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176話 一網打尽

 楽しい時間は、短く感じるというが、その通りになった。1時間も続ければ良い鍛錬になっただろうが仕方ない。


「あそこか」

 頭の上に光点を見付けた。


─ 遷光剛フォトンブレード ─


 両腕の先に光の刃を宿した。身長の倍以上の大顎の如く。

 斃すとなれば、巨大虫ドゥードルとはいえ、嬲るのは本意では無い。

 

 正面から顎ではさみに来た!

 意気やよし──しかし。


 腕を交差、逆袈裟に斬り上げ! 

 光剣が網膜にV字を刻み、二つの顎が落ちる。


 へえ、口は無いんだと思いながら。

 馬手めてを袈裟掛けに一閃!

 そのまま身体を捻り──

 弓手ゆんでを左薙!


 どうと倒れる蟻地獄の上に、どさっと先に首が落ちてきた。

 まだ、顎の付け根がピクピクと動いている。


 もう1匹と思ったら、恐れを成したのか、残った砂に潜っていった。

 2匹で証拠は押さえた、もはや手加減の必要は無い。

 一気に片を付けてやろう。


 眉根に力を込めると、砂の中が見えた。あと6匹いる

 ふん! まさか、そこが安全だなどと?


─ 土槍テランクァー ─


 砂漠に腕を差し出した途端、地中から堅く巨大な棘が屹立!

 けたたましく砂を跳ね上げ!

 王宮の塔を超える高さまで突き上がった。

 陽光に逆らい、禍々しい串刺しの影を地に描く。


「ヒィィ…」


 悲鳴は、その地から生えた棘の先に、今もジタバタと脚を動かし続ける醜悪な姿に怖気たか。

 溢れ出る体液が放つ堪えがたい臭気に怯んだか。


 流石は虫。

 大きくなっても驚くべき生への執着!

 どうやら駆除の詰めが甘いらしい。


「ならば、痕跡残さず滅ぼしてくれよう」


 灰燼と化せ──


 紫炎となりて! 万象を灼き滅ぼせ


─ 焔陣アスピーダ ─


 下級魔法をわざわざ詠唱したのは、7つの対象を同時に狙うがため。

 火球を連射!

 光十字が飛びすさると、俺は見えない反動を受けた。


 何ぃ?


──どうして、こんな!


 自らを疑っている暇はないぞ、アレックス!!


─ 遍照オン金剛バジュラダトバン ─


 魔法波が狙い違わず巨大虫ドゥードルに着弾した刹那──

 体躯を包んで余りある紅蓮の火球が生まれ、瞬く間に昇華!


 恐るべき熱は。

 球の勢い(ベクトル)のまま、ほとんど飛び去る。

 が、体液が千倍に膨張した衝撃波は、そうは行かない。

 人を焼き尽くすに十分な熱波を帯びて、半球状に膨れ上がる。


 もう一歩でここまで──金色の障壁が遮った。

 荒れ狂う気流がぶち当たる、小揺るぎもせず耐え抜く断面!


 数秒の後。

 盛大に蜃気楼を遺しながら、爆風は止んだ。

 飛び去った熱は、地を融かし、吹き上がって空を焦がした。


 紅く。

 血よりも赤く。


 砂漠に刻んだ爪痕は、数百m離れているにも拘わらず輻射熱が届く。


──ボクは、魔力を間違えては居ない。


[ああ、間違えては居なかった]


──うっ、うん。でも。


 呪文も正確に唱えた。しかし、結果は──

 串刺しとなった塊を、消し炭すら残さず燃やし尽くす。 

 それだけの熱に替わるだけの魔界強度を印加したはずだった。


 だが、生まれた熱は、2桁程跳ね上がった。

 ある意味拙い状態だ。検証しないとな。


 呆けていた居た人達が、正気に戻り始める。


「従者殿!」

 悲鳴にも似た副家宰の声が聞こえたので、振り返る。


「アレク様。捕縛しました」

 レダが、男の腕をつかんで後に捻りながら、腹這いとなった相手の背中に膝を当てて押さえ付けていた。そして魔収納から出した縄で手を縛る。


 リンガスが、手を伸ばし掛けて、思い留まる。

「あっ、あのう。捕縛? ザレマが何をしたのでしょう? ああ、いえ。この者は、我が家の軍事顧問でして……」

 副家宰は、余りのことで混乱しているのか。


 男も正気が戻ったのか。

「俺が何をしたというのだ」

 レダは、意に介さず男の懐に腕を突っ込んだ。


「よっ、よせ。やめろ」

 レダは、薄く笑うと腕を引き抜く。男を突き放した手には、魔道具を持っていた。

 銀水晶だ!

 すぐさま映像を再生した。


「我が映っているな」

 俺が、光剣で巨大虫を切り裂いたところがバッチリ撮られている。

 ザレマは、顔を汗だくにしている。


「魔人が魔法を行使している姿は、軍事機密です」

「そっ、それは」


「機密漏洩の最高刑はなんだ?」

「ひっ、ひっっ」

「死刑です、閣下。リンガス殿の左肩が後ろから映っております。つまり、この男が居た場所から映したものに相違ありません」


「オイ! 選ばせてやろう。斬首が良いか? 虫のように串刺しになりたいか?」

「ひっ! いっ、言います……いっ、言わせて下さい」

 ザレマが涙目で懇願する。


「何だ?」

「あっ、あそこに居るクロヴィスと謀って、映像をドートウェルへ売ることに」

「ほう……」


「ザレマ、なっ、何を言うんだ! かっ、閣下。こいつは、死にたくない一心で、でたらめを」

「クロヴィス、貴様! 俺にだけ罪を背負わせる気か」


「ほう。でたらめなのか?」

「本当です」

「信じて貰いたければ、横領のことも、申し上げなさい」

 薄く嗤いながら、レダが囁く。


「おっ、横領?」

 がっつり、ザレマの眼が泳いでいる。

「このままでは、機密漏洩罪であなたの首が飛びますが」


「時間切れだな」

 俺は光剣を発動し、振りかぶる。


「おぉ、お待ちを。やっ、やりました。ドートウェルの調略、軍備費用を、ちゃ……着服しました。ああ、命ばかりはお助け下さい。どうか、どうかぁぁぁああ」


「調略? 国から降りる金だが。領軍のみで、できることではあるまい?」

「クっ、クロヴィスが。やつが主導したんです」

「そうか。国境駐屯軍がな……」


「じょ、冗談じゃない。閣下! 証拠も無しに、そんな犯罪者の言うことを真に受ける気ですか?!」

 国軍の指揮官が激昂した。


「証拠でしたら、こちらにございますが」

 気が付くと、駐屯軍が運んできた荷車の上に、なぜかアンが仁王立ちしていた。

 松明が多く積んであるヤツだ。


「貴様! バ、バカ止めろ!」


 アンは、荷台に手を突っ込むと、大きな冊子を取り出した。パラパラと捲る。


「国費を着服した実績が書かれた裏帳簿ですね。去年の10月馬匹購入数の水増し請求により212万デクス、11月156万デクス……ご覧の通りです、大佐!」


「大佐? けっ、ケネス!」

 駐屯軍の総司令が、いつの間にか姿を現した。

 アンが隠蔽していたのだろう。

 馬の嘶く声も聞こえる。100m程の距離に数十人の兵が近づいて居る。


「もはやこれまで」

 ロコン大尉が持った魔道具が火を噴いて、アンの乗った荷車に向かう。


─ 初凍獄アブダ ─


「うゎ、ちょっと、レダ!」

 レダが放った魔法が荷車の松明を捉え、瞬時に凍結した。

 アンが飛び跳ねて回避する。避けきったアンも見事と言う他はない


「くそっ。駄目か……」

 証拠隠滅を阻まれ、観念したのか、オゥエンはその場に膝を付いて項垂れた。


「魔人アレックス閣下、お手数を掛けました。その者達を捕縛せよ!」


     ◇


「すっ、すると。お館様は、全てご存じだったのですか? 魔人アレックス閣下といさかう雰囲気も……そうなのですか?」


 1時間を掛けてラグンヒルの城に戻った。

 副家宰のリンガスが、辺境伯を問い詰める。


「ははは、リンガス。そのように恨みがましい顔をするでない。大佐も役者だったがな」

「すみませぬ。家宰殿。しかし、アレックス閣下が、光の剣を抜かれた時には、生きた心地が致しませんでしたよ」


「ふふん。それでなければ、彼のクロヴィスを欺けまい。なあ、ケネス殿」

「はい。やつは、裏帳簿をずっと持って移動していましたので、決定打が掴めず困っていたのですが。それだけに、魔人閣下と従者のお二人に感謝致します」

 そう、俺の後には、レダとアンが控えている。


「それにしても御館様が、魔人閣下の父上様の2年後輩とは」

「ああ。ガイウス先輩には、娶せて貰った恩もある。ますます頭が上がらなくなったな。ははは」


 なるほど、こちらの夫人は、親父さんの同級生とは聞いたが。そういうことだったか。待てよ、下手をすれば、ゼノビア教官と結婚していた可能性もあるのか。


──下手をすればっだって! ふふふ。


 それはともかく。

 今回、ここに来たのは親父さんと宰相閣下からの頼みだ。

 黒衣衆──爺さんの諜報部隊を借りる交換条件バーターで。

 背景としては。


 蟻地獄も軍事費着服のネタに使って居たようだ。それ以外にも、あの手この手で、アンテルス辺境伯が養子に入る以前から、不正は続いていたそうだ。


 しかし、それを朧気ながらに認知した辺境伯が、養子という立場からか古くからの家臣に大鉈を揮い難い状況があって、親父さんに相談したようだ。それを親父さんが、黒衣衆に内偵させるのと並行して、宰相閣下に申し出るように諭した。

 それで、領軍軍事費の着服に留まらず、駐屯軍に関わる大掛かりな横領、ドートウェルからの馬匹購入の水増し請求まで発展したと言うわけだ。


 ちなみにケネス大佐だが、ストラーダ閣下が軍政方に手を回して数ヶ月前に送り込まれたそうだ。要するに、閣下は閣下で眼を付けていたのだ。今にして思えば、第1回国防評議会で馬匹購入のことは指摘されていたよな。

 まあ、ドートウェルと取引すること自体は、ある意味敵と通じることになる。必要悪以上の意味もあるが、それを水増しするのは言語道断だ。


 その解決の詰めに、俺が関わったと。

 ふーむ。閣下の掌で絶賛ダンス中という気もするが、悪い気はしない。


 国費の使い込みも軍事費のそこそこを占めていたからな。この実働集団を捕縛できたことは、結果としては良いと言えるだろう。ただし……。


「大佐!」

「はっ!」

「横領した額が額だ……」

 おそらく通算では1億デクスまで行くはずだ。中佐レベルで為せるはずはない。

 この追及が始まれば、陸軍の横柄な態度も少しは収まるだろう。


「……関わっているのは、先程捕縛した者だけではなかろう。王都にいる軍関係者を洗うように」

「承りました」


「さて、魔人様。本日はご夕食を用意したく存じますが」

 リンガスが申し出る。


「うむ。いや、気持ちだけもらいおく。これでも忙しい身でな」

 まあ、それほどでもないが。

 昼食も、そこそこ美味ではあったが。


──ユリのご飯の方が良いんだよねえ。


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2025/09/23 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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