむ。俺が不在の時のことは、ランゼ先生に頼んである」

「はい。ですが、何かご心配なことでも?」

「実はな。王都の世情は芳しくないのだ」

「真ですか?」

「声が大きいぞ」

「申し訳ありません」

 表情が締まった。


「いやいい。だが緊急の場合は、先生と、テレサの言うことを良く聞くのだ」

「はっ、はい」

 四角四面に応えた。


「うむ。それでだ、館や物はどうでも良い。人間を護れ。わかったな」

「人間……分かりました!」

「うむ。では、行ってくる」

「行ってらっしゃいませ!」

 ゾフィは、俺に略礼した後、同行者に手を振った。


 転移門を通り抜けると、アメニアと書かれた看板が掛かっている。

 隣国フロンク王国と接する、国境の町だ。


 玄関を出ると、土作りの建物が多く並ぶ、狭い街並が広がっている。

 その向こう……200m位先に城壁が見える。

 小さい町だが、城壁は物々しい。流石は国境だ。

 歩哨がその上を歩いている。装備が警備隊では無いが。


 それに気が付いたのか、アンが寄ってきた。

「ああ、あの向こうには陸軍の駐屯地があります」

「ふむ」


「アレク様、手配した、馬車が参りました」

 アンは、そちらに小走りで寄っていく。


「2人ともよく働きますね」

「そうだな。ああ。ユリ、パスタが食べたいんだけど。久しぶりにユリの作る、ナスと挽肉のやつ」

「はあ……。では、宿に着きましたら、アンと買い出しに参りましょうか」


 馬車が回って来て前に止まった。


「あらっ!」

「エピメテウス。ご苦労!」

 彼は片手を手綱から離し、笑顔で略礼した。後ろに控えていたレダが、すっと回り込んで扉を開けてくれたので乗り込む。


 ユリがにっこりと俺に笑いかける。

「あなた、先にエピメテウスを遣わしていたのですね!?」

「ああ」


 まもなく馬車は、走り出して城壁を抜ける。


 外に出て行く俺達には、ほとんど待ち時間は無かったが、外には入城者の長い列ができている。領土の境としての国境線はまだ先だが、実質的な国境はここと言える。

 街道沿いに、



 それはともかく、この馬車は良く揺れる。

 幹線道路とは言え路盤も荒れているし、こいつは多少高級ではあるが、普通の馬車だから、致し方ない。王都で使っている馬車は、魔道具を使って振動を抑制している。それを持ってくる手もあるが、目立ちすぎるしな。それに、どのみち……。


「そろそろいいか……」

 客車キャビンのカーテンを全て閉めて、魔道具を取り出す。


「綱……ですか? あなた。輪になってますが、何に使われるのでしょう?」

「これはな、足下にこうやって広げて」


─ 小宇宙(コスモ) ─


 床に敷かれた絨毯の色が、綱が作った輪の中が銀色に光り始め、閉区画が波打った。


「あっ、ああ。あれですか!」


 そう、亜空間内に進入可能な閉空間を作り出す魔法だ。


「なるほど。御者が彼だったのはそういうことだったのですね。では、お先に!」

 レダは、そこに脚から墜ちていく。


「私は残ります」

「そうか。頼むぞ、アン! じゃあ、ユリ行くぞ!」

 はいと、ユリが俺に抱き付いた。相変わらず甘く良い匂いがする。


 空を飛んだ時のようにゆっくりと床に降りる。


「まあ、あの部屋と同じなのですね」

「家具は違うが、館の居間と同じ配置にしてある」

 天井は無いが壁は一応ある

 ソファに座ると落ち着く。


「ここが、居間ということは!」

 ユリが小走りで出て行き、そして20秒程で戻ってきた。

 凄く良い笑顔だ


「あなた。厨房も造って戴いてたんですね。うれしいです。乾麺や他の材料もあったので早速お昼を作ります」


 そう。隣の隣の部屋は、厨房を同じように造ってある。

「悪いな。エピメテウス以外の4人前で良いからな」

「はっ、はあ……?」


 昼食のメニューは、パスタだった。


     ◇


 1日目の夜、一応宿を取った。偽装のためだが。


「ねえ、あなた……」

「ああ」

「エピメテウスにばかり御者をやらせるのはいかがかと。それに前から思っていましたが、彼に食事を与えないのは、なぜなんでしょうか?」


「ん……」

 ユリは、俺のミストレスとしたので、メイドは辞めて趣味で料理している立場に変わったが……。

 対面のソファで寛ぐレダの方を向くと、すばやく目を逸らした。


「私から話しておきますと、言っていなかったか? レダ」

「あっ、ああ。すみません。全くお気付きにならないので、少し面白くなりまして……」


「はあ……。ユリ。済まない。エピメテウスは……プロメテウスもだが。人間では無いんだ」

「はい?」


 俺は魔収納から、プロメテウスを取り出した。

 床に直立させる。


「きゃっ! …………あっ、あれ? エピ……じゃない。プロメテウス? あなたもアンの隠遁の技が……動かないわ?」

 ユリが驚いて少し混乱している。現れたプロメテウスは瞑目したまま直立し、微動だにしない。


「いや、魔収納から出したんだ」

「出した? 人間じゃない?」

 繋がってきたようだ。


「じゃあ、動かすぞ。21号起動!」

 目を開けて数度瞬きし、周囲を見回す。


「こんばんは。アレックス様、ユリーシャ奥様、レダ様」

「うん。おはよう。ああ、ユリ。こいつはこんな見た目だが、ゴーレムだ」

「ゴーレム? こっ、こんなに人間らしいのに」

 ユリは、驚いて目を丸くした。


「ああ、プロメテウスが21号、エピメテウスが22号だ。ダイダロス……ダイクから、譲って貰ったんだ」


 3日間の行程だったが、亜空間魔法の疑似部屋で過ごし、客車で乗っている時間はなかった。エピメテウスのお陰で、快適な3日間だったな。

 時々アンが、客車や御者台に行ったりしていたが、基本はエピメテウスが運転し続けたのだった。

次回の投稿は、8月20日を予定しています。

少し間が開きますが、よろしくお願い致します。


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