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157話 暗明暗

 薄暗い部屋。

 

 既に7、8人居るところに、誰かが入ってきた。


「おい。見たか、この新聞」

「ああ。先程から、皆でその話をしている……困ったことになった」


「ああ不首尾だ! アレックス卿は生き残った!」

「そうだ。だが、問題は不首尾に終わったことではない」

「あのアレックス卿のことだ。彼が死なないことは織り込み済みだ」


「死にはしないが……」

「そうだ。爆発自体は何人も防ぐことはできない……だったか」

「ああ、サーペント家や奉公人が死傷し、それらを犠牲として卑怯にも生き残ったアレックス卿! そう世論を誘導する手筈ではなかったのか?」

「そういう話だったはずだな! 同士ダルク」


「それが、自ら身を挺して、家臣縁者を救ったとあるぞ」

「これでは、あべこべだ。民衆の敵どころか、民衆の守護者になってしまう」

「ああ。セルビエンテでは、既にそうなっている。こちらの新聞では、命を救われた衛兵の母とやらの言葉が載っている。神にも等しい御方とな」

「忌々しい」


「ああ、そして。その直前に復活祭の異例の演説をしたとな。辺境伯と共に、全文が書かれている」

「人気取りの旨いヤツのことだ。どうせ、民衆に迎合する内容に違いない」


「だが、これを読めば、ますます人気が沸騰するだろうな」

「ああ、彼が進めようとしている事業にも注目が集まるだろう」

「それも、これも……同士ダルク。どう責任を取るつもりか」


 視線の先の男は、詰め寄られ口を開く。

「責任……! 確かに、責任は私にある。認めよう。ただ、これだけは言わせてくれ。あの魔道具は、発動するまで数秒の間がある。発動をさせつつ魔収納に入れば、出した時には何人も! そう、魔人であればあるいは……だが。そう、一族や直属の衛兵でしかいない城の階に止められる者など居ないはずなどだ」


「貴公、何を言い訳するつもりだ!」

「アレックス卿が魔人とでも言うつもりか!」


 ギギギ……。

 そのとき。薄く光りと共にまた進入する者。


「魔人……か」

「男爵?……いえ、盟主よ」


「昨日。宰相府へ、ヴァドー師から申請書が届いた」

「申請書……ですか」

「アレックス・サーペント子爵を、魔人に列すべし。ヴァドー・シュテファニツァが推挙する、とな」


「そっ、それは」

「同士ダレクが仕掛けた罠を封じたは……必然やも知れぬ」


「魔人……阻止せねば」


 誰かの言を、盟主と呼ばれた者は無表情に受け流した。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 サーペンタニアにやって来た翌日。


 俺は、カレンとメイド達を引き連れ、山地の中に馬車でやって来た。

 午前中は、多く里山で見かけると村長が言っていた魔獣狩りをし、既に20頭弱を屠った。


「アレク様。先程は取り乱して申し訳ありません」

 カレンが謝ってきた。


「まあ。ワイバーンと聞けば、最初は誰でも驚くさ。気にしなくて良い」


 出掛ける時にヒルダのことを話したのだが、かなり狼狽して危険ですからやめて下さいと、取りすがられた。その時、廊下を音も無く滑空して、ヒルダが俺の肩に留まって大人しくしていたので、ようやく誤解が解けたようだ……いや解けてないな。

 今もヒルダを恐々と見ている。


「それにしても。このヒルダというワイバーン。アレク様に慣れていますね。まだ幼生だからでしょうか? ところで、このヒルダをどちらで?」


 ぱたぱたと羽ばたきながら、俺やカレンの上を回っている。


「ああ、エリーカ様の……」

「エリーカ様? 最近まで自治会長でいらした」

「そう、その……親類の方に、どこかに放ってくれと預かりました」

 まあ、嘘は言っていない。


「放す……そうですかぁ。それで、ここへ来られたということなのですか」

「そうだ」

 カレンは、少しほっとした面持ちだ。


 そこへ、バサバサと慌ただしく小さく羽ばたきながら、ヒルダがまた俺の肩に留まった。

 重いな。


「どうだ、ヒルダ。この山は気に入ったか?」


 ミィィィーーー。


──気に入ったって!


 そうか……。

「じゃあ、ここに住んで良いぞ」


 ミギィ?

 小首を傾げる。


「お前の縄張りにして良いって言っているんだ」


 ミィィィーーー。


──分かったって!


「よし! 元気で暮らせよ!」


 ミギィィィィィギャァァァ・・・・・・・


 俺の肩からヒルダが舞い上がった。

 獣相になった、ロキシーが追っていく。


「おおーーい、ロキシー! あんまり遠くへ行くなよ!」


 上空で何度か旋回すると一声高く啼いて飛び去っていく。


──行っちゃったね


[ああ。大母神の依頼は、果たしたな……なんだ。気に入ってたのか?]


──まあね。アレクは?


[俺は……ロキシーだけで十分だな]


「さて! 食休みは十分だ。また魔獣を狩るとしよう」


     ◇


 狩りを終え、20頭余りの魔獣の死骸を持って帰った。明日はワイルドボア系の肉を使って何かイベントを催すそうだ。


 深夜、俺はもう一つの用事を果たすために、館を飛び立った。

 数分もかからず、目的地に降り立つ。村はずれの遺跡だ。


 偽装した入り口から、地下へ潜る。

 第3階層まで進むと、廊下の中央がぼうと明るくなった。白いガスのような渦巻いて形を作る。


「また来たの? ランゼの弟子。今夜は一人?」

 少し高い声の残留思念体から話しかけられる。


「はい。一人です。アリシアさん。ごきげんよう」

「別にご機嫌じゃないわ……で? 何の用?」


「ええ、少しアイザックさんに訊きたいことがありまして」


「わかったわ」

 仕方ないと言う表情を隠さない。


 奥へ入ると、書斎と見える椅子に、アイザックが掛けていた。

 白い長い髪に埋もれて、顔が見えないが。


「こんばんは。アイザックさん」

「ああ……」

 俺の顔を見ながら、言葉が止まった。


「アレックス殿です」

「ああ、久しぶりだな。竜化した身体は不具合はないかね?」


「はい。特段。以前より調子良いです」

「そうか。一度精密に見てみたい物だが」

「解剖しないなら、お受けしますが」


「それで、私に何か用かね?」

「余り長くお邪魔しても申し訳ないので、簡潔に訊きます」

「うむ」


「ここにある、実験用の機器や装置は、全てアイザックさんとアリシアさんで作った物なんですか?」

「うーむ。設計は全て私がしたが、製作はそんなこともないな。半分くらいは違うだろう。詳しくはアリシアに訊いてくれ」


 うーむ。俺の名前以外にも、興味のないことは全て忘れる質のようだ。


「ああ、そういうことでなく」

「何? あの女みたいに、盗みたいってこと?」


 アリシアさんの目が厳しい。


「ランゼ先生が、盗んだって仰るんですか?」

「ええ。遺伝子配合と保育器をごっそりとね。前の場所と前の前の場所で2回もよ!」


 ううむ。きっと盗んだな。でも、2回か……。


「それは、先生に代わって謝ります」


「良いのだ! 欲しければやると言ったしな」

「教授!」

「もう、私には不要になったしな。なんなら、残っている物も持っていって貰って構わないが……」


「いえ。同じ物が欲しいわけではありません。先程お二人以外が作った物があると仰いましたが。どなたが造ったんですか?」


「それを訊いてどうするね?」

「もしご存命なら、依頼したいことがあります」


 そう。この二人からは技術情報を引き出すことができたとしても、今から造って貰うことは無理だろう。肉体を持って居ないからな。


「ああ、生きているさ。まあ、君には世話になったしな。紹介はするが、君の依頼を受けるかどうかは……まずは会ってみると良い」

「ありがとうございます」


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