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173話 魔人誕生

 親父さんと連れ立って、城の居住区に戻る。目的はお袋さんへの報告だ。


 談話室の部屋に入ると既に、お袋さんが居た。


「アレクゥ。おめでとうぉぉぉお」

 がっつりと抱き付かれた。

 フレイヤが一緒にいると厳格な母親なのだが、居ないとデレデレになる。


「軍にいじめられたそうね、怪我とかしなかった?」

 美人だし見た目には若いし、密着して悪い気はしないが。

 あくまで母親だ。

 俺にはそう言う趣味はない。


「セシリア、そのぐらいで勘弁してやれ、アレックス殿が困って居るぞ」

「あら、良いではありませんか」


「すみません。母上。すぐ王都に戻りますので」

「なんでよ。さっき来たばかりなのでしょう。そうだ今日は泊まって行きなさい」

「いっ、いえ。明日は、学園に行かないといけませんので」


「ふーーむ。残念だわ。それで、何かアレクは報告があると聞いたけれど。魔人になるとは違う話かしら?」


 ふと、視線で親父さんに助けを求めたが。顎で自分で言えと指示された。


「ええ。まあ関連することです。そのう。大変申し上げにくいことなのですが」

「あら、悪いことなの?」

「それは、受け取り方次第ですが。この11月中旬に、学園を卒園することになりました」

「あら、どなたが?」

 

 うわぁ。言いづらい。

「私です」

 お袋さんはキョトンとしている。美人はどんな表情でも様になるから不思議だ。

「またぁ。アレクは2年生でしょ?」


「そう……なんですが。特例と言うことで、飛び級して卒園することに……」

「んっ、まあ!」


 理解はしたようだが、綺麗な眉が吊り上がる。


「アレクは魔人になるのだから、それはそれは我が国でも屈指の魔法師でしょう。だから実技科目は問題ないけれど。教養科目はどうするの?」


 うっ!

「そうなんですが……」

「お母さんはね。あなたに、お父様のような立派な御領主様になって欲しい

「はっ、はい」


「それには教養は大事なのよ。腕っ節だけでは、武官しか付いてきませんよ。それを1年生もお休みしたし、結局10ヶ月しか学園に通ってないじゃないの」


 ごもっとも。


──教養科目でも平均点以上は取れてると言ったら、上期の終わりに激怒されたよねえ


[ああ。志が低い! ってな]

 まあ親父さんは、文武に秀でているからな。反論できん。


「そこでだ、セシリア!」

 お?

 親父さん、頼むぞ!


「なんですの? あなた」

「教養を身に付けるのと、学園に通うのは同じなようで、実は違う」

「はあ……」

 ん?


「学園に通うとなると、時間の制約を色々受けて駄目だが。なにも教養を身につけるのは、学園に限られるわけじゃない。別に家庭教師を付けるってのはどうだ!」


 げっ、親父ぃぃ!


「流石は、あなた! そうですわ。魔法はランゼ殿としても、なにも家庭教師を1人に限る必要はありませんわね」

 ああ、いや。学園に通いたくないわけではなくて、時間がないからなのだが……。


「そうとなれば、早速人選に掛からないと。ランゼ殿とも相談致しましよう。それが良いわ!」


──ご愁傷様


 俺に拒否権はないようだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 月日は流れ、11月1日。

 今日は魔人認定と、爵位の授与の日だ。

 王宮の内郭の大広間。

 

 大勢の貴族と軍人が集っている。国王の入来待ちだ。

 今日は、親父さんもいるし、親戚になるハイドラ侯、タウンゼント侯とその取り巻きも、談笑している。ここに来るのは3度目だが、1年の内に知り合いも結構増えたなあ。

 さっきは、ストラーダ侯の一族とも話をしたし。

 

 白い軍礼服の一団が入ってきた。ほぼ将官以上の面々だな。

 玉座の横に並んでいく。


 時間か。

 俺と伯爵以上の大貴族は、人の輪から出て広間の前に集まる。

 並ばれた来賓に向かい、略礼をする。


 国王陛下。ご入来──

 俺は、その場に跪く。

 

 ん?

 陛下は、肥満でゆっくり歩くのだが、何だか今日は一段とのろいな。


 ギシッと玉座が音を立てた。

 腰掛けた国王の前に、ストラーダ侯が立っている。巻紙を取り出し広げた。


「アレックス・サーペント!」

「はっ!」

「国王ヨッフェン・スヴァルス4世の名において、魔人と認めるものなり! なんじ、これを容れるならば沈黙をもって答えよ」


 数度の鼓動を閲して、侯は国王を振り返る。

 陛下は、ゆっくりと肯いた。


「新たな魔人誕生す!」


 背後から万雷の拍手が湧き上がった。


 静まるのを待ち、侯は続けた。

「これより、汝は魔人の特権を縦横に活かし、務めに精励されよ」


 魔人の特権は多い。

1.魔人は、国王にのみに仕え、国王が選任した者以外の命令を受けることはない。

2.魔人は、国王以外から魔人認定を解除されない。

3.魔人は、国王以外の者を殺害しても、罪に問われることはない。

4.魔人は、大逆罪既遂を除く容疑で、逮捕、拘禁されない。

5.魔人は、国軍将軍として、師団を独任され、兵を徴発できる。

6.魔人は、国内において、他国軍と戦闘できる。

7.魔人は、如何なる場所へも立ち入ることができる。


 つまり、歴代の魔人はその気になれば、国家転覆すら可能と言われる。これら特権は、そうさせない見返りと言えるだろう。


 しかし、そうだとしても、与えられ過ぎな気がする。

 魔人と認定された者が悪人であれば、法的には国王以外阻む者が居ない。俺が国王なら一番に変えたいが。しかし、誰もこれを革めようとした者が居ない。歴代魔人は、国の守護者だったが。


「言われるまでもなし!」


 宰相に対する返答もこうだ。今のところは。ストラーダ侯は、まだ国王の代行者として選任されていないからな。


「なお、国王ヨッフェン・スヴァルス4世の名において,魔人アレックスに伯爵位を叙すると共に国軍少将に任ずるものなり。代読、宰相ランベスク・ストラーダ」


「承る!」


 俺は、ストラーダ侯の前に歩むと、特に礼も示さず3通の巻紙を受け取る。


 ふーむ。なんでこんなに偉そうなんだ、魔人。


 しかし、これは、俺が驕ったとか天狗になったわけではない。

 いや少しもなっていないかと言われると自信は無いが。それはともかく。これは決められたやりとりであって、台本通りなのだ。

 聞いている、来賓方は勘違いしていないか、少し気掛かりだ。


「陛下、お言葉を」


 おお、巨体が立ち上がった。

 一歩二歩と俺に近付く。

 

 むう。死相──

 先程から違和感を感じていたが、近くに寄ってみるとありありと分かる。

 国王は、死に瀕する間際だ。


 竜化するようになって、俺はそういったことがなんとなく見えるようになった。

 慰問で病人を訪ねることがあるのだが、死期が近づいていると人の放射光オーラが濁り、風にそよぐ靄のように揺らめいて見えるのだ。

 しかし、この人は……。


──毒々しいね


[そう見えるか?]


──うん、変だね。


 そう思いつつも、俺は進み出て、再び跪く。

 大きな赤ん坊のように膨れた手を俺の肩に置いた。


「魔人アレックス、朕は頼もしく思うぞ!」

「はっ!」


 そう答えたが。俺は肩に感じたピリッと微かな電撃に気を取られ、上の空だった。

 それが離れ遠ざかった。


 そのまま式典は終了し、国王とストラーダ候は退出していった。

 俺を含む参列者は、祝賀会会場に移動する。


 その道すがら、親父さんの横に並ぶ。


「父上」

 にこやかだった表情が、俺の顔を見て締まる。

「なにかな?」

「お爺様の黒衣衆を貸して戴きたく」


 右眉を持ち上げた親父さんは、息を吐きながら肯いた。

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訂正履歴

2025/09/23 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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