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167話 素人戦術

 アレク軍団の部屋──


 戦術演習盤の作戦ステップに入った。

 まずは、部隊編成をしなければならない。どのような兵科で、どういった熟練度の兵を何人動員して、どのような武具、防具、その他装備を持たせるかを部隊ごとに決めなければならない。ちなみに、今回の最大編成部隊数は8隊、兵数は1部隊当たり1000人から500人だ


 兵科は、騎兵、歩兵、魔法兵、工兵、輸送兵。それぞれに、1人当たりの基本攻撃力と、同防御力が違っている。それに、武具と防具に、騎兵だと馬と言った装備を組み合わせ、それに熟練度を掛けて、初期値が決まる。最終的には、士気という意欲、混乱度、疲労度から決まる数値と、損耗度を掛け合わせて、瞬時値というその時点の強さが決まる。


 無論、熟練度の高い兵を良い兵科に就け、優れた装備を与えれば強い部隊が作れるのは言うまでもない。が、そんな世の中は甘くない。良い条件同士を重ねていくと、あっという間にコストが跳ね上がって、高単価な兵となってしまう。


 本当の戦争では、敵味方で戦力に格差が付いている物だが、これは競技だ。払えるコストは、当然ながら彼我で同じ。

 高単価となれば、全体的に見れば兵数あるいは部隊数の低下を招く。だから戦力的に平準化されるのだ。


 部隊のオーダー表をサクサク書いていく。


──ちょっとアレク!


[なんだ?]


──なんだじゃないよ。そんなことしたら負け……


[おまえが、そう言うなら、勝てるかもな]


──ふーん……そうなんだ。


 書き上がったので、覆面の審判役に渡す。

 紙束を受け取った彼は、何かを言いかけて止めた。一呼吸置く。


「ああ。装備の弓だが……」


 彼はオーダー表を、覗き込んだ。

「はい。この印が付いている」

「そうだ。標準より大きさを小さくはするが、射程は変えないのはできるな」

「はあ。材質を複合材にすれば可能です。ただし、装備コストが上がりますが」

「構わない」


「はい。では、部隊コストを計算させて頂きます」

 専用の用紙に、俺のオーダーを書き写し、コストに変換し始めた。御苦労なことだ。


 5分後。

「アレックス卿!」

「うむ」

「総コストは、上限値未満でした。変更がなければ、受理させて頂きますが?」

 なぜ半疑問なのか?

 彼なりの良心なのかも知れない。


「ああ、頼む」

 彼は、2回瞬きをすると俺に写しを見せ、同内容であると署名させた。


「では、本部へ提出して参ります。あの時計で、10時に戦術ステップを開始します。時間がありませんので、アレックス卿は布陣を考えて置いて下さい」


 覆面審判は、別の男に本紙を渡すと、部屋を出ていった。


 残った男の方は、さらに個別部隊担当を呼び寄せ、部隊表示板を準備し始めた。部隊表示板は、部隊の状態を示すものだ。

 上部に兵科に合わせた形の札が取り付けられる。

 その下は、武具、防具と言った属性だ。木製の札を枠に嵌め表示する。

 兵数や士気と言った時々刻々変わる物は、前世の体育館などに有った得点表示板のように、数が書かれた小さい幕を束になった物がいくつも吊り下げられている。幕をめくることで数を表示するやつだ。

 これらのぱっと一目で、部隊の状況が理解できる。なかなかよく考えて作ってあるな。


 それにしても、世界は変われど、人間が考えることは同じだな。

 学園で演習を見たときは黒板にチョークで書いていたが。やっている回数も多いのだろう。流石は参謀本部、機能的だ。


 おっと、変なことで感心している場合じゃなかった。布陣を決めないとな。

 

 駒とは演習盤の上で部隊の位置を示すものだ。チェスの駒のように、兵科が分かる形に駒の上部に彫刻が施されている。騎兵なら馬の形だし。歩兵は普通の人型、魔法兵はベイルを被っている。これらに部隊番号が書かれた小旗を挿して、部隊表示板と対応が取れる。最後に司令官が居る部隊の駒には金色の輪が被される。


 布陣は、まあ二手に分けて、あとは適当で良いだろう。

 サクサク駒を並べていく。


 そうだ。二手に分けるのだから、副将への指令書を書いておかないとな。

 えーと。行軍は…………。索敵は…………。会敵時は…………。


──ふーん。


[なんだ!]


──面白いよねえ、アレクって。考えてないようで考えているって言うかさぁ。


[馬鹿にしてるのか?]


──力業が好きって言ってる割には、魔法への研究は欠かさないし。大雑把なようで慎重だし。


[最初は先生にやられそうだったし、今は命を狙われているしな]


──そうかな、この世界に来る前からの気がするけど!


 鬱陶しくなってきた。

[後にしろ。忙しいんだ!!]


──はいはい


     ◇


 対戦者の部屋──


 セブルスは、最初こそ迷っていたが、既に心を決めていた。

 主力は騎兵だ。兵には主武器としてげきを持たせ、軽量のプレートアーマー、練度はやや高めに指定した。これで、機動力、攻撃力、防御力のバランスが取れる。


 アレックス卿は、どのような作戦で来るかは分からないが、包囲殲滅戦で行く。そうすれば如何なる奇策で来ようとも……。


 もう心配するのはやめよう。戦術演習には、人間性が、そしてその時々の精神状態が良く現れるという。昔の上官が言っていた。

 アレックス卿は、魔法の天才、工学でも先見の明を数多く示している。聡明なのは、あの時のやりとりでも分かっている。


 しかし──


 そう、だからといって、戦略眼、戦術眼に優れるとは限らない。

 いや恵まれる方の確率が低いだろう。あらゆることに秀でる人間など、見たことはない。まあ、盟主は例外だが。


 おっと。まだオーダー表ができていなかった。

 騎兵部隊は6隊。部隊数上限は8。あと2隊はどうするか。そう言っても、さほどもう予算は残っていない。騎兵の方に重点を置いたからな。

 精々輜重を護る歩兵には長槍を持たせ、魔法部隊を付けるとするか。そうすれば、低コストでもまずまずの防御力が得られる。


     ◇


 審判本部──


 王立科学院の歴史科研究主査、ブルックスは腐っていた。


 面倒臭い……今は、論文をまとめなければならないのに。なんで、戦術演習の審判などやらなければならないんだ!

 院長ももっと若手に振れば良いのに。俺ももうすぐ40歳だぞ。いくら計算が得意でもだ。もっと人選ってものが有るだろうに。


 それに、つまらない対戦にしかならないに違いない。

 戦術を捻くり回すのが本職でバリバリの参謀と、魔法師の学生の対戦など。まともな焦眉になるはずもない。所謂出来レースだ。


「第2軍の部隊オーダー表を持って参りました」

 部屋に覆面の審判員が前室へ入ってきて、よく通る声で叫んだ。

 するとこちらの部屋との間に設えられた、仕切り板の穴から、紙を持った腕が突き出される。進行役が相手方の情報を不正に得られないようにする措置だ。

 ああ、回ってくるなあ面倒臭い。が、まあ、礼金分は働かないとな。


 別の審判員がそれを受け取ると、数人が集って、おおうっと唸ったあと、笑い声が起きた。何だ、どうした?


 5分後。笑いの種が回ってきた。

 受理、検算結果正常と判が捺されている。どれどれ……。

 なっ!

 これは……ああ、これはアレックス卿だな。第2軍とは書いてあるが、一見して丸わかりだ。

 なるほど。審判員がわらったのはこの所為か。

 騎兵に弓……って。素人だから、こんなオーダーになるに違いない。防具もお粗末……それを補うためか、無用に熟練度が高い。偏り過ぎだ。だから部隊コストも高くなる。全く戦力が整っていない。


 計算書も手に取る。予算も使い切ってないじゃないか。これだけ有れば、歩兵隊なら1部隊増やせるだろうに。

 やはり、つまらない戦いになりそうだな。

 まあいい。

 さっさと負けて貰った方が、私も早く解放されると言うものだ。好都合だな。


 計算を始めたが、あっと言う間に終わった。内容を別紙に写して、監査正常という判に手を伸ばして捺す。


「第1軍のオーダー表を持って参りました!」


 おお、参謀の方か。

 別の監査員が受け取り見ている。


 私は、その第2軍の部隊位置と状態を監査する役だ。第1軍の方は別の者、同じ科学院ではあるが、面識のない別部署の人間が担当している。


 結構大量に計算をしているが、10分足らずで計算が終わった。判を捺すと、待っていた審判員が持って行った。


「そちら見せて貰っても良いですか?」

「ああ、どうぞ」


 手渡されたオーダ表の写しを見る。

 こっちは……。騎兵主体で、歩兵に魔法兵か。

 計算書を見てみる。

 ふーむ、こちらはバランスが取れている。コストもきっちり使い切ってある。まあ当たり前だが。

 勝負は、会敵するまでに8割は決まっていると言うが。第2軍、つまりアレックス卿の勝ち目は2割も残っていようか?

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訂正履歴

2017/05/21 話数表記の誤り(誤:168話,正:167話)次話が168話です。

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