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139話 成約

 暦は9月に入った。

 久しぶりに学園へ登園し、私室で昼食をカレンと……そして、呼んでいないがフレイヤの3人で摂って、休憩をしている。


「先日の収穫祭は、本当に楽しかったです」

「そうだな、カレン」

 確かに楽しかった。カレンとはデートらしいデートは初めてだったしな。


 右横の仮婚約者は、融けたような笑顔だ。対面の妹は、顔は笑っているが目は笑っていない。

 不快ならば、ここに来なければいいのにな。


「お兄様はひどいです。お帰りになったのに、カレンさんのお館に直行されるなんて。収穫祭にお出かけになるなら、私にも知らせて欲しかったです」


 デルヌ族の町から帰って来た時、祭りに間に合いそうだった。だが、上屋敷に寄る程余裕は無かったのだ。


「すみません。フレイヤさん。でも、夕方に突然お越しになったときは、びっくりしました。それを知らせに来た、ルーシアの慌て振りには笑ってしまいましたが」


 その後、レダも含めて4人で収穫祭に繰り出した。ユリも連れて行きたかったが、そうも行かない。カレンに対してレダとの取り合わせは可能だが、ユリとは無理だ。


 カレンもなかなかの人物だ。小姑には逆らわないようにしつつも、しっかりとダメージを与えている。


「それはそうと、カレンさん。胸元のネックレス。水晶ですか? とてもお綺麗ですね」

「あっ、お気づきなりましたか。アレク様に戴きましたの」


 こめかみに現れた皺……クリティカルヒットだったようだ。


「おっ、お兄様にですか?」

「ああ、祭りに行く前に出張していたところの土産だ。フレイヤにも買って来たろう」


「えっ、ええ。戴きました。木の箱……ですが」


 水晶のアクセサリーは、魔法師のステータスが上昇バフするので、喜ばれるのだ。神官は何かと服装に宗教上の制約を受ける。だから、もう一つの特産品である木製品にしたのだが。値段はそんなに変わらなかったし。


「それにしても、この水晶の細工初めて見ました」

「そうですね。珍しいものだと分かります。貴重な物をありがとうございます」


 ああ、それは。

 言い掛けてやめておいた。言うとますます状況が悪化しそうだからな。


 むっ! 人の接近を感知。


「失礼致します!」

 レダが入ってきた。


「レダさん? 実習の時間には……」

「はい。まだ20分ありますが、お客様です」


「ああ、アレックス卿、邪魔するぞ!」


「会長!」

「エリーカ様!」


 フレイヤとレダが驚いている。俺は数秒前に状況が分かったので、それほどでもないが。


「おお。ハイドラ嬢に妹君も居たのか……アレックス卿」

「はい」

「学園の美女を、全てこの部屋に集めるとは、卿も罪な男だな」

 それは、自分も含めてということなんだろう。


「どのような御用でしょうか? 会長」

 王都に戻ったので、呼び名も姫から会長に戻している。


「うむ。それなんだが……」

 会長は、カレンとフレイヤを見遣った。


「ああ、私はそろそろ戻ります」

「では、私も」

 空気を読んだのか、カレンとフレイヤが立ち上がった。

 そそくさという表現が似つかわしい所作で、退出していった。


「対抗馬は選挙運動をしていたが、フレイヤ殿は余裕だな」


 フレイヤは次期自治会長に立候補した。無論目の前に居る現会長の推薦という触れ込みは周知されている。が、無投票当選とは成らず、別の立候補者が現れたので、冬休み前に投開票が実施される。週末には、立ち会い演説会というものもあるらしい。


「どうなんでしょうね」

「まあ、何となれば、卿が乗り出せば一気に当選確実になる」

 なんとも思わないが、表情に不機嫌さを混ぜておく。


「話は変わるが、ハイドラ嬢のネックレス……卿が追加工したのか?」

「はい」

 もともとエルフの街で買った時は、つるっとした滑らかな表面だったが。カレンの外出の準備で待たされた時に暇だったので、俺が工芸魔法を使って、多面体のオーバルカットに加工したのだ。


「ああいう細かい魔法まで得意とはな。あれなら、精神値が20%も上がる。本来なら国宝級。売ったら……」


「それで、御用の趣は何でしょう?」

「そんなに急がなくとも良いではないか。午後課程は免除なのだろう?」


「そうですが、できるだけ出席したいのですが」

「見た目に反して真面目だな」

「姫様……」

 背後に居る従者が促す。


「なんだ、パトリシア。アレックス卿の虜になったのか?」

「それよりお話を進めて下さい」

 思い切り睨んでる。


「わかったわかった。用はこれだ」

 持ってきた鞄から巻かれた洋紙を2本取り出して広げた。


 白くきめ細かな洋紙はエルフの特産だそうで、土産と共に多く買い入れた。


「卿の提案通り、木精魔法技術の貸与契約書にサインしておいたぞ」

「拝見します」


     ◇


 1.ルーデシア政府とデルヌ族は、木精魔法と主体とする有機化学技術の公正な使用と発展を目的として本契約を締結する。

 2.デルヌ族は、樹脂反応…………に関する技術を、ルーデシア政府を肝煎りとする企業体に貸与する。

 3.前記企業体は、貸与に対して別途定める対価をデルヌ族に支払う。

 4.企業体活動において新たに生まれた技術の帰属については、協議して決定する。また別途定める事業遂行以外において第3者への提供は有償、無償を問わず、事前に承諾を受けるものとする。


 11.貸与期間は、契約開始より5年とする。期間経過後は対価の条件を更新することにより延長できるものとする。

 12.貸与に対する対価は、初年度のみ金500万デクスとする。2年目以降は事業体の営業利益の5%とする。支払いは年単位で締め、会計報告を実施後3ヶ月ごとに分割して支払う。ただし、初年度の対価は事業体に出資するものとする。


 契約日 ……9月15日


 デルヌ族代表 エリーカ・ランデルヌ(署名済み)

 政府代表 (署名未記入)


     ◇


 もう1通の書面も同じで会長の署名がある。


「ありがとうございます。速やかにストラーダ候に署名戴き、1通を御館へ届けます」

 会長は、優雅にカップを摘み、レダが淹れた茶を喫している。


「なんだ。契約書を貰いに来て、もう一度このおいしいお茶を飲めると思ったのだが」


 そうだな。レダの技術はかなり上達した。ユリのお茶には及ばない気がするが、好みの問題、あるいは俺の思い入れもあるだろう。


「パトリシアさんに、淹れて戴いたお茶はおいしかったですが」

「確かにな」

 エリーカ会長は、うんうんと肯く。


「ああ、そうそう。卿の裏書きも忘れないように頼むぞ」


 この契約書の裏面に、契約を企画仲介した証拠として、俺に署名しろと、会長は要求してきた。

 上司である宰相の署名があるのだ。俺の署名が有ろうが無かろうが、法的には関係ないと言ったのだが。それが、契約の条件だ! そこまでごり押しをされた。


 仕方ないので、ストラーダ候に頼み込んだところ……。

『ずいぶん信頼されて居るではないかと自分の署名は不要なのではないか?』

 嫌みを言われた。


「宰相閣下にも承諾戴いておりますので、そのように致します」


「うん。それで良い。この契約の件で、礼を言わなければならないな。アレックス卿」

「と、仰ると?」


「契約書の12条だ。金が無いと言っておったが、我らデルヌ族に出資させて経営と操業に拘わらせ、貸与料金を働かず手にするあぶく銭とはせず、事業へ責任意識を持たせることを目論んでおるのだろう?」


「お気付きでしたか」

 まあ別の理由もある。利益比例だと、最初は対価など出ないからな。事業に関わることで報酬も出せるからな。


「感謝する」

「そうだったんですね。アレックス卿。ありがとうございます」

 会長とパトリシアにお辞儀される。


「ああ、いえ」 

「とは言えだ! なんだか卿の掌の上で弄ばれているようで、少し癪に障る」

「そんなことはありません」


 ふふふ……。

 会長は機嫌良さげに笑った。


「ところで、事業体だったかの資本は、集まる見込みはあるのか?」


「ああ、それですが……」


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訂正履歴

2017/2/14 契約文の文法を訂正

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