142話 アレクを囲む女達
ワイバーンのヒルダを肩に乗せて、自室に戻るべく廊下を歩いていると、向こうから2人が小走りで、こちらに向かってくる。
「はぁ、はっ、お兄様。ご無事でしたか」
いつも優雅なフレイヤが、息を切らしていた。
後ろで同じように、荒く息を吐きながら、胸に手を当て敬礼したのは、彼女の従者イーリアだ。
おっ。
視線の端から、いつの間にかヒルダの姿が消えている。気配もほとんど消えているが、肩に掛かる重みはある。どうやら、ヒルダはフレイヤに自分の存在を悟られたくないようだ。それなら、俺もとぼけるとしよう。
「ああ、おはよう。フレイヤ、どうした血相変えて」
「やはり、アレク様に限って」
「そっ、そうだけど……イーリアは、黙っていなさい……ああっ。おはようございます。お兄様。何かこちらの館に、何と言うか……良くない気配というか、魔獣のようなものが降りた気が致しまして」
「それで、心配して来てくれたのか?」
「あっ、いえ……まっ、まあ、少し気になりまして」
「久し振りに、お嬢様が全力で走る姿を拝見しました」
もうっと、イーリアに怒っている。
相変わらず、かわいいな。
はぅ!
フレイヤの輝く金色の髪を撫でてやると、奇声を発して真っ赤になった。
「ありがとうな。フレイヤ」
「はぅぅう。はい」
「でもな。もし、俺が危ない目に遭っていても、近寄っては駄目だぞ。フレイヤは逃げてくれ」
「お断りします!」
「……何?」
「お兄様のお言葉でも、それだけはお断り致します」
「うーーん」
「お兄様が危ない目に遭わなければよろしいのです……とっ、とにかく、ご無事を確認できましたので、帰ります」
フレイヤは、踵を返す。イーリアはにこやかに、再度敬礼して後を追った。
──良い子だねえ
ああ。
自室に入ると、ヒルダが再び姿を現した。
ミィィイイ。
──もの凄く、お腹が空いたって!
「分かった分かった。ちょっと待て!」
多くの、錐となった結晶を触り、念を込めると、大きく開けた場所に転移していた。
足下は、ふかっと柔らかい草っ原。空に太陽は無いが全体に明るい。亜空間の一角、ロキシー専用の狩り場だ。
「ここには野ネズミから山羊まで、哺乳類がいる。好きに狩って喰って良いぞ」
ランゼ先生が、どこからか生け捕りしてきて、ここら辺りに放ったのだ。
ミィィ?
「俺は、お前を飼う気はない」
亜竜を飼うのが大変ということもあるが、籠の鳥ならぬ籠の亜竜にするのは可哀想だからな。
ミギャァァア!
──この子、縄張りが無くなってたんだって
[お前、よく分かるな。ワイバーンの言葉]
──えへっ! なんとなくね。
ワイバーンは、ただの凶暴と言われるが、こいつにはそれなりに知性はあるようだ。
それはともかく。
甘えるなよヒルダ! 自分の力で居場所を造れ!
そうと言いたいところだが。まあ何年もあそこに籠もっていたようだからな。
「そうだな。人間や飼っている動物は分かるか?」
……ワフッ!
肯定らしい。
「人間や人間が飼っている動物を襲わないなら、縄張りを用意してやる。どうだ?」
……グゥゥゥ。
ん?
──襲うなと言うのは、喰うなと言う意味か? って
「食べないだけじゃなくて、殺したり、怪我させたりするなと言うことだ」
……ワフッ!
「よし! もし襲ったら、またあの球に閉じ込めるからな!」
……ワフッ、ワフッ!
声を出しつつ、頷いた。段々意思創通ができるようになった気がする
「近々、縄張りの地へ連れて行ってやる。ここよりは人間は少ないしな。分かったら、行ってこい!!」
俺は空に向かって、ヒルダを投げ上げた。
背後から気配──
獣相化したロキシーが、俺の傍らをもの凄い勢いで駆け抜け、ワイバーンを追っていった。
「仲良くするんだぞ!!!」
◇◆◇◆◇◆◇
午後。
館に馬車がやって来た。俺は、玄関で待ち受ける。
槍に2匹の蛇が絡んだ紋章。ハイドラ家のものだ。
ん?
扉が開くと、まずはルーシアが降りてきた。地に足を着けると、胸に手を当てて脇に避けた。間際まで寄って、手を差し伸べると、その手を取って麗しい少女が舞い降りてきた。ゆっくりと地に降ろす。
何、このドレス。襟刳りが扇情的で、胸の丘陵が大きく露わとなっている。
おおぉぉ……男の夢が現世に!
きゃっ!
かわいい悲鳴と共にカレンが、何かに躓いたのか俺の胸に飛び込んできた。
佳い匂いだ。
一旦抱き締めて、躯を離す。
「よく来たな、カレン!」
「アレク様。お招きありがとうございます」
やや広がった、スカートを持ち上げて跪礼する。
「さあ、行こうか」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ」
数歩進んだところで、後から声が掛かった。
「なんで、私を無視するのよ!」
「ああ、エマ。居たのか」
「居るわよって。さっきちょっと目が合ったわよね」
「そうか? それはともかく。今日は呼んでいないが……」
「いいでしょう。アレクズの仲間じゃない!」
「どうする? カレン」
「そうですね。可哀想ですから、入れて差し上げて下さい」
「キーーーーー。なんで上から目線なのよ??」
まあ。ここまで馬車に乗せてきたんだ。本当に嫌なら、そうはしないことは分かっている。
「まあ、そういじめるな。アレク殿」
いつの間にか、先生とレダが居た。
「これは! ランゼ様。お久しぶりです」
エマの従者のビアンカも馬車降りてきて、4人が跪礼した。
「さて、これだけ揃ったのだ。また鍛えてやろうぞ」
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訂正履歴
2025/09/21 カーテシーの表記削除 (コペルHSさん ありがとうございます)




