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183話 卒園式

 魔人になってから2週間。

 今日は、王立パレス高等学園の卒園式だ。元々卒園予定だった3年生達と合同で、俺も卒園することになっている。


 開始5分前となったので、会場の大講堂に入って自分の席に着く。演台正面の、特等席だ。


「ふん。アレックス卿と一緒に卒園することになるとはな」

 

 少し離れた隣の席から、声が飛んできた。声の主は、卒業生総代のエリーカだ。


「これは、エリーカ殿。ご機嫌麗しゅう」

 その向こうでパトリシアが、申し訳なさそうに会釈する。


「ふむ。なんだか偉そうな口調ではないか」

「お嬢様。魔人様ですから、それでよろしいのです」

「ふん。あかき魔人だったな」


 ヴァドー師が白き魔人。先生は黒き魔女。

 それで、俺の称号はどうやら色つながりで、エリーカの言った通りになりそうだ。


 先日のアンテルス辺境伯領での一件が、報道されていると言うのが大きいだろう。ヒュージ・ドゥードル(蟻地獄)を斃したときに、真っ昼間に空が紅に染まったと書かれたからだ。軍事費横領のことは明らかにされていないが。

 あとはマセリ・スカーレットからという説もある。


─ 結界フラグマ ─


「確かに、俺の性には合いませんね」

「遮音結界か。こういう使い方もあるのか、今度教えて欲しいものだ……」

 そう土属性魔法の周波数と位相を変えると、風属性に変えられる。電磁波は通すが、音波は遮蔽できる。遍照金剛魔法を分析する過程で分かったことだ。


「ではなかった……アレックス卿! 大体卑怯ではないか、3年通うところを、1年足らずで済ますとか。それ以前に最近は欠席ばかりだと聞くぞ」


 ふーむ。これは、単なる揶揄なのか、本気で思っているかわからないな。

「そうですか? 学園生活は結構楽しかったから、私としては少し残念ですが」 


「幸せなヤツだな。羨ましい限りだ」


「まあまあ、お嬢様。いくら淋しいからと言ってアレックス卿に当たらないで下さい」

「淋しくはないぞ。これからも会いに行くからな。

「では魔人様をヤツ呼ばわりをするのは、いかがかなものかと」

「ヤツ呼ばわり出来る特権を自ら手放してどうする。もちろん、人目があるところではしないぞ」

 いや、ここも十分人目があるけどね。


「はあ……申し訳ありません。アレク様」

「パトリシア。お前こそ、愛称で呼ぶとは」

「あら。皆さん、そう呼んでいらっしゃいますよ」

「ふん」


「ああ、そういえば。姫様にお目に掛かりたいという、商人が居りまして」

「……商人か。余り好かんが、我が部族の恩人の頼みだ。無碍にもできん」

「御館に伺わせますか?」

「いや。来週末に王宮へ参内するのでな。その時、宰相府へ寄らせて貰うというとのはどうだ? 時刻は、パトリシアに」

「こちらは、レダに調整させます」

 うむと肯いてにっこりと笑った。

 憎めない人だ。


 職員が回ってきたので、結界を解除した。

 式が始まるようだ。


 学園長が登壇する。拡声魔道器が機能し始めた。


「3年生の皆さん。卒園おめでとう」

 えーと、俺とレダは?


「皆さんが入学した3年前のことが、昨日のように思えます。いろいろなことが思い出されますが、長くなるので止めておきましょう」


 くすくすと笑い声が上がる。


「社会に出る人、さらに上の学校に行く人、故郷に帰る人。様々な進路に進まれることを聞いています。月並みな言葉になりますが、卒園されても、この学園でできた友達、仲間は大切にして下さい。先日この学園で、古い仲間……いえ友に久々に会いました。若い時の友は、歳を幾つ取ってもその時に連れて行ってくれますから。良い物ですよ」


 ん?

 この間……会ったって言っていたよな。ランゼ先生。


「さて、今日卒園されるのは、3年生の皆さんだけではありません。先頃魔人と成られたアレックス伯爵とその従者レダ・ハーケンさんも卒園されます。この学園には1年しか通うことができませんでしたが。この学園から2人目の魔人を輩出することができました。ご本人にとってもそうだと思いますが、学園としても大変名誉なことです。伯爵を支えて下さったレダさんと仲間の皆さんに改めて感謝します」


 絶対俺に含むところがあるよな、学園長。

 と言うのも、魔人認定が本決まりになってから、呼び出されて学園へ来た時、学園長は、えらく不機嫌だった。

 宰相府から教育省を通じて、俺を卒園させるべきとの提案いう名のゴリ押しが届いたからだ。だった。


 1年で卒園? 学園を舐めるな!

 そう息巻かれたのだが。学園が卒園を認めないならどうすると言われ。

『中退するしかないでしょうねえ。何かあったら王立科学院の院長のサーベイヤ卿が面倒見ると仰ってましたし』

 と答えた。

 適当に論文を書いたら、学位をくれる位はありそうだとまでは言わなかったが。


 前者を聞いた学園長は。

『ご本人も、諦めている様子ですし、抵抗しても無意味ですから認めましょう。ただし!』

 折れてくれた……。

 その場に居ないヴァドー師とストラーダ候へ、教育上記録できない呪詛の言葉を、10分余り吐いた後だが。


「在校生送辞! 自治生徒会会長フレイヤ・サーペント殿」


 おっ。フレイヤが壇上に上がってきた。


「諸先輩方。ご卒園おめでとうございます。我々在校生を先生、教官の方々と共に育んで戴き、感謝に堪えません。皆様方が、この学園を去られるのは、とても淋しい気持ちで一杯です」

 いや、そうかもしれないが。こっちを凝視するなよ。


 土曜の夜に、急に卒園することになったと、フレイヤへ告げたときの落ち込み様は半端なかったからな。

 終わったぁ、全て終わったぁと呟きながら、日曜日中部屋に籠もって、一歩も出なかったらしいしな。とは言え、兄離れが少しは繰り上がって、フレイヤにとっても良いことに違いない。


「皆様の将来が輝かしい物になるよう祈念し、送辞の言葉に致します」


「魔人殿、妹御がそなたをずっと睨んでいるぞ。うっふふふ……」

 もちろん、分かってますよ。痛いほど。


「お嬢様。出番にございます」

「おっと、そうだった」


「卒園生答辞。代表エリーカ・ランデルヌ殿」

 司会に応じて、エリーカ様が登壇した。


「フレイヤ殿。送辞をありがとう。卒園生を代表して、学園長初め先生方、教官の皆様。心より感謝を捧げます。本当にありがとうございます」


 あれ? 無難な挨拶だな。


「私が入園して3年間。思い返せば、楽しかったこと、そして嬉しかった思い出ばかりです。もちろん、苦しく辛い思いをした人が居ないことはないでしょうけれども、これだけは言えます。我々は、王立パレス高等学園で過ごし、学んだことが誇りだと言うことです。これを糧として、今後も母校の栄光を支えていくことを誓って答辞と致します」


 拍手が起こった。無論俺もしている。

 何より短いのが良いな。


「さて……」

 ん? さて?

 答辞は終わっていないのか?


「予定にはないが、皆の望みを叶えよう」

 なぜ、こっちを見る?


「魔人アレックス閣下。貴公も答辞を述べて欲しい」


 キャーーー……

 大講堂に、黄色い絶叫が充満した。一瞬有って、大拍手が巻き起こる。


 俺は無理無理と手を振りながら返してみたが、拍手が収まらない。

 壇上に居たエリーカが、してやったりとほくそ笑みながら降りてきた。

 学園長は、軽く首を振った後、俺を見ながら演台を手で指した。


 やれやれ。またかよ。俺に無茶振りするのは流行か?

 まあいい。俺にも言いたいことがないわけでは無い。

 立ち上がり、エリーカ様とすれ違って壇上へ登る。

 拍手は最高潮となったが、俺が腕を掲げるとようやく静まってくれた。


「まずは、諸先生方、同じく教官の方々、卒園生在校生の皆さんには、深く感謝したい。以後は、答辞ではなく、魔人として挨拶させて戴こう!」


 ざわついた。


「我が病から脱したのは、この学園に復学したほんの少し前のことだ。復学した頃は魔人になるなど、思いも寄らなかった。勘違いしないで欲しいが、我は特別な人間ではない。つまり、魔法科の誰もが、同じ可能性を持っていることに他ならない」


 流石にシーンとしたな。


「無論魔法師だけではない。卒園生も在校生も、それぞれが専攻する道で、第一人者になれる、そう考えて欲しい。いや、考えるだけでは駄目だ! 明確に意識して行動を強めてくれ」


 地鳴りのような声が燻る。


「偉そうに言って済まない。実のところ、我は魔人には成ったが、まだ何も為してはいない。だが、皆を煽った代償として……近い将来、称号に相応しい成果を上げることを誓おう。ああ、もう一つ。我はこの学園を卒園する。が、繋がりが尽きるわけではない。来年より特別教官として再び相見あいまみえよう! 以上だ!」


 一瞬の静寂に続き、歓声が沸騰した。主に大講堂の後方、つまりは在校生の席だ。


     ◇


 特別教官の件は、学園長から卒園させる交換条件(バーター)として提案があったことだ。まあ、必ずしも悪い話では無いと思い、引き受けることにしたのだ。


 それはともかく。1時間弱前、卒園式は滞りなく終了した。

 俺はと言うと、まだ学園に居た。

 1年間使っていた、この私室は引き払うためだ

 ちなみに、別棟に教官部屋が用意されることになっている。


「アレク様。お待たせしました。お掃除終わりました」

 卒園生は、事前に私物の整理やら引き払う準備をしておくのだが、忙しさにかまけて今日になってしまったのだ


「うむ。ありがとう、レダ。では、帰るとするか」

「はい!」

 私室を出て、廊下を車寄せに向かう。


「ん? なんでしょう。あの人集りは?」

 レダがぼそっと告げた。何か予感めいたものがあるが、ウチの馬車はあそこで待っている。寄っていくと、人集りが50人程の女生徒の集団だと分かった。脇からエマが、つっぅとが出てきた。


「「「アレク様。ご卒園おめでとうございます!!」」」


 そこに居る全員が声を揃えた。

 皆、笑顔だ。

「レダちゃんも、おめでとう!」


「俺達を待っていてくれたのか?」

「そうだよね、しばらくアレク様とも会えないし!」

「アレク様、口調が戻ってるよ!」

「魔人なアレク様も格好いいけど」

「やっぱり、私達のアレク様は、こっちだよねぇ!!」


 はははと嬌声が挙がる。


「ありがとうな」

 俺は左胸に掌を当てる。


「そう思ってくれるなら……みんなを抱き締めて!」

 はっ?


「「おねがいしまーーす」」


「……ああ」


「はーーい。じゃあ、みんな並んで並んで、1回だけね」


 次々、頬を赤らめた女生徒をハグしていく。


「終わった人は、そちら側にねえ、2周目禁止!」


 親衛隊が仕切って、サクサク進んだ。


「最後は、私!」

「エマ」

「うん」

「世話になったな!」

「これからもお世話するよ!!」


 そう言ったエマは、飛びついた。


「ああん、エマ! 一人だけ卑怯!!!」

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訂正履歴

2025/09/23 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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