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138話 交渉

 継ぎ目の無い樹の間を出ると、そこは普通の洞窟に見える。ここまで来た時の感じとはかなり違って凹凸が少ない。

 しかし、問題はそこでは無い。


──あれ、入口だよね。どういうこと??


 ああ。

 たった100m程先に見えている。

 信じられない。結構な時間、全力疾走したはずだ。しかし、この現実から考えられることは。


[亜空間だな]

──へ?


 亜空間を途中で繋げ、たったこれだけの距離を何時間も掛けて走る距離に変えていたのだ。多分あの台座が、この舞台を用意する魔道具なのだろう。


 他にも何か違和感があるが……まあいい。距離短縮は好都合だ!


 間もなく明るい場所が見えた。少し歩みを緩めた時、それまで俺の肩に乗っていたワイバーンのヒルダがすーっと滑空して先に行ってしまった。

 現金なヤツだ。

 俺も後を追って広間へ出た。


「レダ!」


 居た!

 アレックスの言う通りだった。

「はい? ああっ、アレク様!!! お帰りなさいませ!」


 手に持っていたティーカップを、俺が出掛ける前には無かったテーブルに置いて、こちらに向けてお辞儀した。


「レダ。やっぱり待っていてくれたのか?!」

「はい。なんだか、すぐにもお戻りになる気が致しましたので」


「こんなに汗を掻かれて」

 ハンカチで、額を拭いてくれる。

 抱き寄せたくなる気をぐっと抑え、頭を撫でてやるに留める。


「ありがとうな。今日だけでなく、いつも」

「アレク様……」


 レダは少し微笑んで、頬を紅くした。

 その時、無粋にも扉が開く。


「アレックス卿!」

 広間に、エリーカ姫とパトリシアが入ってきた。やや遅れて、重臣のザルタンに、肩で息をしている神官のフィリアスも続いた。


「これは姫様。ただいま戻りました」

「アレックス卿……」

 姫様、それに皆々驚きを浮かべている。


「良く戻られた。それにしても、早かったな。驚いたぞ。入ってから、たった1時間しか経っていないが……」


 1時間?

 俺の感覚では、試練の洞窟に入ってから2時間以上経っているが……でも、改めて感知魔法では言われた通りの経過時間だ。

 そう言えば、大母神が消えた時。得体の知れない違和感が有ったが。あの亜空間、距離だけでなく、時間も歪めるのか。


「卿のことだ、排除されて戻ってきたわけではなかろう」


 ああ。何か言うより見せた方が話が早い。

 俺は、貰った光る珠を、掌に載せて差し出す。


「むう。正に大母神様が授けて下さる物だ……」

 ザルタンが、視線を俺と珠の間を何度か往復させ感嘆した。


「アレックス卿。気を悪くしないでくれ。卿が戻って来たのが早過ぎてな、皆々驚いているのだ」

「はぁ。が、それほどのことなのですか?」

「これまで最短だったのは、姫殿下の3時間25分である。その半分も掛からなかったのだ」

 そう言われてもなあ……。


「それに、あの洞穴は、急げば急ぐほど道程は長く、阻止せんとするものも多く現れる……」


 へえ……、そういうことは先に言って欲しいものだが!


「ふむ。卿が学園に来た頃は可愛らしく見えたものだが。猫を被っておったのだな。今では魔人に匹敵するようにしか見えん」


 しばし、沈黙が流れたが。


「では、秘法供与の件を別室で打ち合わせよう」


 広間を出て歩き出す。


「姫様。お待ち頂き、ありがとうございました」

「うむ。レダ殿が動こうとしなくてな。ああ、妾の頭を撫でても、そのう……、苦しゅうないぞ」


「はぁ……」

「冗談だ!」

 何だか姫様の頬が紅潮して可愛かった。


     ◇


 主殿の4階の広間に移動した。ザルタン以外の重臣も揃っているようだ。

 ヒルダは、広間に出てから気配すら感じなかった。


「さて、アレックス卿。それに皆の者。改めて申すが、アレックス卿は見事試練を乗り越えた。よって、約定に基づき我らの秘法を供与する」


 数拍待ったが、重臣達から異議は出ない。


「ありがたく、存じますが。1つ質問があります」

「何か?」

「秘法とは有機化学の技術と以前伺いましたが、その根幹は合成などの反応を起こさせる魔法、そして魔道具である魔石のことでしょうか?」


「どうして、そこまで知って居る? なぜ気味が悪いほど博学なのだ? おかしいだろう?」

 エリーカ姫は、驚きよりも探るような眼差しだ。


「ああぁ、いいえ。知っているというか、大母神様から渡された、光る珠にびっしりと書かれていましたし、半分は推理です」

 まあ、大母神様に合ってると言われたしな。


「読んだのか、これを……どうやら嘘ではないようだな……はあぁぁ」

 えーと。溜息吐かないで貰えませんかね。


「うむ。皆の者! アレックス卿は、魔珠を読み、そして木精魔法を理解した」


 低く響めきが起こる。

 あれは木精魔法と言うのか。


「しかし、妾が、真に驚くのは、有機化学の知識を持っているということだ。魔珠を読めたとしても、その知識はどこから来た?」


 有機化学は、鉄鋼の致命的な問題である錆びを回避する有力な周辺技術だからな。最近共鳴の副作用を利用して資料を集め、必死で勉強した。さらに、曾祖父さんの遺産で、凄い魔法を見付けたのが奏功している。


 しかし。あまり警戒されるのはマズい。目的達成のために致し方ないところもあるが、俺も学習しないとな。あの言い訳をしておこう。


「私の曾祖父の一人は、ハーフエルフで錬金術師でした」


 セントサーペント……。

 重臣の一人がぽつりと呟いた。


「ふむ。そう言うことか」

 姫は、軽く頷いた。

 済みませんね。嘘を吐いて。


「そして、エルフの末裔として提案があります」

「聞こう」


「先だって、秘法の供与は先行投資と仰られました」

「うむ、申した」

「しかし、私が配当をお返しできる規模を、大きく逸脱しています」

 

「つまり、不要だと言っているのか?」

 姫の美しい目が、やや吊り上がっている。


「いいえ。供与ではなく、ルーデシア王国へ貸与頂きます」

「貸与?」

「はい。秘法技術の所有権は、デルヌ族のまま。使用させて頂きますので、対価を支払います」


 姫殿下は、眉根に皺を寄せる。


「提案の趣旨が理解できぬ。どうだ、ザルタン。分かるか?」

「いえ。分かりませぬ。貰っておけば、良いのにとしか」

「であろう?」

 姫は他の重臣の方へも顔を向けたが、誰一人意見を述べなかった。


「まず私は、この秘法の価値が分かります。使い始めれば、多くの富を生み出すでしょう。そして、あなた方が失策であったと気が付き、使用者を恨むことになるでしょう」


「妾は、そのように狭量ではないぞ。まあ色々強請ねだるだろうが……ふふふ」


「ええ、姫様はそうでしょう。でも、ご一族もそうでしょうか?」

 少し怒ったようだ。

 集っている者を見渡す。


「さあな。だが、そこまで言うので有れば、そなたが代理人をやっている政府に支払いさせれば良いのでは無いか?」

「その通りです。が、政府は、いえ、おそらく錬金術師でも無ければ、秘法の価値が現段階では理解できないでしょう。間違いなく買い叩かれます。政府といえども鉄の投資につぎ込んでいる以上、すぐには大金は出せませんし」


「そのようだな」

 勢いが消えた。


「だからこその貸与です。事業化して価値の高さを周知させてから回収するのです」

「ふーむ。話は分かったが、卿は誰の味方なのだ?」


「さて……私が好きな者、セルレアン、今はルーデシアでしょうか」


「大きく出たな」

「ええ、ですから。デルヌ族の皆さんの味方であるつもりです」


「ああ、それは秘法の扱いでわかった」


「では、2つ目の提案を!」

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訂正履歴

2017/02/08 記録時間を下回ったとの表記が、心証として分かりづらいので変更。

2025/09/23 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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