2話 プロローグ (中) 他人の身体を乗っ取った?!
強烈な偏頭痛と共に、多くの情報が頭に流れ込んでくる。
16歳。
ルーデシア王国の辺境伯の嫡男。
それが俺?
嘘だ!嘘だろう。
そう自問する意識と、妙に当たり前と思う意識がぐるぐると綯い交ぜになって、心拍数が上がってる。
いやいやいや。
伯爵って?!
ルーデシア王国ってどこだよ。
そんな国有ったか?知らないぞ!
えっ?
偏頭痛と共に、そこが西方世界と呼ばれているところにある国らしいことを思い出した。酷く適当な地図が思い浮かぶ。
うぅぅぅ………。
俺が唸ると、唇に冷たい物が当たった。
濡れてる。
スポンジみたいな海綿に水を含ませて、それで拭ってくれてる。
海綿を摘まむ手指は、少し荒れてる。
視線で腕を辿ると、白色エプロン姿。眼が合うと、とても嬉しそうに微笑んだ。
可愛い。
花のようだ。
やや赤味掛かった長い金髪を、緩やかに束ねている。
首から肩華奢な身体も年相応で…同い年だが…でも胸と腰回りは、結構ありそうな気もする。
痛みと引き替えに彼女のことが分かる。
ユリーシャ。
俺付きのメイド。
6年前にうちに来て、一緒に育ってきたんだ。
にっこりと笑うと、水差しで口に水を入れてくれた。舌が動かせるようになる。
しかし、口の中が粘付いていたので、これは飲みたくないなぁ。
そう思っていると、すっと洗面器が差し出された。
結構感動しながら、口を濯ぎ、そこに吐き出した。
よく分かっているな、この子。介護慣れしてるのか?
再度水差しで含ませてくれたので、今度は飲む。喉も楽になった。それを察したのか、すっと手が離れた。
「あっ、あぁぁぁあ」
「何です、アレク様」
周りが騒がしいので、聞こえづらいのだろう。顔を俺に寄せてきた。
柔らかな塊が俺の肩に当たるのが快い。
本当に可愛いな。それに良い香りが…が、今はそれどころじゃない。
「鏡を……」
ユリは…俺はこの少女をそう呼ぶらしい…振り返ると手鏡を取って俺の顔を見せてくれた。
こっ、これが俺?
金髪は想像付いた。
だが…。
なんだ。このハンサム!!
痩せて頬が痩けているが、一言で言えば美形だ。全体的には、親父さんに似てる。造作はおふくろさん似で、やや細目の眉に、大きくも鋭い眼、鼻もシュッと高くて…なんだか中性的な顔立ちだ。
うーーーむ。
認めよう!二枚目だ!
だが、方向性が良くない!俺は男らしい顔が好きなんだ。
その点、俺の本当の顔は!
本当の顔は?
……あれ?思い出せない。こんな麗しくは無かったことだけは確かだが。
顔だけじゃ無い!
名前すら思い出せない。
アレックスじゃない。本当の名前だ。
日本人で、24歳で。
つい、こないだ就職したのは憶えて居るけど。
自分の名前が全然出てこない。
あっ。あああ。
そういえば、あまりの驚きで忘れて居たが。
俺は、このアレックスってやつの身体を乗っ取ったってことだよな。
俺は、俺は………なんてことを。
いや!俺の所為じゃないぞ。
だって、俺は死んだだけなんだ。多分事故で!
気が付いたら、この身体に居たんだ。乗っ取るつもりなんて、全くなかったんだ。
「どうした?アレックス!どこか苦しいのか?」
まっ、まずい!
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訂正履歴
2016/03/27 ユリとのやりとりを書き増し。