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190話 血脈


 1月1日朝。


 参賀の式典に向けて、城の前へ民衆が詰めかけた。

 復活祭と同じように親父さんや一族が応じて、スピーチをしたのだが。俺は参加しなかった。ユリをミストレスとして紹介したかったが、そうもいかない。


 俺が公式の場に出れば、魔人の政治利用に当たる可能性が有るからな。

 こちら側から参加する分には問題が無いらしいが、セルレアンの地方政府が罰せられなくとも、迷惑を掛けそうだからな。


 城には、貴人や有力者の年始客も多く来て俺を訪ねたが、基本的には遠慮させて貰った。

 2日は、天気も良かったので変装して、カレンやユリと街へ繰り出した。


 1月3日。


 明日、侯爵の館で宴があるので、カレンが予定通り先に王都に帰っていった。

 まあ、俺も出席するのだが。


 転移門に見送りに行って帰って来ると、玄関にアンが立っていた。


「アレク様。伯爵様……お館様がお話があるとのことで、御先代様の執務室までお越し戴きたいと」

「……わかった」


 セルビエンテ城の主殿。庭に面した1階にある部屋。今はほとんど使われることのない爺さんの元執務室に足を運ぶ。

 なかなか良い立地なのに、親孝行の親父さんが遠慮して、リフォームとかすることもなく、そのまま使わずに残しているのだ。


「アレックス、参りました」

「おお、御苦労」


 親父さんと、爺様がソファに座っている。

 家令のシュナイダーは、親父さんの後ろに立ち、微笑みながらこちらへ略礼した。


 この部屋は、庭に面した掃き出し窓から射す日で暖かい。

 使っては居ないが、綺麗に掃除が行き届いている。


「そこに座りなさい」

「はっ」

 親父さんの対面、爺様の左隣に腰掛ける。

 

「アレックス殿」

「お爺様。何でしょう?」


「うむ。何と言ったか、シュナイダーの娘……」

「テレサ殿です」

「おお、そうじゃ。そのテレサを、そなたの家の家令にしたそうだが、いかがだ?」


 いやいや。その父親が居るのに批評させる気か……。

 少しいたずらっぽく笑っている。

 仕方ない。逆に俺を試しても居るのだろうしな。。


「そうですね。家令としてから、まだ月日長くないので、しかとは申せませんが。かなり好奇心が強いようですね。なかなかに気が回り、取りこぼしが少ないように思えます。後は主人へも、しっかりと意見を言える所は良いかと存じます。本人は、マルズを家令とするまでの繋ぎと考えているようですが」


「マルズ? ああ、一昨年亡くなったワルターの子か……それはともかく、テレサは家令としてなかなかに使えると言うことか」

「はい!」


 分かりづらいが、シュナイダーは眼を細めた。


「使えるという意味では、テレサ殿の娘リーザが、なかなかに将来有望かと」

「ほう」

 爺様が、シュナイダーを見た。


「どうか?」

「はは。孫は可愛いものですが、流石に今のところはなんとも」


「ふーーん。アレックス!」

「はい」

「手を出すでないぞ」

 おい!


「はっ、自重致します」

「ふふふ、まあ。手を出したとしても、我が孫はそつがないからな。嫁候補とミストレスの仲が良さそうで何よりだな」

 ぐっ。年越しの宴の件だ。嫌味か。


「おかげさまで」

 とぼける。


「ハーケン女史の従妹とも、懇ろなのだろう?」

 むう……爺様は、俺を糾弾する気か?


「まあ、父上……」

 親父さん? いつもありがとう。助かる。


「ガイウス。何も儂は咎めている訳ではない。真面目にどうやっているか訊きたかっただけだぞ」

「はあ……」

「何しろ、我らは1人の妻しか持たぬゆえな、分からぬことも……」

 突然、爺様の深い眼窩の奥が動いた。


 むっ!

 庭に──人の反応が、突如現れた。

 上級の感知魔法を張って居たわけではないが……。

 この俺が気づかないとは、誰だ!


「あぁー。これはこれは、皆様お揃いで! 失礼致します」

 無造作に近付いてきた人影が、大きな窓を開いて入ってきた。


 見知った男──名前は……。


──テセウス!

「テセウス!」


 背が低く、肩幅がある体型。日に焼けた肌のホビットだ。

 細い眼で笑いながら、こちらを向いた。


「へえ。御曹司様。お久しぶりでございます」


 庭師を束ねる。

 とは言え城内でも身分は高くない。

 それが辺境伯が居る部屋に、直接入って来るなど、あり得ない。

 あってはならないことだ。


 しかし、親父さんも、爺様も、そして当然叱責するべきシュナイダーも、どうした訳かテセウスの行動が当たり前のことのように、声を発しない。

 ……そういうことか。


──うん。ひさしぶり!

「……ああ。久しぶりだな」


 うれしそうな、アレックスの言葉をなぞる。

 

──子供の頃、庭で遊んでいたら、よく仕事の手を止めて遊んでくれたんだよ

 ふーーん。


 親父さんが、俺を見る。

「ああ、アレックス殿。彼は……」

「黒衣衆なのですね」

「そうだ」

 おっと、しまった。爺様のあれで、つい親父さんの言を遮ってしまった。


──はあ?


「へえ。黒衣衆の頭を務めております。孫は如何ですかな?」


──うそ……


「アンは、良くやってくれてますよ」


──あっ、あぇ……そういうこと? 本当にテセウスが? で、アンが孫?


 うるさい。その天然をなんとかしろ!

 信じたくない気は分からないこともない。確かに好々爺にしか見えないからな。


「アンだと? 前はセシリアに、付いていた……あの?」

「はい。御館様」


 親父さん似だな……当たり前か。親子だしな


「つまらぬな、アレックス。余り驚いて居らぬな」

 爺様が薄く笑う。


 まあ、日本じゃ、忍者? 間者と言えば、御庭番だ! まんまなんだって。


「未だ、お手が付いて居らぬと言うことは……アンは、お気に召さなかったと……」


「いいや、今のところ、3人も居れば十分だ」

「ほっほ。今のところですか? 御先代が仰るように、いえ、巷の評判通り祖師(初代)様に似て居られますな」


「その辺にしておけ、テセウス」

「はっ!」


 あれ? 爺様少し紅くなってないか?


「うむ。既に、協力を始めて居るようだが、セルレアンの治安維持もさることながら、今後はこの魔人に黒衣衆をできる限り協力させるべきかと考えるが……ガイウスいかがか?」

「元より、そのつもりです。頼むぞ! テセウス!」


「承知致しました」


「父上、お爺様、ありがとうございます。 頼りにして居るぞ」

「はい」


「うむ。まあテセウスとアレックスを、顔合わせをさせるのも目的だったが、もうひとつ! ディグラントはどうなっておる?」


 爺様の言葉に、親父さんも身を乗り出す。


「はっ! 手の者に調べさせたところ。不穏な動きがあります」

「と言うと?」

「はい。2ヶ月前ほど、ディグラント海軍出入りの商人が、塩を大量に購入していたと」


 うーむと親父さんと、爺様が腕を組んだ。


──塩がどうしたの?


「保存食を作らせるためか?」

「さようで」


 また、ウチ(ルーデシア)と一戦交える気か?


「その筋から見て、いつ頃だと思うか?」

「早くて、ここ数週間、遅くとも3月には……」

「ふむ」


「去年の夏、失った軍船を、着々と補っているようだからな」


「ふむ。セルビエンテ、セルレアンの沿岸警備を密にしよう」


 これは旅路が思いやられるな……。


「ああ、魔人様。ラメッタの道すがら。手の者を伏せておきます。お心安く」

「助かる!」


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訂正履歴

2025/09/23 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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