16話 一人二役
メイド達と一緒に本館の食堂へ向かい、父母達と食事をした。
先生は、食事に来なかった。
食事を終え、一人で自分の館に戻る。向かうは、自分の部屋ではなく先生の部屋だ。 同じ階の反対の端にある。
ノックをしたが返事が無い。
構わず中に入る。
15平米位の広さで、ややくたびれたソファーセットに、本棚、机がある。
居間件執務室。暗い部屋だ。明かりでは無く、部屋の色調だ。壁紙からしてダークグレー。女子には似合わないと思うが、あの人にはな…。
それはともかく。先生は、この部屋には居ない。
さらに奥に続く扉がある。
私室を2間も、貰っているのか。使用人としてはかなりよい待遇だ。
使用人の階層としては、家令(筆頭執事)、館付き執事長、厨房長、メイド頭、夫人付きメイド長、各係長執事、各係長メイド、執事まで常任の役付となる。サーペント家では個室が与えられる。その下は従僕とコック、庭師、メイドだ。
また、家族構成によっては、臨時の役職となる、先代付き、子弟教育役、乳母を置く場合がある。
おそらく先生の序列は、執事長の下ぐらいだ。
俺はさらに進み、奥の部屋に入った。
さらに暗い。こっちは照明すら最低限だ。
居た。
先生は、ベッドに横たわっていた。
「先生!」
大きめの声にすると、反応して僅かに眼を開けてこちらを見たが、また眠りについた。
えーっと。なんか、あからさまに変だ。睡眠薬でも飲んだみたいだ
「いけない人」
後ろ?
振り返るとレダが居た!
こっちを睨んでる
その後ろの手が届かない位置にある扉が閉まった。魔法か!
「何がいけないんだ?レダ、いや。ランゼ先生!」
「ふむ」
レダはそう呟くと、椅子に腰掛けた。
その直後に目を閉ざした。
がばっと音がして、振り返ると、今度は先生が起き上がった。
「勘が良いな」
「勘じゃ無くて、推理です」
「ああ、本当に細かいことに気が付くからな。そやつ、レダは我が分身だ」
「分身の割に、ぷにぷにしてますが」
俺は、全く起きる気配が無い、レダの頬を突っついている。
「ああ、しっかり実体があるからな」
「どうやって…この前まで処女…だったし。産んだわけじゃないですよね」
「ああ、ホムンクルスだ。レダは、この身体を複製したものだ」
ホムンクルスって。クローンみたいなものか?
いやあ、相変わらずどん引きすることするなあ。
「それで、レダへ先生の霊体か意識かが移ると、先生の身体は反応が低調になるのですね」
「そういうことだ」
「先生は、寝ていても誰からも文句を言われないでしょうが。先生が起きているとき、レダはどうなるのですか?」
「ああ、大丈夫だ。激しい運動や高位の魔法を使う以外は、並行でいける」
「器用ですね」
「そんなことはないぞ」
「そうそう。ランゼ先生は案外不器用なのよ!アレク」
「例えば、私は裁縫が苦手なんだ」
「あら、料理だって、大したことないわ」
2人の会話を、首を振りながら聞いていたが…
「えーと。凄いですけど。それやってて楽しいですか?」
「「楽しくない!」」
ですよね。
「とはいえ、片方が動いているときは、寝てるか、座ってるかの方が安全だ」
また、レダが眠った。
「で、何故こんな面倒臭いことを?」
「おまえが、王都へ留学するからだ」
「はあ?」
「この身体で、流石に生徒にはなれないからな」
なるほど、確かに。セクシーすぎるよな。
って、学校でもレダを使って監視するつもりかよ。はあ…。
あっ!
「入試ってあります?」
「入学試験のことか。平民や下級貴族の子弟にはあるが、上級貴族は修学が義務だから無い」
上級貴族とは伯爵以上のことを指すそうだ。
あの口ぶりからして、学科試験以外は何かありそうだ。
「新年明けに上京する。までまだ一ヶ月ほどあるが、明日からは一般常識も教えよう。お前は、数学と理科はなかなかやるが、国語と地理歴史が厳しいからな」
文化系は暗記科目だし。転生2ヶ月目では厳しいのは当たり前だろ。
まあ、アレックスの記憶を引き出せないことも無いが、頭痛が来るのはどうも。
「それでだ。おまえに言っておくべきことがある!」
おっ。真剣な表情になった。何だろう?
「はい」
背筋を伸ばした。
「おまえ、まだユリを抱いてないだろう?!」
「はっ?」
何ですと?
「いやだから、交尾していないだろう?私とは、3度したのに!」
「かっ、回数はいいじゃないですか。まあユリとは確かにしていませんが」
「では、早くせよ!」
「それって先生に命令されることでは…」
「それがな、私…ではなかったレダにな、ユリの当たりが厳しいのだ。あからさまに、いらいらしている、レダを競争相手と思っているからな」
うーむ、確かに。ユリを除く専属メイドの中では、一番器量が良いからな。
無理からぬことだ。
「我慢して貰えませんかね」
「堪えるのは構わんが、戦略的にユリと関係を深めておく方が良い」
戦略的…?
「ユリを俺にくっつけたいのですか?」
「ああ」
「なぜです?ユリは、孤児で、ハーフエルフかも知れませんが、ただのメイドですよ」
「わからぬか」
「わかりません」
「ユリは、ハーフエルフということもあるが、私にはないものを持っている。ずっと芯からおまえの味方だ。そのような者は血族以外では、容易く手に入ることはない。例え夫婦の間でもな」
「……先生の仰ることは分かりました。でも」
ユリが好きなのは、俺では無くアレックスだ。
「叶えてやれ。ユリの願いなのだ」
ふう。
「…考えておきます」
「で、話はそれだけか?」
「いえ、新しいメイド達を選んだのは、先生と聞きましたが」
「どうだ、気に入ったか?」
「まっ、まあ」
「反応が薄いなあ。おまえの好みに合わせて、ちゃんと胸が大きいやつを選んでおいたぞ」
やっぱりかい。
「そんなことだと思ってました」
「いいだろう?」
「どの子も可愛いですし…いいですけど。完全に人って子は、居ないのですが?」
「人が良いのか?」
「いや、そういうことではなく」
「隠すわけで無いが。もう少ししたら分かる。楽しみにしておれ」
また何か企んでいるようだ。
「はあ…」
「それより、どいつが好みだ?…ああ、ユリを除いて」
「そりゃあ…」
「そりゃあ?」
まあ、ねえ。
「いいじゃないですか」
「良くはない、答えよ!」
「どうしてもですか?」
「ああ」
「やっ、やっぱり、レダですかね」
先生は、立ち上がってレダの座る椅子へ、近づいた。
先生は、レダの胸をまさぐった。
「これぐらいで良いのか」
「べっ、別に胸で選んでませんよ!」
「そうかぁ。すまんな、もう少し早く、おまえの性癖がわかっておれば、もう少し大きくしておいたものを」
「いやいやいや。絶壁は困りますけど、その人に似合ってればいいんです」
「それそれ!」
「はっ?」
「如何にも胸に拘らぬと言っているようで、似合う基準が偏っているのだよあ。男というやつは」
まあ、否定はしない。
先生は生前の世界の基準で言えばFカップは余裕であるだろう。ユリまだ見たことは無いが、服の上から触った限りでは、先生に勝るとも劣らない感じだ。
「まあよい。レダとやるのは良いが。その前にユリだ!それまで私ともお預けだ。良いな!」
俺は先生の部屋を出て廊下に出る。
自分の寝室を通り越してトイレに向かう。
その前の階段から、誰かが下りてきた。
「アレク様!」
「ああ、ユリ!」
「そうだ。レダさんを、見かけませんでしたか?
「ああ、レダなら…先生の部屋に入っていったぞ」
「ランゼ先生の…ありがとうございます」
ユリは、会釈して部屋に向かおうとする。
「ああ、ユリ」
それを呼び止めた。彼女が振り返る。
「何でしょう。アレク様」
「ああ、いや。そのう。今夜のことだが…」
「はい」
明らかに期待している。
「夜伽を命じる!」
「ほっ、本当にですか?」
なんだかとても嬉しそうだ。
勇気を出して良かった。
「ああ。ユリが良ければな」
「良いに決まってます…ああ、こうしてはいられないわ」
「どっ、どうした?」
ユリは、俺に寄り添うよう近づき、耳元で囁いた。
「今から、しっかり準備します」
「おおう」
「では、失礼します。また後で」
「ああ」
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