150話 初夜
老師の実験以降、観閲式は間もなく終わった。が、その後が面倒だった。
セルレアン軍軍監、つまりはルーデシア軍参謀本部から派遣されている監視人が、俺の館に押し掛けてきて、魔力砲のことを事情聴取したからだ。
いやいや、聴取する対象が違うだろう。俺ではなく老師に訊け! そう何度も押し返したのだが、いつになく、かなりしつこく食い下がってきた。おそらく参謀本部に克明に報告する必要があるのだろう。
しかし、老師は恐い! とてもじゃないが、訊けない。
俺にも実力行使されれば、敵わないとは分かっているだろうが、そんなことをすれば、反逆罪に問われるだろうし、親父さんにも迷惑がかかる。したがって、俺は手を出さないと高を括っているに違いない。まあ、多少はびびっている様だが。
それでも。監視対象の息子と、軍の重鎮にして魔人とで、どっちを選ぶかと言えば、言うまでもない。
それは分かるが、俺の忍耐にも限度がある。30分も押し問答になったので、いい加減頭に来た俺は……。
『わかった。話してやろう。ただし、どこまで喋ると軍機に触れるか分からない。老師は、城内に逗留されているのだから、これから一緒に行って立ち会って貰おう!』
言い切って立ち上がった時に、それには及びませんと抜かして、ようやく帰って行った
忌々しい! が、やっと終わった!
そう思った俺は甘かった。
直後にランゼ先生が来た。
開口一番! あの魔力の迸りは何だ!
そうキレ気味に問われて、老師が用意した魔力砲と答えた。
少し怒りが収まったかと思ったのだが、魔力充填の下りを説明したことで、再び怒りが燃え上がった。
曰く。
折角、万全を期して俺の能力偽装をしてきたのに無駄になった。
普段から老師には睨まれるなって言っているのに!
日頃から注意しているのに、婚約して気が緩んだか!
まあ、気が緩んでいなかったとは言えないが。
この項目を3回ほどループし、アレックスがかなり萎縮し始めた。そんなに怒らなくても! そう激発しそうになったところで、ユリが夕食時間だと呼びに来て、ようやく終結した。
◇
「それは大変でしたね」
「ユリが呼びに来てくれなかったら、掴み合いになってたかもな」
なあ、なぁ、ぁ……ちょっと反響するよな。この浴室。
のぼせてきたので、浴槽から出て、木の椅子に座る。
浴槽も木の桶だったら良かったのだけど。檜とか。琺瑯製だ。
「今日は、潮風に当たりましたので、しっかり洗いませんと」
「あぁ。適当で良いよ」
さっき御祓魔法で1回さっぱりしたしな。
「そうは参りません。今夜は」
海綿を石鹸で泡立て、ユリが躰を洗ってくれる。
今夜は……か。かわいいなあ、ユリは。
透ける浴衣姿は、最初は大変だったが、最近はようやく平静で居られるようになった。
「頭は良いよ、頭は」
ふふふ。
「なに?」
「いえ。巷の女性が崇めるアレク様が、こんなにお風呂嫌いと知ったら、うふふふ」
いや、誤解するな。俺は風呂好きだ。ただ人に洗って貰うのが苦手、特に頭はくすぐったいんだよな。それにしてもユリは綺麗好きだよな。
「はい、眼を瞑って下さい」
眼を閉じると、頭から湯を掛けられた。
◇
さて10時を回ったが……。
そろそろ寝ようかという頃合いだ。何か催しが有る時以外は、セルビエンテの夜は早いのだ。
コンコンコン。
おっ! ノックだ。以心伝心!
コンコンコン。
あれ? どうした?
いつもなら、すっと入ってくるのだが。
扉まで歩いて行って、開ける。
「カレン!」
薄い夜着の上に、大きなケープを羽織って居る。
「入ってもよろしいですか?」
「ああ。入れ!」
カレンは、俺の横を素通りして、部屋の中程に進んだ。
俺は、廊下の両端を見通してみたが、誰も見えなかった。
ドアを閉め、振り返ると、カレンはベッドに腰掛けていた。
流石に俺も馬鹿ではない。
『どうしたんだ、この夜更けに』
何てことは、訊きはしない。
まあ、婚約したし、良いよな。
カレンの横に座る。
頸筋から馥郁たる香気が匂い立った。
「アレク様!」
おっと、唇を奪いに動き出す寸前に、声を掛けられた。
「ああ」
綺麗な眼が訴えるように見開かられる。瞳に俺の顔が映っていた。
「私、カレン・ハイドラは、アレク様の妻になり……むぐ」
彼女の唇を、指で押さえて遮った。
「俺の花嫁になってくれ。カレン」
幾度か瞬いた。
「はい。よろこんで。アレク様、はぅ……」
抱き寄せて、口づけする。ケープを毟り取って背中に手を回した。
そのまま、ベッドに倒れ込む。
「綺麗だ……」
髪がシーツ広がるカレンを見下ろす。
「アレク様……」
のし掛かって、頬から指を、頤から首筋に這わせていく。
「くぅ」
可愛い声に、少し口角を上げつつ、襟元を寛げていく。
覆い被さって、啄むように唇を頸筋に這わせた。
◇
暖かいセルビエンテだが。流石に冬の深夜は冷える。しかし、室温は24℃を維持させているので、肌を出しても寒くはない。
俺は、彼女の横に横臥して、ふうと長い息を吐いた。
改めてカレンを視ると、汗で貼りついた前髪の下で、一筋の涙を流した。
「ん。痛かったか? 少し出血したようだしな」
カレンは、首を振った。
「少し痺れた感じですけど……そっちは大事ないです」
そうか。それは良かった。とは言え、そっちじゃなければなんなんだろう?
「ん……えっ? 出血?」
カレンがむくっと上体を起こす。
「申し訳ありません。アレク様。少しそちらにズレて下さい」
俺のベッドは、ダブルサイズよりでかい。
「ああ。どうした」
避けてやると、羽毛入りの肌掛けを、がばっとめくった。
「ああ、やっぱり。汚れてるぅ。消さなきゃ……」
「別にシーツの1枚や2枚」
「だって、ユリさんか、メイドの誰かに視られるんですよ」
何に問題もないが。
清め給え 清め給え ─ 御祓 ─
「……消えたわ。良かった。ってことは、アレク様のも」
「良いよ、俺のは!」
「駄目です! お願いします」
お願いかあ。まあ仕方ない、どうぞ。
「ああ、汚れてませんね……って、はふぅ。なっ、なんで大きくなってるんですか?」
「そりゃあ、お互い裸だしな」
「はぅ……」
「じゃあ。もう1戦追加ということで」
再びカレンを押し倒した。
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訂正履歴
2020/04/18 アレクが風呂嫌い記述は矛盾するので訂正 (オタサムさん ありがとうございます)




