19話 従姉妹と叔父とダメ出し
「しっ、失礼します」
「どうぞ」
ゾフィが3人を案内してきた。
「おお、御曹司。元気そうで何より。見違えたぞ」
「これは、叔父上。わざわざのご挨拶痛み入ります」
おやじさんも、なかなかの偉丈夫だが、グリウス叔父はさらに一回り大きい。腕も俺の脚より太い位だ。矛槍を握らせれば10人力だ。
9年前の戦役では、罠にかかり、囲んできた8人を戦闘不能に追い込んだ。そして数百の兵を半分の味方で打ち破ったという剛の者だ。
しかし、平時は優しい人の良いおっさん…それがアレックスの記憶だ。
いいですね。俺は、こういう人になりてーー。
あの大胸筋からの僧帽筋の盛り上がり。理想だね!
正直、乗っ取るなら、この躯だよ!
ああ、言っておくが、こうなりたいだけで、こういう男が好きというわけではない。
「いやいや。儂も心配だったが、それ以上にイオが来たい来たいと申してな」
「お父様!!」
「そうでしたか。エヴァ姉さん、イオちゃん。お久しぶり」
エヴァ姉さんは、従姉だが2つ年齢が上だからそう呼んでいる。
おお、また美人姉妹だ。確変続行中です!
それにしても、うちの一族は綺麗な女性が多いなあ。
まあ、曾祖父さんは偉人だし、家系も領主だから、美女が嫁に来てくれる確率高いよな。当たり前と言えば当たり前かも知れないが。
3人がソファに座ったところを見計らったのか、ゾフィが部屋を辞していく。
その後ろ姿を、グリウス叔父が長く見送っていた…。
「あら、アレクちゃん。随分元気になったねえ」
”ちゃん”て…まあ従姉なんて、こんな風だ。
たぶん、ずぅーーと、それこそ死ぬまで、この人からはそう呼ばれるんだろう。なんか意地悪そうに笑ってるし。まあ、俺はこの人にとって、おもちゃみたいなものなんだろう。
「ああ。聞いたわよ!アレクちゃん、婚約破棄したんだってね」
「はぁ」
俺は、気にしていないが、叔父さんの目が白黒してる
「あの女、セシル…だっけ?鼻持ちならない、嫌味な女に、純粋だったアレクちゃんが、ころっと引っかかっちぁったなあって、思ってたのよ」
確かに。
どうしてあの女と、仮とは言え婚約したのか。それは謎だった。
最近こうじゃないかと思えるのは、どうせ望まぬ結婚をするなら、最初から仮面夫婦になろうと、アレックスが考えてのことではないだろうか?という仮説だ。まあ流石に殺そうと思ってるとは考えてなかったろうが。
今度、夢で会ったら訊いてみよう。
「おい、エヴァ」
「お父様は、黙っていて!でも、破談になって良かったわよ。あんな女が伯爵夫人になっていたかと思うと虫酸が走るもの…良かったわね、イオ」
見かねた叔父が窘めようとするが、それで止まる人じゃないらしい。
「お姉様、なんてことを…」
「本当のことじゃない」
ふむ。何て言うか。エヴァ姉さんは、中身がおばちゃんだね。
綺麗なんだけど惜しいなあ。
まあ、この人にとって、俺は恋愛の対象ではないし、身内の気安さで素を見せているのだろう。嫌いじゃないけどね。
その点、イオちゃんは愛らしい。
「姉の言ったことは、嘘です。アレク兄様の破談を望んでいた、なんてことはありません」
「ああ、わかってるよ」
「ああ、そんなだから、アレクちゃんは、女に騙されるんだからね」
「エヴァはもうたくさん喋ったろう。イオにも喋らせて上げなさい」
「はあい」
ふて腐れて、エヴァ姉さんは横を向いた。
「でも、アレク兄様が、お元気に成られたと聞いて、イオはとても嬉しかったです」
少し飴色がかった、金髪に目鼻立ちははっきりした美人さんだ。睫がとても長い。ふわっとした頬が年相応でとても可愛いな。
「ありがとうね。イオちゃん」
思わず、頭を撫でてしまった。
なんだかうっとりしてるね、イオちゃん。
エヴァ姉さんの話と、今日の態度を見ていると、どうやら俺のことが好きなようだ。
それぐらいは、鈍い俺でも分かる。
いいよな、ハンサムは。
って、今は俺か。
うーーむ。やっぱり外見にふさわしい、人間性を備えないとなあ。
それには、やはり身体を鍛えないとな。
健全な身体にそ、健全な精神が宿るだ!
やっぱりプロテイン欲しいなぁ。
「アレク兄様…アレク兄様!」
おっと、思考が深く潜りすぎた。
「何かな」
「そんなに、ずっと見られると恥ずかしいです」
おっと、しまった。
なんて返そう?
1.イオちゃんが可愛いからさあ…(叔父さんに悪い)
2.少し考えごとしてた…(イオちゃんに悪い)
3.イオちゃん、誰かに似てるよね…(当たり障りがない)
3だ!
「前から思ってたんだけど、イオちゃんって誰かに似てるなあって」
「ええ?誰ですか?」
乗ってきた乗ってきた。
「あっ!私も知りたい!」
げっ!エヴァ姉さんまで。なんで、このベタな話題に。
「前にも言われたことがあるんです。私にとてもそっくりな人が居たって」
ああ、そうなんですか?
何?この嘘から出た誠状態。
思い出すわけないけど、眉間に皺寄せして考えるフリ。
「そうなんだ?!うーん…ごめんね、はっきりは思い出せない…しっかり考えとくよ」
「お願いします」
「さてさて、おまえ達、父はな、兄上に呼ばれているんだ」
そういえば、ここに来ても良さそうなものだが、親父さん忙しそうなんだよな。
何に忙しいのかな?
「叔父上、やはり例の件ですか」
例の件とか、本当は知らないけど。いわゆるカマ掛けってやつだ。
「そう…」
言いかけてやめ、こっちに身を乗り出して、耳打ちしてきた。
「…今回の密輸団は巧妙でな。兄上も手を焼いておる。今からはその会議だ」
密輸団か。
このセルビエンテは港町だから、そういうのが来ても不思議ではないな。
早く親父さんの仕事を、手伝えるようにしたいものだ。
叔父上は、カマに見事に引っかかったが、俺の話術の効果というよりは、今まで俺が築いた信用が大きいのだろうな。
「…もう1つ叔父上に、少し訊きたいことが」
絶対訊いておきたいことだ!
「何かな?」
「叔父上は、そのたくましさをどうやって、手に入れられたのかと…」
ふむと、自分の下顔をでかい手で掴んだ。
「そうだな…御曹司には悪いが、儂は幼児のときに既に、同じような歳のものより2回り程でかくてな。それは兄上も同じだったが。そのあと隠居した父に言われて、槍の訓練をしていたら、御曹司の歳頃には、おおよそこんな身体になっておった」
「つまり、生まれつきと幼い頃からの鍛錬ということでしょうか?」
叔父は、大きく頷いた。
「多くの兵を鍛えてきた経験から言えば…御曹司はもしかして、厳つい肉体に成りたいとか?」
「はい。できれば叔父上ぐらいに」
「そっ、それは初耳だが…うーむ…」
おっ、性急すぎたか。
「死にかけまして、身体を鍛えたいと思いまして」
「えーー。だめだめ!!!こんな筋肉だるまなんて、駄目よ!アレクちゃんは、このままで居てよ…って真剣みたいね」
エヴァ姉さんが、頭を抱えた。
「お父様。この際だから、はっきり言って上げたら?」
「むう…そうだな。その身体を、儂のようなというのは、そのう…」
「お父様!」
「そうだな」
叔父は居住まいを正した。
「さっき言いかけた、経験から行けば、体質として限界がある。御曹司は、戦士よりは今まで通り魔法師を目指された方が良いと思いまする。無論、その大きさで筋肉質に換えるのはできる。励まれるとよい。ただ御曹司は、いずれ祖父のような偉大な魔法師になってくれると、叔父は信じておりますぞ」
けっこうオブラートに包んでくれたようだが、結局無理!って駄目出しだよな。
「そうだな、見る限り。さっきの、メイドは良かった。あれぐらいだと鍛え甲斐があるな。立ち居振る舞いが戦士向きだ。何か武術をやっていた歩き方だしな」
「お父様は、一言多いわ!」
ゾフィか…確かに筋肉付きそうだよなあ。がっくり。
「…でっ、では。名残惜しいですが、お暇しよう。なあ」
「「はあい」」
「今日は、わざわざお越し戴き、ありがとうございました」
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