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168話 分進行軍

 アレク軍団の部屋──


「分かりましたが……そのう……いえ。小官の申すべきことではありませんでした」


 俺の前に2人の覆面した男が立っている。

 彼らは審判員だが、特別なメンバーだ。今発言した左の彼は、俺の軍団の内、二手に分ける半分を動かす副将役だ。

 誰だか知りたいところだが、それはマナーに反するし、逆に威圧になってしまう。


「大丈夫かって言いたいのだろう?」

「はあ、まあ。もちろん、ご指示通り動かします。いえ、小官の立場としては、ご指示以外の動きしかできないのですが……」


 そう。兵の半分、分軍団を委ねると言っても、彼に裁量はない。俺が事細かに書いた指令書通り分軍団を動かす。そして、右の彼が副将の行動を監視する軍監役だ。もし指令書に反する采配をしようとした時は、制止してくれることになっている。


「相手のあることだ。そうそう。思い通りにはならないし。旨く行かなかったとしても、君を恨むことはない」

「ですが……」

「副将殿。これ以上のやりとりは、選手……主将殿への助言と見なされますよ」


 そう。

 部屋の一角には、監査役が監視している。


「分かりました。では、ご指示通りに」

「ああ、頼む。まあ気楽にやってくれ」


「はっ!」


 おっ。丁度戦術ステップ開始の時間だ。


「では、第1ラウンド行軍フェーズを始めて下さい!」

 オーダー表を持って行った審判員が戻ってきて宣言した。


 さあ、本番開始だ。


「本軍団を布陣の陣形を保ったまま右回りに7HEX、同じく分軍団を左回りに5HEX進めてくれ」

 そう言いながら、指示棒でHEXを指した。


 審判員が、騎兵の駒を掴み、それぞれ進めた。

「確定でよろしいでしょうか?」

「ああ」


 質問した審判員進行役は、素早く駒の座標をメモすると、俺に見せて部屋を出て行った。


「では、我々は!」

「ああ、じゃあな!」


 副将役と軍監役は、俺に敬礼して同じく部屋を出て行った。本軍団と分軍団が分かれて索敵範囲外に出たので、この状況で情報交換をしないように、別の部屋に行くのだ。

 今後の連絡は、再び合流して彼らがこの部屋に戻ってくるか、あるいは伝令役が行う。


 かったるいな。第1ラウンドから会敵することはあり得ない。


 数分後。進行役が戻ってきた。

 演習上、審判本部で全部隊の移動先を確定し、その間に索敵範囲内に敵部隊が入っていないことを確認して、ラウンドを進める必要がある。

 会敵するか、索敵範囲内に敵が入るともっと段階を踏んで時間が掛かるというのに、それがない第1ラウンドでこれだ、面倒臭い。


「会敵、索敵共にありませんでした。第1ラウンドの戦闘フェーズは省略されます。では部隊状態の更新を行います」


 持ってきた紙を各部隊担当に渡す。兵数や糧秣などに変化があれば、表示板が更新されるが……今回はないようだ。まあ。それほど時間も経たないから食事も摂らないし、変更も悪くない平原ステージだから、山岳ステージのような兵の脱落もない。


「第2ラウンドの行軍指示をお願いします」


 指示棒で、本軍団の駒を進め、分軍団も想定位置へ駒を動かす。


     ◇


 審判本部──


「第2軍。行軍指示書を持ってきました」


 やっと始まったか。

 どれどれ。アレックス卿はどう動かす?

 壁に掛かった演習盤を見上げる。

 

 ほう。軍団を分けたか。ただでさえ少ない部隊を分けるとか。どういうつもりか?

 まあ素人なんだろう。ところで本軍団と分かれた分軍団では、なぜ行軍速度を変えているのか。


「第1軍。行軍指示書を持ってきました」

 隣も来たようだ。


 数分後。演習盤が更新される。

 こっちも軍団を分けたか。

 そうだな。行軍スピードが異なる兵科が混ざっているからな。主力たる6つの騎兵部隊が盤の中央を進軍した。


「会敵、索敵の干渉有りません!」

 そりゃそうだ。まだ第1ラウンドだからな。

 それはそれとして、まだ0ばかり並んでいるから計算の必要も無い。監査正常だ。


     ◇


 対戦者セブルスの部屋──


 1時間20分経過して、16ラウンドまで進んだ。


 私の主力部隊は3HEXの間隔を開けつつ、6つの部隊で全体として3角形の陣形

で南下し、現在演習盤のほぼ中央に居る。


 むう。なぜ、アレックス卿の軍団と会敵しない。

 自信家のアレックス卿のことだ、どうどうと中央を進んでくると考えていた。そこを正面から向かい打ってと考えていたが……外したようだ。

 ということは、俺達を待ち伏せしているのか? それとも……。


「伝令です!」

 ウチの分軍団から伝令役が来た。


「報告します。今から3ラウンド前の状況になりますが、今まで会敵、索敵に引っかかったことはありません」

「ご苦労! ここまで来る道すがら、敵影はなかったか?」

「ありません」


 ならば、敵は自陣の隅に待ち伏せしているのか。そうなると6角形のV字の中程の端に軍団を分け、中央を進んでくる私の軍団を半包囲にする魂胆か。

 上級者がよくやる戦術だ。


 その対策は、左右いずれかの待ち伏せ分軍団にこちらは6部隊集中して当たることだ。向こうは、8部隊を6と2部隊に分けることはまずない。後者に当たれば、殲滅の恐れがあるからだ。おそらく4部隊ずつ、あるいは5部隊と3部隊にだろう。

 よって、こちらは数で優位に立てるので、敵が合流するまでに、大きな被害を与えることができる。


 どちらに……右か? 左か?


「陣形を保ったまま、左120度転回、その後直進」

「2HEX移動できます」

「よし、それでいい」


     ◇


 審判本部──


「なんだ、これは……」


「はい? なんですか、監査員殿」

 無意識に口にしていたのか、横に居た審判員に聞き返された。


「あっ、いや。すまん。独り言だ」

「そうでしたか」

 彼は再び机の書類に目を落とした。

 いや、それより。


 16ラウンドが終わり、おかしなことになっている。

 滑稽なほどのすれ違いだ。

 お陰で、私は暗算で監査できるほど楽で良いのだが。もうすぐ昼食休憩になるしな。


 参謀の軍団は中央を南進。アレックス卿の軍団は二手に分かれて、戦域ステージの端をぐるりと迂回して北進。

 これは偶然か?


「第1軍。行軍指示書を持ってきました」

「第2軍。行軍指示書を持ってきました」


 第17ラウンドだ。


 おっ!

 第1軍の主軍団は、南南東……彼らから見て左に回頭し、2HEX進んだ。

 アレックス卿の軍団は、東の主軍団が先行している、もはやその先は戦域ステージの外になってしまい、北上はできないので北北西に向かっている。


 これは……まさか。

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