20話 観閲(前)
「それで、今の状態は何待ちなんですか?先生」
地下魔法練兵場。
直径100m程の円形かつドーム状の天井を持つ空間。
ドーム球場をふた回りぐらい小さくした感じだ。
観客席というより、貴賓席が僅かながらある。
しかも、壁には、なんだかよく分からない、文字?文様?が所狭しと書かれている。あれで物理力や衝撃、魔法も大部分跳ね返すことができるそうだ。魔法の訓練には最適だな。
地下の岩盤を刳り抜いたのも、内部を設えたのも曾祖父さんだ。
つくづく、すげー人なんだなあ。
「先生?」
「来られたぞ」
へえ、先生が、俺の両親以外に敬語を使うのを初めて見た。
視線を辿ると、貴賓席に真っ白いローブを纏った老人が居た。白髪と長い顎髭、そして長い耳が印象的だ。
エルフ?!
誰なんだ?それに、いつの間に。
我に真実の眼を与えん! ─ 魔鑑定 -
…あっ、あれ?完全に弾かれた。放った魔法が無効化された。
いかんいかん、反射的に感知魔法を使ってしまった。
しかし。完全に弾かれるとは、先生級の魔法師か。先に記憶を探るべきだった。
ヴァドー・シュテファニツァ。
我が伯爵領軍の魔法師軍団の客員教官にして元ルーデシア王国軍魔法大隊司令。現最高顧問。白き魔人の称号を待つ。
年齢不詳で、退役した今でも魔法力は衰えるどころか、一層先鋭化したとの評判だ。
思い出した…通称ヴァドー師。王国屈指の魔法師だ。旧は平民だったが、戦功により子爵位を賜っている。見た目は純粋なエルフだが、人族が4分の3らしい。
うちの親父さんは、戦士。魔法戦闘は門外漢なので、三顧の礼で招聘したのだった。
それでも、多くの教授を兼任しているそうで、長くとも1ヶ月程度しか滞在されない。
そのヴァドー師が、何をしにここに来たんだろう?普通に考えれば、俺を見に来たのだろうが。
「準備が整ったぞ、アレク!」
先生の声で思考が中断される。
「はいっ!」
「昨日言った通り、今日からは、土人形にも攻撃させるからな」
あの老人を気にしている余裕はないな。
「わかってます。俺の方は?」
「ここならば大丈夫だ、使える魔法は全て使って良いぞ!」
「了解!」
「ではな」
先生が、俺の真上に舞い上がる。そしてローブから腕を出して一閃。
3つの光が、放射状に地へ突き刺さった。
間もなく地中から、むくむくと土人形が現れた。
形からいってオーク。3体。
全体が泥なのでよく分からないが、なにか纏った個体が1体居る。
オークは、7段階ある魔獣階位の第2階位だ。
凶悪さで下から数えて2番目。弱そうに思えるが、単体で一般人を生命の危機に陥らせると言う定義になっている。
先生のことだ、この泥人形を似せた原型と、ほぼ同じ能力を持たせているに違いない。
しかも、3頭。いきなり囲まれてるし、相変わらず意地悪な設定だ。
が、それこそ訓練。
前者の方は手に…あれは巨大な戦斧に長柄のグレイブという薙刀をを持ってる。
俺というと…。
─ ステータス展開 ─
クラス: 魔法師 レベル23
生命力: 455/ 821[455]
体力 : 105/ 202[105]
魔力 : 1214/2010[1300]
素早さ: 135/ 135[-]
精神 : 884/ 884[-]
異常 : 慢性ステータス劣化 中程度 []は異常時上限
過食と連日の訓練で、だいぶ戻っては来ている。異常時上限が2つ消えた。だが、まだ死にかけたダメージが残っている。
「では、始め!」
その声と共に、オーク達が突っ込んできた。
慈しみ深き大母神の加護に依りて! ─ 身体強化 ─
まずは自分を強化。
彼我の距離7mから8m。
やばい。
接近戦は、魔法師が完全に不利だ!
左斜め前のオークがグレイブを前に構え、突進。
囮だ!
最小限の動きで交わす。
そして、後方のオークに…
─ 火炎 ─
焔を鼻面に叩き込む。
初級魔法は瞬間発動できる。流石は元天才。
ただ効果は大したことない、一瞬顔を掠めたが、斧で防ぎやがった。
しかし、奴らの動きが変わる。
魔法師と侮る、迂闊な突進は留まった。
1頭が、やや離れた位置で、腕をこちらに向けている。
ただのオークじゃない?!
魔法師だ!
単体で第3階位…難敵だぞ。しかし、ヤツだけに気を取られる訳にはいかん。
別の1頭が、オークメイジと対角に回り込んできた。
挟み撃ちにする気だな。
させるか!
俺は右に駆けた。
詠唱を終えた魔法師は、追尾しつつ炎弾が放った。
直撃コース、当たれば大ダメージ。
─ 風壁 ─
空気の障壁で、炎弾をやや左に受け流す。
狙い通りだ!
ドォム!!
後方から風圧ともに破裂音が来た。
フゴゥォオと醜い声。
感知魔法がオークが1頭戦闘不能になったことを告げて来る。
その時、俺は強い視線が背中に突き刺さるのを感じた。
見下ろす老人のものだ。
睨み返したかったが、今はそれどころじゃない
◇
ふむ。
貴賓席で見ていた、ヴァドーは髭に隠れた口角を上げた。
天才!
そういう触れ込みは良く聞く。
が、真実だった例しは皆無だ。
この少年も、その名に値するとは思えない。
だが、一瞬の煌めきがあった。
勘が良い!
炎弾をまともに受けなかった。
受けきっていたら、その後に背後の敵に襲われ、戦闘不能に陥されていたであろう。
しかも、計ったように後方にオークに当てるように受け流すとは、なかなか機知が有ると見える。
◇
先生の魔法制御だけあって、このオーク達は良く訓練されているようだ。
理路整然とした戦闘パターンがある。
まあ、どうせ、これでも俺のレベルに合わせて調整しているに違いないが。
そして、今が好機だ!
この魔術師は大した魔力を持っていない。さっきのが渾身の魔法だったのだろう。それが証に行使後硬直から抜け出せてない。それを護らんと回り込んだ通常種を狙う。
何だろう、血が沸き立つ心持ちだ。
身体強化の副作用──
ならば、俺の方はそう長くは持たん。
一気に行くぞ!
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訂正履歴
2016/04/30 題目を微妙に変更
 




