表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/224

188話 異世界の年末

 年の瀬と仕事の会計の締めが重なって、忙しく過ごしていたら、あっという間に年末が近付いてきた。


 普通にしていると、週末にしか会えないということで、カレンが週3日程度、学園が終わるとウチの館に来るようになった。

 時々泊まっていく。


 金曜日の夕食が終わって、その流れで居間にいる。ここにはカレンとその従者のルーシア、それにテレサとメイド一同が居る。なぜかフレイヤとその従者のイーリアも居るがまあ良いか。


「それで、年末はセルビエンテに行くとして、カレンも同行するから、皆もそのつもりでな」

「はい」

 カレン主従が、ユリに会釈する。


 テレサ親子が亡くなった夫の実家に行く以外は、皆セルビエンテに行く予定だ。

 

「それでだ。年が明けたら、ラメッタへ巡礼で行くことになった」

「ラメッタ!!」

「ラメッタ?」


 ロキシーだけきょとんとして、アンやゾフィの方をキョロキョロ見ている。


「ああ、ロキシー。東にある国の中にある精霊教会の聖都だ。まあ、でっかい町だな」

「王都より大っきい?」

「うーん、どうだろう。俺も行ったことがないからな」

 ふーんと言った顔だ。


「そこに行くの? お仕事?」

「ああ、仕事だ」


 ロキシーは不安そうな面持ちだったが、俺の返事を聞いて悲しそうな顔に変わった。

 仕事という言葉は、ロキシーの1番嫌いな言葉らしい。仕事と言われたら、俺に付いて行けないとからだ。アンやゾフィからキツく言われているようだ。


「アレク……明日、帰って来る?」

 ふむ。やっぱり分かっていなかったか。


「ああ、今日も明日も家に居るぞ。ラメッタに行くのは、20日先だ」

「よかったぁ! 20って言われても……ロキシーは10までしか数えられないの」

 良かった。一応20が、数だとは理解しているようだ。


 そう言うと、何だかアホの子ぽいが。100まで数えられない人は、商人でない庶民には成人でも結構居る。初等教育すら行き届いては居ないのだ。


「ロキシーちゃん」

「なあに? リーザ」

「一緒に数えましょう。片手でも31まで数えられるよ!」

「えっ! 本当?」


 心が動いたようだ。俺の方に向き直った。

 肯いてやる。


「うん!! リーザ、一緒に数えよう。どうやるの?」

 リーザが手招きして、壁沿いの方へ歩いていった。気を利かせてくれて助かったな。

 31か。リーザは結構賢いようだ。


「あのう、アレク様。ラメッタ巡礼は、どのような日程になりますでしょうか?」

 おずおずと、カレンが訊いてきた。


「うむ。フロンク王国に入ってから、馬車で3、4日の行程と聞いている」

「そうですか、結構遠いですのね」


 100kmちょっとだ。

 どっちからと言えば、国内の移動距離の方が長いが、そっちは転移門が使えるから、所要時間は、あってないようなものだ。


 そこで、すかさずフレイヤが試算を始めた。

「では、国内移動を考えて、7日間と言うところでしょうか?」

「最低限だと、そうだな」

 それだと、ラメッタに1日しか居ないことになるが。


「うーむ、ご一緒して、アレク様の身の周りのお世話など致したいのですが……学園がございます。申し訳ありません」

 カレンが残念そうに告げた。


「ああ、土産を買ってこよう」

「はい」


 代わりに、フレイヤが身を乗り出す。

「ああ、お兄様。私は大丈夫です。ご一緒できます」


「はあ? 何でだ。お前はカレンと条件が同じだろう」

「ですが」

「ですがじゃない。母上が訊いたら何と言うかな。あんまりゴネると土産を買ってこないぞ」


 みるみる、目に涙が溜まっていく。

 おいおい!


「お兄様のイジワルゥ~~」

 叫びながら部屋を飛び出した。イーリアが恐縮しながら後を追っていった。


「はあぁ。フレイヤさんは、学園にいらっしゃる時と、随分印象が違いますね」

 カレンが驚いているというか唖然としている。


「御館でも、あのようになるのは、アレク様と接している時だけですね」

「そうなのですか? ユリさん!」

 そうなのか。ユリ!


 その週末は、妹の姿を見なかった。きっと部屋に引き籠もったのだろう。


「話を戻すが、ラメッタへは、従者兼秘書のレダ、諜報役のアンと俺の世話でユリを連れていく。皆そのつもりでな」


「「はい」」


「できたー。20! アレクゥー」

 見せに来たロキシーの手は、中指と小指を立てていた。


    ◇


 12月24日。

 当たり前だが、この世界では特に何の記念日でもない。

 夕食後執務室に居ると、ノックがあった。


「何です? あなた」

 ユリが部屋に入ってきた。


「ああ悪いな。忙しいところ」

「うううん。食事の後片付けは、最近来たメイドがやってくれるのよ」


 俺は頷くと椅子から立ち上がり、部屋の真ん中に居るユリに近付く。

 彼女は、何度か瞬いた。


「もっと前に渡したかったんだが」

 魔収納から小箱を取り出す。


「これは?」


 パカッと、箱を開けた。

「指輪……? これを私に?」

「ああ、左手を」


 はいと、ユリは言った通り差し出した。箱から指輪を取り出し、ゆっくりと薬指に填めた。

 ふう。少し緊張した。

 この世界では、アクセサリーとしての指輪は無論あるが、結婚指輪とか婚約指輪を贈る風習は存在しない。無いが、どうしても贈るというか、指輪をやりたかったのだ。


──アレクは、マーキングしたかったんじゃない?! だから……


[うるさいぞ! アレックス]


「綺麗ぇぇ……」

 ユリは、手を色んな方向に向けて、光の反射を眺めている。


「あっ……。ありがとうございます。あなた!」


 かなり嬉しそうだな。だが……。

「ああ、1つ言っておくことがある」


 俺の表情を読んだのだろう。

「……わかりましたわ。カレンさんにも同じ物を?」

「ああ」

 俺はユリの背中に手を回し、抱き締める。


「レダにもな……」

「なっ!」


 躰を離しつつ。

「でも、それは……ユリにだけだ」


 えっ!?

 ユリは俺の視線を辿って、自らの胸元を見た。

「紅玉だ。俺が磨いたんだが、どうかな?」


 右手で、持ち上げて見て居る。

「はぁ、あぅあぁぁ。うれしい。美しい……はずだけど滲んで。赤が濃い、あなたの紅ですわ」

 ユリは大きな眼に、泪を浮かべている。


「よかった!」


 もう一度、抱き締める。

 ユリは、俺を見上げた。

「でも、私。なっ、なんにもあなたに……あげられ……」


 俺とユリの唇の間に、一瞬アーチが架かった。


「……もう貰ってる。沢山な」

「あなた……」


是非是非、ブックマークをお願い致します。

ご評価やご感想(駄目出し歓迎です!)を戴くと、凄く励みになります。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2025/09/23 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ